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いやな予感というものは、どうしてこうも当たってしまうのか。


「大丈夫なのか」


『俺がやらなきゃ誰がやるんだ』


分隊長の重みを知ったハイネだが次の壁外調査までには立ち直ることが出来たようだ。
同じ部屋でガチャガチャと立体機動装置をつける。
お互いにバラバラの班になってもこうして自分の部屋に戻ればお互いに会える。
お互いに強いことを理解している。


「ハイネ」


だが、こんな世の中では何がどう起きるか分からないから。


『ー…』


胸倉を掴んで屈ませて唇にかみついた。
視界に入ったのは見開かれた瞳ではあったが抵抗するどころか俺を受け入れるように胸倉を掴んでいる俺の手に自分の手をそっと重ねた。
コチコチと部屋の壁に掛けられた時計がやけに大きく聞こえ、短く感じた長いそれを止めて部屋を出た。





今日の任務はエレンの家の地下に向かうためのルート探し兼、エレンの実験。
班は違えどほぼ一緒にハイネの班と行動するようだ。
規模は大きくエレンだけではなくエレンの同期生やハンジやまミケの班までともに行動する。
どれだけエレンが人類にとって重要なものかを表したかのような人数であった。


「まずは現状の把握とエレンの家に向かうルートの探索。直接的に行くことは困難とし以前エレンが岩で塞いだ穴の通過も不可と考えて他のドアから出てどのルートが良いか何日かにわたって調査する!!」


エルヴィンの言葉が終わると同時に門が開く。
ハンジの荒い呼吸はここまで聞こえるしエレンとエレンの同期生の緊張で息をのむ音も聞こえる。
俺の斜め後ろにいるハイネを見ればいつもと変わらない平常心を保っていた。

馬が走り出す。
後ろにはエレンやペトラたちが続く。
そしてそのさらに後ろからハイネとハイネの班が走ってきていた。
まるで俺の班にいた頃のように感じた。


「巨人複数出現!!」


こんなに人間が群がっていたらその分だけ巨人もくる。
当然で分かり切っていたこと。


「ハンジとミケの班は左側から、リヴァイとハイネの班は右側から回れ!!」


エルヴィンは真っ直ぐ突き進み、三つに分かれた。
分かれることで巨人を分散させて被害を小さくするようだ。
幸い建物の多い場所。
立体機動装置を使うにはうってつけだ。
このまま回ればいずれ再び合流すること後出来るだろう。
これを巨人が多数現れたときにのみ何度も繰り返す。
力の分散で被害はあまりでない。
そう、奇行種さえでなければ。


「無事合流できたな、さぁ進むぞ」


巨人をある程度倒し終えて馬を走らせていると前方にエルヴィンたちの班が見えた。
左側にはハンジたちも見える。
後ろを確認すればキチンとハイネも着いてきていた。


(くそ、別に心配しなくともあいつは強いだろうが!!)


何故こうも自分が確認しなくてはならないのかと内心舌打ちをした時だった。


「奇行種です!!」


その叫び声にいち早く反応をしたのはハイネだった。
馬から立体機動装置で飛び上がると迷うことなく奇行種に向かっていく。
奇行種はとても重要な資料になると同時に多くの犠牲を生みかねない。
団体行動で目的があって動いているときは少しでも被害をなくために実力者がすぐさま殺しにかかるのが先決と言える。


『リヴァイ!!』


「!」

奇行種は奇行した。
突然俺たちの方向に向かって大きく口を開けたのだ。
どうやってあんな気色悪く動けるのかが謎だ。


「大丈夫だ、問題なー…」


そのとき、全てがスローモーションに見えた。
ハイネが立体機動装置の方向を変えると物凄い勢いでコチラに向かってくると奇行種の首を削いだ。


「ハイネー…」


そして奇行種のせいで見えなかった3メートル級の巨人にハイネは喰われた。
周りに他に巨人がいなかったためかあのエルヴィンも止まった。
あの最強になり損ねた天才が喰われた瞬間だった。
ソイツも奇行種なのか可笑しな動きをして走り去ろうとした瞬間、口がばかりと開いた。


「ハイネ!、今すぐ出ろお前ならー…」


巨人の口を剣でこじ開けたハイネは首を横に振る。
なぜ、その声が出ない。
再び巨人たちが周りに集まってきている。
確かに片手で巨人の上顎を支えていたら出れないかも知れないがハイネは強い。
あそこから立体機動装置を使えば難なく出れるはずだ。

「まさ、か」


立体機動装置の故障ー…?


俺は立体機動装置を起動させた。
俺は後悔していた。
俺はハイネを信頼しすぎていたのだ。


『リヴァイ、立体機動装置ぶっ壊れて変な風に動いて真っ直ぐ飛べねーや、リヴァイのは大丈夫か?』


「てめ…!」


ガクンッと立体機動装置が上手く動かなくなった。
上手く近寄れない、後少しで届くのに。


『リヴァイ、言いたかったことがあるんだ』


あのときハイネの立体機動装置が俺を襲った奇行種に迎えたのは故障だったのか。
立体機動装置が急に軌道を変えるのは難しい。
何よりもハイネは俺を助けなくとも俺が強いと知っているから助けに行くだなんてしないのだ。


『俺は、もしかしたら、本当はずっとリヴァイのことがー…』


やめてくれ、いくな、言うな。
お前は俺の、

「ハイネ!!」


壊れて使い物にならない立体機動装置を捨てて走る。
そして手を伸ばす。
そのとき、初めてハイネの目から頬に伝うものを見た。

ごくり、


「ハイネ、ハイネっ、ハイネ!!」


飲み込まれたハイネを連れて奇行種は走り去ってゆく。
地上に降りた俺は立体機動装置を殴った。
誰だ、俺とハイネの立体機動装置を故障させたのは。

アイツは最後に何を言おうとしたんだ。
ワカラナイ、

はっと顔を上げれば他の巨人たちがいる。
もう皆、戦っている、食われてる。


(…ハイネ!!)


悲しむのは、今じゃないと予備として持ってきていた立体機動装置を取り付けて空を舞った。

言えなかった告白



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