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『ん』


「ああ」


コーヒーを受け取り自分の傍にあったミルクを取りハイネに渡した。
コイツはシュガーは入れないがミルクは入れるのだ。
『ん』と受け取るとトポトポとコーヒーに入れてぐるぐるとかき回している。
猫舌のこいつは直ぐにコーヒーを飲めない。
だからミルクとかき回すことで早く熱を冷ましているのだ。
お互いに長い間嫌悪し合っていたものの、お互いをよく知っていた。
何も言わなくとも表情で分かる、毎日の行動パターンを見ているから分かる。
出会ったばかりの頃はどうだっただろうか?
まだ俺に成績が抜かされると知らなかったときは『コーヒーに何入れる?』と聞かれた様な気がする。
そのときは「何も入れない」と答えてからずっと変わらない。
何年も付き合ってきたからだろうか。
それともー…


『リヴァイ、』


「分かってる」


どうせ俺たちの立体機動装置を壊した人間をそろそろ特定しなければ不味いとか、そんなところだろう。


『いやな予感がする』


「あ?」


『この世界は弱肉強食で残酷だ、もしも巨人が補食のために人類を襲っていたのならば俺は巨人を憎めなかった。人間はいや、生きるものは皆、強いものが弱いものを食べる世界なのだから』


だけど違った。
消化器官もなく何も食わずに生きることの出来る巨人は殺戮のためだけに人間を殺す。
しかし動物は殺さない。


『何度か考えたことがあるんだ、これは生態系を壊す人間への怒りを表したのではないかと』


人間が生まれなければ世界の空気は汚されなかったのかもしれない。
俺達がこの世界で一番いてはならない存在だと神が決めて俺たちを壁の中に閉じこめたのかもしれない。
もう外に出て好きかってしないように。
人間は罪深い。
一部の人間しか動物の命を直接的に奪っていない。
それを知らない人間は喰らい、そして笑う。


『俺は料理が好きだ、食べることが好きだ、それだけで良かったはずなのに人間は同族同士で嫌悪し合う、前の俺とお前のように』


自分たちが毎日当然のように奪っている命に何の興味も持たずにさらに欲を生み出す。
罪だ、もしかしたら罪なのかもしれない。
神が全てリセットをしてやり直そうとしているのかもしれない。
日常的に起こっていた弱肉強食から目を反らしてはならなかったはずなのにー…。


『俺たちの立体機動装置を壊した人間を探している間に思った』


「…言ってみろ」


『俺は他人を信じるのが怖い、何時後ろから襲われるか分からない』


そう言えば、と思い出した。
こいつは確かに前の飲み会でチビリチビリとしか酒を飲まず絶対に人前で酔わないようにしていた。
もしかして、あのときからずっと他人を信用しなくなってしまったというのだろうか。
…そして俺の前で酔った意味は、


「仲間同士で殺し合うのは下らねー、だが仕掛けたのは相手からだ」


人類最強と人類最強になり損ねたハイネの立体機動装置に小細工をするなんてある意味勇気だけはあると誉めてやろうか。


「気を張り詰めすぎると精神が壊れる、そんなに不安なら俺から任務のとき以外離れるな」


『は?、リヴァイがやってない証拠がないだろうが。そんなの信じられるかよ』


「言っただろ、ハイネは俺が殺す、だから他人にましては巨人でもない奴に殺されるなんて許さねー」


ハイネはすっかり冷めてしまったコーヒーを飲む。


『ならリヴァイは俺が殺してもいいんだよな?』


「好きにしろよ」


この命は公のために捧げてしまった。
ならば息の根を止める瞬間くらいは最後の願いとして他人に捧げてしまっても文句は言えないだろう。

言葉なんてものは要らない。



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