20

こんな自分、情けない。
一番嫌っていた人間に何故俺は弱みを見せているのだろうか?
自分の力量に自信がないわけじゃない。
リヴァイと比べられたらアレだけれども一般兵と比べたら力の差は歴然である。
だけど、だけれども、突然不安になった。
人の命を背負うことが怖くなった。


(俺も所詮はただの人か)


この重みに耐えられるか、答えは否だ。


「ハイネがやらなきゃ誰がやる?押し付けるのか、他人にこの重みを」


『そ、なわけ』


「逃げるな、前を見ろ」


(うるせーよ、)





数年前。
リヴァイと俺は出会った。
訓練兵として優秀だった俺の前に突然現れたのがリヴァイだった。
エルヴィンが地下から連れてきたらしい。
突然現れたソイツに上位を奪われて人類最強の言葉も奪われた。
悔しくて悔しくて、イライラして。


『リヴァイ!勝負しやがれ!!』


「あ?またか」


食堂では俺の叫び声を聞いた同期生が「やれやれ懲りないな」と薄ら笑いを見せた。
今思うと俺も若かった。

組み手や立体機動装置を使った訓練のテストの時、何時も俺はリヴァイと競っていた。
でもいつも見ていたのは、小さくも大きな背中。
どんなに頑張っても追いつけない追い越せない。


(畜生、)


でもその背中を見るのが別に嫌いだった訳じゃなかった。
むしろ、いや、これはいい。


「…い、おい!!」


リヴァイの声にはっとする。
どうやら過去を思い出してボーとしてしまっていたようだ。
『なんだよ』と問えば「いきなり上の空になったからだろうが」た頭をはたかれた。


『リヴァイ、』


「あ?」


『明日には今までの俺に戻るから、今日だけは俺をハイネとして見ないで』


リヴァイの目が見開かれた瞬間に俺はリヴァイを正面から抱き締めて首筋に顔を埋めた。
鼻をかすめる石鹸のニオイ。
ベッドに座っているからさほど身長差は気にはならない。
不安で押しつぶされてしまいそうだった。
今日だけはハイネを辞めて、通行人Aになってしまおう。
リヴァイは俺の行動に答えるように背中に腕を回した。


「不安か、」


『でもリヴァイなら俺を受け止めてくれる』


一瞬だけ回された腕がピクリと反応した気がした。


「なんで、俺なんだ」


『そんなの知るか、でもハンジやエルヴィンじゃ駄目なんだ、俺は、リヴァイじゃないと駄目なんだ』


普段言わない言葉。
明日にはいつも通りの俺でいるから今日だけは不安に押しつぶされてしまう前に。


『お前の事が嫌いだ、死んじまえばいいと思ってる、でもそれ以上に、信じてる』


「…あぁ、」


俺もだ、と俺はリヴァイに押し倒された。
視界がグルリと反転して天井とリヴァイの顔が見える。
なんだ、これは。


『お、い』


(つ、よ)


体格はどう見たって俺の方が良いはずなのにリヴァイの力にかなわない。
この前もこうやってリヴァイにー…


『!』


リヴァイは俺の両手首に巻かれた包帯をほどくと傷がすでになくなっている手首を見つめた。
リヴァイに付けられた傷が治っても俺は包帯を巻き続けた。
その行動の意味は自分でも理解していないが無性にそうしたくなってしまったのだ。


『、なに、リヴァ、』
リヴァイは俺の手首を自分の唇に寄せると噛んだ。
痛くない、甘噛みのようなものか。
チュウッと耳をふさぎたくなるような音がしてから手首は解放された。
見ると赤い痕が残っていた。


「…お前は何時か俺が殺すだから、」


ドサリと倒れたままの俺に覆い被さるように倒れてリヴァイは耳元で囁いた。


「死ね」


『ー…』


心地いいと感じたテノール。
俺は抵抗する力を緩めた。


『リヴァイに殺される前に俺がおまえを殺してやるよ』


そうやって、俺は今日初めて自分から口付けた。

これが恋だとは知らず
毎日戦う世界で恋愛をまさか自分達がするとは思えずにリヴァイとハイネの中には"恋"の言葉は存在していないが本能では理解している



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