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ハイネの隊が帰ってきたのを確認できると俺はらしくなく、息を吐いた。
ハイネが俺の隣にいないだけでこんなにも不安になるのと似たような感覚になるとは思わなかった。
「死ななかったようだな」
精一杯の言葉だった。
『うるせーよ』と返ってくるかと思ったがハイネはゆるりとコチラに視線を向けると『うん』と返した。
何かあったのではないかと思い問おうとしたが人目が多いこの場所では言えたものではないと開きかけた口を噤んだ。
報告会議が終わり次第、ハイネの部屋に向かおうと馬から下りた。
▽
会議中もハイネは上の空だった。
エルヴィンがどうしたのか、と聞いても『何でもない』の一点張りであった。
エルヴィンが俺に視線を寄越す。
言われなくても俺しかハイネの本音を聞ける奴はいないだろう、そんな優越感に浸りながら頷いた。
会議が終わると真っ先にハイネは部屋から出て食堂へと向かいコーヒーを貰っていた。
俺も同じようにコーヒーを受け取り隣に座るとハイネが一瞬だけコチラを見た。
俺と確認するとコーヒーを啜った。
「何かあったのか」
『別に』
「そうか」
ザワザワと騒がしい食堂で俺たちの空間だけが酷く静かに感じる。
気付いたらお互いに20分近くだまり続けていて熱かったはずのコーヒーもすっかり冷めてしまっていた。
今日は理由は聞けないか、と明日になって落ち着くまで待とうと判断し立ち上がるとギュッと服裾を掴まれて再び席に戻された。
「…ハイネ?」
『…行くなよ』
こんな酷く不安げな声色を初めて聞く。
「ここじゃあれだろう、」
『なら、俺の部屋に来てよ』
お互いに人をまとめる位置に属している。
だからこそ見せられない。
上に立つものが威厳をなくしてはならないのだ。
すっかり冷めたコーヒーを戻すとハイネの自室に向かう。
部屋に入ればスプリングが相変わらず弱いベッドに二人で腰掛け再び沈黙の時間となった。
ただ食堂と居たときと違うのはハイネの手がしっかりと俺の服を掴んでいたことだ。
『リヴァイ、俺…』
ハイネの発言により沈黙が破られた。
『怖い』
その一言で全てを理解した。
上に立つものだけが感じる人の命を背負う感覚。
俺だって今も感じる感覚である。
自分の決断に間違いはないのか。
この一言で後ろにいる奴らの生死が変わるのか。
酷く重い、他人の命を背負うことが恐ろしい。
「そんなのは、お前だけじゃない」
『リヴァイもなのか』
「でも、俺達がやらなければ誰がやる」
『ー…』
無駄にでかい身体が俺に覆い被さる。
サラサラの髪が俺の首筋に当たる。
「良い歳して甘えてんじゃねーよ」
そんな言葉とは裏腹に俺はハイネの背中に腕を回した。
デカい背中、だけれど弱々しい。
そんなコイツに酷く、惹かれている。
(この、感情は、)
この感情は何なのだろうか。
モヤモヤしてイライラが募る。
だけれどもお前がこうして俺の傍にいてくれるときは、とても嬉しい。
「ハイネ、」
俺は何故こうも衝動的にハイネの唇に自分のそれを重ねてしまうのか。
そしてお前も抵抗しないことに喜んでしまう自分が分からない。
この感情に名前をつけるなら