13

俺の班からハイネが抜ける。
そんな言葉を聞いた瞬間、失望感に襲われた。
確かにエレンを監視、護衛には俺とペトラ達がいれば十分かも知れない。
しかしハイネは調査兵団に配属してからずっと俺の傍にいたのだ。
それを今さら、
だけれどハイネにとっては良い話しだろう。
俺が嫌いなんだから、今すぐにでも頷くと思っていたのに。


『俺は、分隊長にはならない』


ハイネが出した答えは俺が考えていたものとは真逆の答えだった。
俺は反射的に立ち上がる。
ハイネの顔色を窺うと自分でも何故言ったのか理解していない表情をしていた。


「ハイネ、リヴァイに憧れているのは分かる、だけれど―…」


『俺があんなチビに憧れてる訳ないだろ!』


その言葉にはイライラとしたがハイネの困惑している表情に暴力を振るうのは止めた。
俺に憧れてる?アイツが?


「頼む分かってくれ、調査兵団にとってこれは平等にパワーを分ける―…」


俺は、ハイネの腕を掴んだ。
俺が付けた痕が残っているであろう包帯の上を避けて。
エルヴィンが、い やハンジもミケもハイネも驚いた表情で俺を見下げた。


「ハイネは俺の班員だ」


それだけ言って会議室から出た。
廊下をガツガツ歩いて俺の部屋に押し込んだ。
転けて床に尻をつけたまま俺を見上げるハイネを無視して部屋の鍵をかけると電気を付けた。


『勘違いすんな、俺がリヴァイ班にいるのは移動が面倒だからだ』


「構わん」


『憧れて、つーのはエルヴィンが勝手に言った事だ』


「ああ、それでいい」


お前が俺の傍でグチグチ文句を垂れていれば、それでいい。
俺は衝動的に口付けた。
二度目となるそれは初めてした時の荒々しいものとは違い、酷く優しいものだった。
お互いに唇を離すと無言のままで。


「―…死んじまえよ」


『お前がだろ』


やっと出てきたのは何時も交わす言葉だった。
何故お前は分隊長にならなかった?
何故離れない?
何故俺はこんなにも期待している、何に期待している?
この感情は、何なんだ?


『リヴァイ、』


「何だ」


『今日、ここで寝る』


「― は?」


いいだろ、と言ってドアを顎で指す。
確かに俺は部屋の鍵を閉めたが。


『今日一緒にいれば何か理解出来る気がした』


俺たちはずっと避けてきたから、こうやって2人きりでゆっくり話す時間も作らなかっただろ、と言われて「まあな」と曖昧な返事を返すとハイネは床から立ち上がってボスリとベッドに座り直した。
もしかしたら俺もこの気持ち悪い感情の答えが出せるかもしれないと制服を脱いだ。(ハイネは会議室に呼ばれた時から私服だった、おそらく訓練する気がなかったのだろう)
お互いに食欲がなく、日が落ちるのを見ながらポツリポツリと話し始めた。
ハイネは昔実は料理が絶望的に下手だったとか俺は昔はゴロツキだったとか、下らない事ばかりを。
この噂は調査兵団の中ではよく知られているものだったが俺たちは知らなかった。
それくらいにお互いを理解していなかったのだ。
ただ理解していたのはお互いの強さだけ。


『―…寝るか』


「ああ、」


時計は夜遅くの時刻を指していた。
スプリングが弱い支給されたベッドに男2人で寝そべると窮屈だが仕方ない 。(部屋にはこれ以外寝具がないのだから)


『明日、何時起きだっけ』


「…7時半には会議室だ」


『俺も?』


「ああ」


そう、とお互いに背中合わせのまま会話をして。


『目覚まし、かけといて』


「俺が起こしてやる」


『ん』


おやすみ、と小さな声でハイネは言うとモゾモゾと掛け布団を頭から被り、暫くたつと規則正しい寝息が聞こえた。


「…」


俺はそっと振り返り、ハイネの頭を撫でた。


初めて知った君の事



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