Blackberry winter
02 いまごろの季節


 12月24日、その日は雪が降った。
 この地域に12月に雪が降るのは珍しく、ホワイトクリスマスの予感に人々は賑わっている。少年は、昨夜急に冷え込んだと思えばこの天気だ、と溜め息を吐いた。
 その日、少年はポロニアンモールへと訪れた。中央にある噴水がより寒さを誘う。少年は人ごみから外れ、ベンチに積もった雪を手袋をした手で払い、そこに座った。
 厚手のコートに手袋とマフラー、そういう格好でもこうしてじっと座っていると冷えてくる。まして、少年の隣に座っている彼はシャツにマフラーを巻いているだけだ。この気温にその格好は本人だけではなく周囲も寒くさせている。
「いると思わなかった」少年はそう呟いた。
「来ると思わなかった」彼はそう笑った。
 少年はこの日、彼―望月綾時と約束をしていた。それは、満月がやってくる前のことで、満月の夜を境にこの約束は破棄されたと思っていた。それでも、少年は"望月綾時"という人物が確かにいたことを感じたくてここに来た。まさか、デスとなった彼が来てくれるとは思わなかった。
「ねえ君は、望月綾時と今日ここで会う約束をしていたんだよね」
 彼は迷子のような子供の目で少年を見ている。彼の言葉の真意を読み取ることはできなかったが、少年は頷いてみせた。そうだ俺が約束したはの望月綾時、お前だ、と。そうすると、彼は長いこと離れていた親をやっと見つけたように目を耀かせ、少年の手を取った。手袋越しではその体温は伝わらない。
「じゃあ、じゃあさ、君は望月慮時と今日会うためにここに来たんだよね」
 少年は頷く。
「なら、今、ここにいる僕は望月綾時だ」
 ニュクスの子供であるデスでも宣告者でもない、望月綾時とは彼がただの人間であるというキーワードであった。
 少年は彼に手を離させた。それから、両手の手袋を外し、もう一度、今度はこちらから少年の手を取った。彼の手を両手で包む。こんな雪空だ。彼の手はとても冷えている。
「ありがとう。あったかいや」
 まるで子供のように笑う。彼の笑顔はいつだって深夜の小さな友人を思い出させる。
 雪は降り続いている。互いの手の温度は交じり合い、同じになった頃、彼は「僕、君のことが好きだ」と言った。
「うん。好き。とても、好きだ」
 そして、確かめるように何度か繰り返した後、それは「好きだった」という過去形へと変わった。少年は「ああ」と思った。
「いまさら、だ」
 そう小さく言ったときには、すでに他人の温度は消え、半端に冷えた手だけが残った。
 今日は12月24日、天気は雪。この分だと明日まで降り続けホワイトクリスマスとなるだろう。
 そうしたら12月31日はもうすぐだ。


綾時と主人公・12月24日、ポロニアンモールでのこと
2012/1004
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -