お腹すいたなあ。
ぼんやりと、そう呟いた彼女の口元は、醜く歪んでいた。その造形は、どこか、モナリザを彷彿させる一方で、口裂け女の印象が僕の脳内を掠めて通っていった。しかし、だからと言って、彼女の存在に多くの謎が隠されているわけではないし、ましてや「ポマード」と言えば消えてくれるわけでもない。彼女はただの人間だ。動物界脊椎動物門脊椎動物亜門哺乳網霊長目真猿亜目峡鼻下目ヒト上科ヒト属ヒト種だ。ただ「普通」ではない、と言うのであれば、性質というのか、性癖というのか、僕に対する「執着」だと思う。
「ねえ、お腹すいたよ。」
「まだ、食べるの………?」
「食べるよ、お腹すいたもん。」
寸分の狂いもない笑顔を、ナイフとフォークを手にしながら作る彼女。その手には凶器、その目には驚喜。僕は、言った。
「今日は何が食べたいの。」
彼女は、少し考え込んでから、こう答える。
「1つしかないもの。この世に、たった1つしかなくて、美味しいもの。」
「………そう、か。」
「うん。たまには贅沢しなきゃ」
人間、というものは。
目は2つある。腕は2つある。脚は2つある。
僕に限って言えば、目と腕は1つしかないし、脚はもう両方ないのだけど。彼女を愛しているから問題ない。問題ない。
「どうやって、食べたいの?」
「出来れば、一口で、がぶり、って。」
僕は彼女を愛してるから、彼女のために死んでもいいから、彼女を満たすために。
「ほら、はやくはやく、」
彼女の催促に従って、僕は無い脚を開く。
ひたり、冷たいナイフの感触と。つぷり、尖ったフォークの感触と。綯い交ぜになって、至極の快楽になる。彼女を愛しているからだ。
「いただき、ます。」
彼女の吐息が聞こえた。
「ごちそうさまでした。美味しかったよ、あなたのペニス。……………、って、もう聞こえてない、のか、な…」
明日は頭を食べよう。
* * * * *
保坂さん、リクエストありがとうございました。返品可です。
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