「このまま死んでしまえたらいいのにね。」

目の前に横たわる彼女は僕にそう言った。至極真面目そうな表情と口調で。休日の午後、何をするわけでもなく二人ベッドに寝転んでいた。彼女はふと思い出したように。

「突然だね。」
「うん、何もしないで、こうやって二人で、のんびりしてるのが、とても幸せっぽく思ったから。」

目を伏せて、ふふっ、と笑う彼女に僕は言う。

「幸せなのに、死んでしまえたら、って?」
「二人で同時に幸せなまま死ねたら、きっと、もっと幸せでしょ?」

柔らかな午後の光が、彼女に差し込んでいる。長く細いまつげを照らして、白い肌に影を作る。たしかに、幸せだろう。

「心中でもなく、どちらかが置いていかれるでも置いていくでもなく、一緒に死ねるの。」

白いシーツに彼女の栗色の髪の毛が広がっている。同じシャンプーを使っているはずなのに、自分からするにおいと違う気がするのは何故だろうね?とてもいいにおいなんだ。

たしかに、ほんとうに幸せだ。

「じゃあさ、今度、スカイダイビングに行こうか。」

何の迷いもなく僕の口から出た言葉に、彼女はきょとんとした。そして不思議そうな顔で、すかいだいびんぐ、と僕の言葉を反復した。

「二人で、同時に、飛び降りるんだ。死に近い感覚かもしれないね。でもパラシュートがあるから死なない。」

僕はまだ君と生きていきたい。死にたくはない。決して。もっといっぱい、手を繋いで、キスをして、なんでもないような時間を(例えばこんな感じで)過ごしたりして、たまには喧嘩して、けど結局仲直りしてセックスする。そんな風に、君と生きてたい。

「だから、臨死体験、しに行こう、僕と。」

きゅ、っと彼女の小さな手を握る。それが合図だったかのように、まるでプロポーズだね、と笑われた。こんなムードの欠片も見当たらないプロポーズで良かったら受け取ってもらいたいけど、流石にやだなぁ。

「臨死体験、しよっか。」

彼女は閃いたみたいな顔で僕にそう言い、次の瞬間にはベッドを降りていた。どこに行くのかと聞けば、スカイダイビング!検索する!、と、意気揚々とパソコンの電源に手をかけているのだ。

彼女がダイビングするのを、地上で眺めたい、と、少しだけ思った。きっと天使か何かに見えると思ったんだ。

ほんの、少しだけ。



* * * * *
ただただ幸せなだけのお話だって書ける。(書けてない)




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