「俺さ、家業継ぐことにしたんだよね。」
「あんだけ嫌がってたのに?」

成績優秀、野球部キャプテンにして優秀なピッチャー、”容姿端麗”というよりは野性的で持てるタイプ。そんな奴が、そう言った。

「なんだっけ?伝統工芸作ってるんだっけ?」
「そうそう。」

伝統工芸なんてだせーし、と言って馬鹿にして笑ってた去年の夏を思い出した。野球選手になりたいから、とかは言い出しはしなかったが、代わりに教師になりたいから大学に行くと言っていたことも思い出した。

「教師になりたい、ってのはどうなったんだよ。」
「うーん……なりたいのはなりたいんだけどさー…なんて言うかなぁ…」

言葉を探して天を仰ぐ。2回戦で負けたとは言えど、夏の日差しの中で最期まで野球をやりきったその肌は真っ黒だ。

「教師って、まぁ、その気になれば誰にでもなれるチャンスはあるじゃん。」
「その気になればな。」
「うん。でも、伝統工芸品を作る、って仕事っていうのは余程興味があって弟子入りするとか、俺みたいな家業としてじゃないとチャンスってないじゃん。教師よりも人数絶対少ないじゃん。」
「まぁな。」
「珍しい物見たさとかじゃないけどさ、そっちに進みたいなーって。」

俺は、なるほどなー、とどこまでも無難な返答をした。奴は野球以外に関する言動はふわふわしてるくせに、四六時中正義感と責任感を持ってるような人間だから、自分が継がないと家業が潰れる、とでも考えたんだろうな。そういう感想を抱きながらの返事だったからだ。

「家族はなんて言ってる?」
「なんか…喜怒哀楽……を集約したようなかんじで喜ばれた、かな。」
「喜怒哀楽の”喜”って喜びだよな…? ”骨を骨折した”的な状態になってるぞ。」
「で、でもほんとにそんなかんじだったんだよ!!」

親父なんかしばらく固まってたし、と思い出し笑いをする奴は、自己犠牲を犠牲だと思わないような奴だから、仕方ない。

「……野球は、いいのか?」
「あー、うん。野球も教師と一緒かなー、って。野球推薦も誘われたんだけど、やろうと思えば草野球でも出来るし。」
「まぁなー。野球推薦の話は初耳だったけど。」
「え、まじで?ごめん。」

俺に言う義理も無いけど、ちょっとくらい話してくれてもいいだろー。そう言ったら、変に受験に対するプレッシャー与えたら申し訳ないし、と苦笑していた。

「もったいないなぁ、野球推薦断るとか。」
「家のことがなくても断ったよ、野球推薦は。」
「なんで?」
「お前以外とバッテリーなんて組める気しないから。」

どこまでも不幸せな幸せを追い続ける幼馴染みのピッチャーの中で渦巻く感情をも受け止められるほど、俺は優秀なキャッチャーではないというのに。





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