彼は10年近く家に引きこもっていた。
「俺はまだ世間に出られる状態じゃない。」
「時間が俺に追い付いていない。」
それが彼の常套句であった。

周りの友人たちは次々と世に出て、人生を謳歌した。
彼は、それを羨ましく思う反面、
「俺は知っているぞ。どんなに人生を楽しもうとも、最後には死ぬということを。」
などと、哲学者を気取っていた。

そうこうしているうちに友人たちは所帯を持ち、子を成した。
中には、不運にも独りで死んだ者もいた。
それぞれの生き方をする友人たちの噂を聞いて、彼はまた考えた。
「俺はそんな普通の人生を送るつもりはない。美しく、華麗に生きて、良き妻を見つけ、良き子を成すのだ。」

友人たちの噂もあまり聞かなくなった頃、彼は、ようやく世間に出る時が来た、と考えた。
遂に俺の時代が来たのだ、と。

満を持して、扉を開けた。
とても、寒かった。

彼は他人に踏み潰され、凍えて、死んだ。





* * * * *
とある愚かなニートの一生。





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