コンクリート造りの真っ白な部屋。デスク、ソファー、時計にカレンダー。それくらいで構成された薄ら寒い僕らのオフィス。

たった二人のオフィスだけど、それだからいい。

「用意できたか?」
「うん、ばっちり。」

黒いスーツに身を包み、懐には某ガンマンに憧れた僕の恋人・コンバットマグナム。目の前の彼は日本刀を背負った。

銃刀法?
知らないよ。

「野郎は?」
「今、国道×号線を北上中。」

このスピードだと、30分くらいで指定の場所に来れそうだね。

僕はパソコンを開いて、野郎の車に仕掛けたGPSを目で追った。

「全く………こいつみたいな奴と俺らと、何が違うのかねぇ。」

己の不規則に伸びきった黒髪をかき回しながら彼は言った。

「いきなり、どしたの。」

ピコピコと点滅するGPSにデコピンを喰らわして、退屈そうに(今から仕事だけど)欠伸をして、彼は答えた。

「こいつと俺らがやってることは、そんなに変わらない。」
「そうだねぇ。高い金踏んだくって、ヒトゴロシだもんねぇ。」
「なのにこいつは堂々と外を歩ける。」
「だねぇ。僕らは日陰者だから。」
「しかも運転手つきだぜ?」
「う、ん?僕がペーパーなのが気に入らないのかな…?」

恋人に手が触れた瞬間、彼は慌てて弁解してきた。

「つまり何がいいたいのさ。」

僕は結論を促した。そろそろ行かなきゃ間に合わないし、彼の話は元来回りくどい。

「俺さ、」
「うん?」
「今日の仕事終わったら、足洗おうと思う。」

「二人で一人、って、君が言ったんだよ?」

オリンピックを最後に引退します、って会見開く選手みたいな彼に、僕は不満をぶつけるしかなかった。

彼が過去に僕をこの世界に誘い、そう言ったのは確かだから。その彼が、一人足洗って、僕を一人にするのはあまりにも理不尽だろう?ねぇ?

「お前一人この稼業続けろなんて言わねーよ。」
「じゃぁなに?」
「この仕事が終わったら二人で静かに暮らそう。」

お前のマグナムも、俺の日本刀も必要ないどこか遠くの山奥にある別荘でも買って、穏やかに、静かに。

「……………………別荘なんて買うお金あんの…?」
「依頼金、報酬、追加料金、その他もろもろ何かと理由をつけと金持ちから踏んだくった法外な金があるだろ。」
「でも………」

僕の反論は、彼の腕時計についたタイマーにかき消された。

「そろそろ行くか。」
「ぇ、あ……」
「もたもたしてんじゃねーよ、死ぬぞ。」
「う、ん、ごめん………」

夏休み前の小学生みたくウキウキしてる彼の背中を見て、仕事終わりには物件探しかな、と思った。





* * * * *
お世話になってる保坂さんに。





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