君を知らないオレと、オレを知ってる君と
「黄瀬くぅぅぅん!!」
「…ッ!?」
ある晴れた日の朝。
今日も海常高校へ登校中のオレを呼ぶ声に、顔が引き攣る。
彼女はいつでもオレの側にいる。
ファンの子たちから逃げることなんて日常茶飯事だから、逃げることには少し自信があったんだけど…。
「黄瀬くんは今日もかっこいいね!荷物持とうか?」
この人――高塚由紀――だけはどうしても逃げきれない。
高塚さんはオレと同じクラスで、しかも現在隣の席だから嫌でも毎日顔を合わす。
部活中も授業中も休み時間も昼飯の最中もずっと彼女の視線を浴びているオレはどうしたらいいのか、というのが最近の悩みだ。
前に一度、彼女にオレのファンなのか聞いてみたことがあった。
その時の彼女の反応は、一瞬大きく目を見開いたあと爆笑しながら“ファンなんかじゃないよ!”と言っていて、あまりに笑うから不覚にも傷ついた記憶はまだ新しい。
オレは彼女の言葉を受け流しながら昇降口に着いて靴を履き替え、バスケ部の朝練に向かう。
高塚さんがそんなオレの後ろに着いて体育館へと向かってくる姿が横目で見える。
朝練もしっかりチェックしにくる彼女をもう止める気にもなれなかった。
今日も高塚さんの視線は、恐ろしいほど向かってきていた。
朝練もなんとか無事に終わり、オレは制服に着替えて教室に戻ると既に隣の席には高塚さんの姿があった。
「朝練お疲れ!昨日より調子よかったね!さすがは黄瀬くん!今日も大好きだよ!」
「・・・あ、ありがとうっス」
「あ、チョコ食べる?」
「・・・あ、ありがとうっス」
高塚さんは会話の端々に“大好き”という言葉を入れてくる。
告白されるのはなれているが、こういうタイプは初めてだからどうすれはいいかわからない。
だから結局は受け流すことになる。
これがいいことなのか悪いことなのか、オレにはわからない。
オレは朝のHRが始まり、ようやく静かになった彼女を見て頬ずえをつきながら小さくため息をついた。
それから放課後までこのような会話は続き、黄瀬も疲れながら部活に向かって着替えをしたところで教室に携帯を忘れてしまったことに気づき、笠松にそのことを伝えて取りに行くことにした。
教室にたどり着いたところで聞こえた高塚さんの声にオレは思わず隠れてしまった。
そこでなぜ隠れたのか自分に疑問を感じ教室の扉を開けようとしたとき、彼女の声が泣いていることに気づき再び足は止まった。
彼女は常に笑顔で、その顔しか見たことがないオレはつい興味本位でその声を聞いてしまった。
「・・・だからさ、ツライならやめなって」
「ダメ、だよ。今は・・・彼の邪魔は、したくない。私が一番彼を見てるんだもん、彼が今一番バスケを大事にしていることぐらい、わかるよ。」
「普段はあんだけ告ってるクセに」
「・・・彼にさ、オレのファンなのかって前に聞かれたことがあったんだ。ショックだったよ。彼にとって私はファンの1人でしかないんだなって、思い知らされた。」
オレのことを話しているんだ、と気づいたときにはもう遅かった。
オレが聞くべき話じゃなかった。
いつも笑顔で話しかけてくる高塚さんにオレは酷い対応をしてしまっていたんだなと思い、拳をキツく握った。
そしていつもの顔を作り、何もなかったかのようにドアを開いた。
「あれ、高塚さん達どうかしたんスか?」
「え、黄瀬くん・・・ッ!」
高塚さんは急いで涙がたまった瞳を袖で拭うと、いつも通りオレに接してきた。
「どうしたんだい黄瀬くん!放課後もイケメンだね!ところで部活は?」
「携帯を机の中に忘れちゃったみたいで取りにきたんスよ」
そう言いながら彼女の隣であるオレの席へと向かい、机の中を除いた。
そこには予想通り携帯があって、ホッとしていると彼女の声が背後から聞こえた。
「ドジだね黄瀬くんは。でもそこも可愛いし好き!」
その言葉に先程までの彼女らの話を思い出した。
オレが扱いに困った挙句、テキトーにしてしまっていた彼女への反応。
もしオレが好きな人にそんな扱いをされたら傷つくに決まってる。
「・・・ありがとう、高塚さん。」
そう笑顔で返してみると、高塚さんはいつものオレの反応と違うことに気づいたのか顔を赤くして驚いていた。
そんな彼女の反応をみて、オレはもう少し彼女を知ってもいいかもと思った。
君を知らないオレと、オレを知ってる君と(今度どっか出かけないっスか?)
(ぅえ!?)
((君を知ってみたいと思った))
……………………………
いち様のみ転送可能です。
キリ番リクエストありがとうございました!
黄瀬くんをどう動かそうか迷い、少し時間がかかってしまいすみません…
返品可能です!
こんなの望んでないという場合はもう一度書きますのでご連絡ください!
ありがとうございました!
(20120829)
[ 12/19 ]
[しおりを挟む]