偶然に感謝




「オネーサン、いつもの2つねー!」


部活も終わり、俺はいつものジャンケンに負けてリアカーをチャリで引いていた。

その途中で通るこの小さな喫茶店。


ドアを開けるとカランカランと小さな鐘が鳴った。

その音とともにいつも頼む紅茶セットを頼む。

既に常連となってる俺の注文を聞いた店員のオネーサンが笑顔で“いつものですね”と言って奥のキッチンに向かう。

その一貫を俺の隣で不機嫌そうに見ていた彼に、俺は声をかけた。


「たまにはいいじゃんか、真ちゃん重いし疲れんだよ」

「…高尾の奢りならいてやるのだよ」


そう言って彼─緑間真太郎─は2人席に座った。


俺の財布と相談しなくてもわかることがある。


「…真ちゃん、俺今月ヤバいんだけど」


毎日バスケ部があるため、バイトが出来ない俺の財布事情もわかってほしい。

そう彼に伝えるも“知らん”の一言。


俺が来月まで残りどうやって乗りきろうか唸っていると、頼んでいた紅茶セットが来た。


「今月ヤバいのにご来店ありがとうございます」


そうクスクスと笑いながらからかってくるオネーサン。

キッチンにまで聞こえたいたのかと俺は少し恥ずかしい気持ちになった。

そんな俺に天使の囁き。


「常連さんだから特別に50%OFFしちゃいます」


つまり半額…1セット分でいいっていうこと!?

オネーサンは笑顔で“今回だけですよ?”と話した。

俺はすごく助かると感謝しながら彼女の笑顔を眺めた。












「で、彼女が日頃お前がでれでれと語り続けている人か」

「でれでれってなんだよ!俺は真剣に話してるっつーの」

「その顔で言われてもなんの説得力もないのだよ」


ため息をついて紅茶セットのケーキに手をつける真ちゃん。

俺そんなにでれでれしてたかな…



学校の休み時間、読書をしている彼に俺は度々彼女の話をしていた。

片想い中だし、彼女に会うには喫茶店に行くしかないと思った。

そうしていたら今はすっかり常連になっていた。



実はまだ彼女の名前を知らないでいる。

名字は名札でわかった、高塚さんというらしい。

いつもの俺ならパッと聞いてしまうのだが、いつも忙しそうに、しかし楽しそうに働く彼女をみているとつい聞きそびれてしまうのだった。


だがそんな俺にチャンスがきた。



「アッツ!?」


俺は紅茶を飲もうとして手を滑らせてしまい、膝下にこぼしてしまった。

その俺の声を聞きつけた彼女が俺をみたあと、急いでおしぼりを持ってきてくれた。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、こんくらい平気平気!」


慌てて彼女を安心させようとするが、彼女はそんな俺の話を一切聞かずに“シミになっちゃうかな…”と言いながら俺の膝下を優しく拭きはじめた。


「ちょ、自分でできるって…!」

「高尾くん、絶対ゴシゴシ拭いてシミにしちゃうタイプですよね?」


彼女はそう笑いながら答えた。

確かにそういう性格な俺は、反論できなくなってしまった。


…今絶対俺の顔赤い。




……って、ん?

俺、名乗った覚えないけど。


そんな俺の疑問が顔にでていたのか、彼女は“ああ…”といいながら答えてくれた。


「1年男子バスケ部、高尾和成くんでしょう?そっちの彼は緑間真太郎くん。二人共1年で選手なんてすごいですよね」

「え?」

なんで知ってんの?

俺は更に唖然としていると、真ちゃんが“馬鹿め…”といいだした。


「彼女は高塚由紀。2年で女バスの副主将ではないか。」

「えええ!?真ちゃん知ってたの!?ってか同じ学校!?先輩!?」

「はい、そうですよ?」


彼女はクスクスと笑い、真ちゃんはため息をついた。

ってか真ちゃんから彼女の名前を知るとか最悪じゃね?



「改めてこれからもよろしくお願いしますね、常連さん」

「あ、よろしくっす…」



彼女の笑顔は俺の支えになってて


そんな彼女が同じ学校の先輩で







偶然に感謝







(ってか真ちゃん!なんで最初に教えてくれなかったんだよ!)

(お前が聞かなかったからだろう)






…………………

意外と高尾の喋り方って難しい…?





(20120807)



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