3日目

高尾和成が記憶喪失になってから3日目。

今日は皆が待ちに待った球技大会。
私のクラスは成績面はいまいちだけど(緑間くんのおかげでクラス平均は高いのだが)、運動面はずば抜けている。
特に1年にしてバスケ部のレギュラーというイケメンくん2人がいるから、体育祭のときは圧勝だった。



球技大会は、ルールの中に部活をやっているスポーツの参加は禁止というものがあった。

だから高尾くんが記憶喪失になる前にテニスのダブルスに出ようと言ってくれたのに、昨日の会話ときたら…。


「俺、高塚さんとテニス?」

「う…うん」

「そっか!よろしくなー!」


ああ…私の大好きな君の笑顔が今は嫌になるよ。

今日の球技大会。
私は楽しめそうにありません。





そんなことを考えながら朝、通学路を歩いていると後ろから自分を呼ぶ声がした。

「高塚さーん!」

この声は高尾くんだ。
2人の通学路は逆方向なのに、どうしてここに…?

私はそう頭の隅で考えながら振り替えって返事をした。

「え?…高尾くん、緑間くん。おはよう」

「おはようなのだよ」

緑間くんは私にそう言うと同時にエナメルバッグの中から何かを取り出した。


「包帯…?」

「真ちゃんが薬局に行きたいって言い出してさぁ?逆方向だっつーの」

「高塚の今日のラッキーアイテムなのだよ」

ここで昨日の“ラッキーアイテムを持ってきてやる”という彼の言葉を思い出した。
まさか本当に持ってくるとは思わなかったので驚いていると、彼は無意識に出していた私の手のひらに包帯を置いて再びエナメルバッグをあさり出した。

「これはお前のラッキーアイテムなのだよ、高尾」

「え?俺も?真ちゃんやっさしーww…でも絆創膏って。なんで治療道具ばっかなんよ」

「おは朝が言うのだから仕方ないだろう」

「あー…ハイハイ」

高尾くんが緑間くんの言葉に呆れながら歩きだす。
それに続くように私たちも歩き出した。




そして次の瞬間。
私が一番聞きたくなかった言葉が高尾くんの口からでた。

「真ちゃんと高塚って仲いいけど付き合ってんの?」

「………ッ!?」

これはさすがに突き刺さった。
私が大好きな人から受けたその言葉は酷く頭を痛くさせた。
緑間くんがそんな私を察してくれたのか否定しながら私を気遣ってくれている視線がくるが、今はそんなこと考えられなかった。

「…ごめん、緑間くん。私先に行くね。ラッキーアイテム、ありがとう」

それだけ言って私は走った。
後ろから高尾くんの私を呼ぶ声が聞こえるが、今はそんなことどうでもよかった。

私は高尾くんに忘れられてるんだと、今やっと自覚した。





それから学校で高尾くんに話しかけられても曖昧な返事しかできないまま、テニスが始まった。

私たちの試合は4番目で、しばらく時間があった。
その間ペアと一緒に席で応援しなければならなかったのだが、そんなやる気が出る筈もなく。
私は高尾くんを置いて1人で体育館裏へと向かった。


そして運悪く会ってしまった。
高尾くんを好きで、私に消えてほしいと思っている人達に。


「あっれー?これはこれはようこそじゃん?」


彼はなにがあっても私を助けるって付き合いはじめてすぐに言ってくれた。
嘘じゃん。
助けろよ、馬鹿。



もう、どうでもよかった。



彼女たちは気が済むまで私を殴ったり、暴言を吐いたりしたあと帰っていった。
殴った部分はご丁寧に服で隠れる場所だけ。

彼女たちが投げ掛けた“死んじゃえばいいのに”という言葉が頭でリピートされてる。
目の前にはひとりが投げてきたカッター。


楽になりたかった。

それが理由で、私は刃を手首に向けた。







ここ数日、俺は彼女に違和感を感じていた。

彼女にどう接すればいいか。
朝見せたあの傷ついたような顔はなんだったのか。

テニスの試合待ちの間、俺はずっとそれを考えていた。

真ちゃんに聞いても口を濁すだけで答えてはくれなかった。
だが、ヒントと称して少しだけ彼は語った。


“高塚はお前を一番心配している”


どういうことだよ。
考えても答えにはたどり着かなくて、もう本人に聞いてしまおうと振り替えると、そこにいたはずの高塚さんがいなかった。
俺は慌てて隣に座っていた奴に聞いた。


「あれ…高塚さんは?」

「さっき体育館裏に歩いていったぜ?」

「サンキュー!」

なぜかはわからないが彼女を追いかける気持ちしか湧かなかった。
俺は立ち上がって向かおうとすると、隣の奴が声をあげた。


「それにしてもよー。お前ら今喧嘩中か?」

「は?なんでだよ」

「だって――――――…」



頭が真っ白になったのがわかった。


俺はとにかく彼女に会おうと走った。
そして見つけたのだ。

カッター片手に手首から血を流して倒れている彼女の姿を。



球技大会なんて知るか。
俺は彼女をおぶって保健室へと走った。





記憶喪失のきみと7日間の恋模様 3日目




(だってお前ら、付き合いだしてからあんなに見せつけてたのに―――…)

(付き合う…?なんだよそれ)





……………………………

なぜ私はヒロインをいじめてしまうのか…
そして自分で考えていた以上にシリアスな展開…←



(20121023)





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