2日目
熱はすっかり下がったらしく、時々咳をする程度にまで回復した高尾くんが放課後、緑間くんに話しかけた。
「真ちゃん、部活行こうぜ?」
「…先に行っていろ」
「あ?まあいいけど。じゃーな、高塚さん」
昨日、私の彼氏である高尾和成が記憶喪失になった。
昨日はあれから先生が帰ってくるまでパニックになりながらも、高尾くんが何を忘れてしまっているのか判断するため、色々な質問をした。
「名前は?」
「は?…高尾だけど」
「部活は?」
「バスケ部」
「今何歳?」
「15…ってこの子どしたのよ、真ちゃん」
その言葉に緑間くんの肩がピクリと動いた。
緑間くんのことは覚えていて、私のことは覚えていない…ということは。
「私と出会う少し前の記憶からないんだ」
もう呆然とするしかなかった。
***
私は高校生にしては珍しい転校生だった。
転校してきたのは7月頃。
皆とても優しく迎え入れてくれたが、既に出来上がっているクラスの雰囲気やグループに私は馴染むことができずに孤独感を覚えていたとき、隣の席だった彼がその壁をぶち破ってくれたのだ。
「高塚由紀だったよな?よろしくなー!」
そう言って笑顔で差し出された右手。
私は握手を返しながら、その笑顔に吸い込まれたのだった。
***
緑間くんに先に行けと言われた高尾くんは“遅刻すんなよ!宮地さんこえーんだから”と言って体育館へと向かった。
それを見てから緑間くんはひとつため息をつくと、今日の様子について相談しようと持ちかけてきた。
「今日はなんとか乗り切れたな」
「そうだね」
混乱を避けるため、クラスメイトには高尾くんのことは話していない。
彼を病院に連れて行ったところ、“軽い記憶障害ですね。様子をみましょう”と言われた。
幸い私以外のことは覚えていたので彼を混乱させない為、私は最近転校してきたということにした。
クラスメイトとのつじつまが合わなくなる会話には私たちがフォローするということで乗り切ることができた。
「…いつもの笑顔だったけどさ。どこか他人行儀だったのは辛かったなぁ」
「だから言えばよかったのだよ。お前たちは付き合っていると」
「それは高尾くんの罪悪感を増させちゃうからダメだよ。彼、優しいから絶対無理矢理思い出そうとするもん」
「…考えすぎなのだよ、馬鹿め」
やっぱり優しいなぁ、緑間くんは。
口では私のことをけなしているけれど、言葉の中に私を心配する心が混じっているのがわかる。
「とにかく、今日はなんとかなったし!明日からは土日で休みだからなんとかなる!高尾くんの両親には先生から説明してあるし、なんとかなるさ!」
「…それがそうでもないのだよ」
「え?」
いつも通りのポーカーフェイスだが、少し焦り気味の彼がメガネをクイッと上げてから話しだした。
「気が動転して忘れたか。明日は球技大会で登校日だ」
その言葉にそういやそうだったなとなんとなく思い出す。
それから緑間くんのため息とともに思い出した。
「あ…確か私…」
「ああ。お前は男女ペアでひと組のテニスに参加することになっているのだよ。つまり高尾とだ」
「……あああああっ!!?」
高尾くんとふたりでテニスだなんてテンション的に気まずすぎる。
今の高尾くんにとって私は初対面レベルなただのクラスメイトでしかない。
「今から辞退は!?」
「無理なのだよ。1人一種目が原則でうちのクラスにはぴったりしかメンバーがいない為替えが効かない」
「交代は!?」
「認められていないのだよ」
絶望だ。
明日は絶対精神的に死亡フラグ確定だ。
苗字呼びになっただけでも相当ショックを受けているのに、明日は耐えられるだろうか。
「緑間くん。フォローよろしくね」
「……高塚の明日のラッキーアイテムを持ってきてやるのだよ」
嬉しくないです。
記憶喪失のきみと7日間の恋模様 2日目
(あー…今から泣きそうだよ)
……………………………
高尾役の鈴木達央さんが好きすぎて…
デスコネクションっていう乙女ゲームでやられました(笑)
今期はとなりの怪物くんの春が可愛すぎる…!!
(20121023)
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