記憶喪失の彼と7日間の恋模様 1日目


彼が頭を、打ちました。

「………誰?」

「………はい?」



***



ウィンターカップに入る前に付き合いはじめた高尾くんは今日、とにかく絶不調だった。

朝、彼はマスクをして真っ青な顔で緑間くんと学校に来た。

「おはよ、由紀」

「おは…って顔真っ青じゃない!」

「どうせ腹でも出して寝ていたのだろう、馬鹿め」

「真ちゃんひっでーの…」

普段から冷たい緑間くんだけど、高尾くん曰くツンデレらしい。
私だって彼が優しいことは承知済みだ。

今回だっていつも高尾くんが漕いでるチャリアカー(学校の皆がそう呼んでた)で迎えに来た顔色の悪い彼を止めて、歩いてきたらしい。

高尾くんは1日中顔色が悪かった。
それでも大丈夫と言ってきかない彼を、私と緑間くんで押さえつけ続け、やっと放課後になった。

彼は部活にも出ると言い出した。

「はい!?部活に出るって…高尾くんやめなって!」

「大丈夫だって。由紀が見ててくれんだろ?」

「………ッ」

自分の顔が不覚にも赤くなったのがわかった。
私がたじろいだ隙に彼は部室へと行ってしまった。


私は毎日練習風景を見に行っていたため、出入口で時々ふらつきながらも練習をする高尾くんを見ていた。
宮地先輩達の忠告も聞かずに練習をする彼は本当にバスケが好きなんだなと呆れていると、その背後にいた部員の使っていたバスケットボールが彼の頭に直撃した。

いつもなら彼の鷹の目で避けているはずなのに。
私はそれを考えながら倒れた彼の元に全力で走り、彼の後頭部を持ち上げて太ももに乗せながら声をかけ続けた。

「高尾くん!高尾くん!!」

反応はない。
私は周りにバスケ部の存在を感じながら涙目になっていた。

彼を緑間くんがおぶって保健室まで行くことになった。



「多分、脳震盪ね。っていうか彼は39度の高熱の中でバスケをしていたの?」

「39度!?」

初めて聞いたぞ、そんなこと。
私の隣で聞いて呆れた顔をする緑間くんがスッと立ち上がる。

「監督に伝えてくるのだよ」

そう言って彼は足早に立ち去っていった。


苦しいのか、息が荒い高尾くんを見ていると、ポカリを2つのコップに入れて先生がもってきた。

「高尾くんまだ意識ない?」

「はい…」

「そっか。実は今ヒエピタが切れちゃっててね。氷枕は作ったから彼の頭の下に入れてあげてくれる?」

「わかりました」

私は氷枕を受け取って彼の頭を優しく持ち上げた。

「私これからヒエピタ買ってくるから。悪いけど高尾くんをみててあげて?」

「はい」

「もし起きたらポカリ飲ませてあげてね?あ、もう1つのは飲んでいいから」

先生はそう言うと白衣を脱ぎ、自分の鞄を取って出ていった。
私はその後ろ姿を見送った後、ポケットに入れていたハンカチを濡らして彼の汗を拭いた。

するとピクリと彼の閉じた目が動いた。
彼が起きると思った瞬間、私は少し声を荒げて彼の名前を呼んだ。
それと同時に緑間くんが戻ってきて、私の様子に気づいて駆け寄ってくる音がした。

ゆっくり開かれる彼の目に、私はようやく緊張が解けたかのように仰向けのままの彼に抱きついた。

が、次の瞬間私は再び緊張することになった。


「………誰?」

「………はい?」




記憶喪失の彼と7日間の恋模様 1日目


(あ…と。高塚、です)
(どこのクラス?)
(高尾くんと同じです…)



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(20121023)

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