初恋は実らないと言うけれど





「ハッ…このイカ、イカス!!」

「伊月お前いい加減黙れ」

私の片想いの相手は、だじゃれ好きだ。





入学当初、私はクラスに中学からの友達が誰1人いなかった。
だから人見知りな私は誰にも話しかけることができず、自分に与えられた席でぽつんと座りながら暗い青春を覚悟していた。

その時、私の隣の席の椅子が動く音がしてちらりと見ると、そこにはかっこいいというより美人なタイプの男性が座っていた。
私がその整った顔に見とれていると、彼が振り向いた。

「俺、どこか変かな?」

「え、あ、いや…ごめんなさい」

絶対変な奴だと思われた。
私はその時そう思い、バッと顔を戻してうつむいた。
すると隣からクスクスと笑い声が聞こえ、私はショックのあまり目を固く閉じた。

「なんで謝るのさ?」

その優しい言葉に私は再び顔をあげて彼をみた。
彼はきれいに笑っていた。

「とりあえず、しばらく隣だね。俺、伊月俊。よろしく」

「あ…高塚由紀です。よろしく、お願いします」

これが彼と私の出会いだった。


それからというもの、バスケ部を作ったという彼の言葉を聞いて、バスケが大好きな彼らには申し訳ない気持ちもあったが、"バスケをみるのが好きだから"という理由にして伊月くんを見に行くようになった。

そのおかげで高校で初めての女友達ができた。
リコちゃんは…というかバスケ部の皆がとても鋭い人達なのか、いつのまにか私の伊月くんへの想いは知れわたっていた。
バスケを言い訳に利用したというのに、本当に皆は優しかった。

「でも、伊月くんきっかけだったとしてもバスケ好きにはなったでしょ?」

「寧ろあのだじゃれマニアのどこがいいのかわからねぇよ…」

「日向、伊月は良いところたくさんあるぞ?」

「木吉、オメーは黙ってろ!!」

いつしか、この空間が大好きになっていた。


だが、誰とでも仲良くでき、監督でもあるリコちゃんとは違い、根暗な私が“男子バスケ部に入り浸っている”という噂は瞬く間に広まっていった。

バスケ部のメンバーは皆個性的だけど凄く優しいから、密かな想いを持つ人達が多かった。



「…だから、だろうな。」

バスケ部と仲良くなってから1ヶ月。
その頃から私の下駄箱に、所謂不幸の手紙やら画ビョウやらが入るようになった。

だが、教室内では一切そのようなことはなかった。
多分、伊月くんが隣だから…バレたら厄介だと思ったのだろう。

「由紀、今日も部活来るだろ?」
小金井くんが言った“いつまでも名字ってのなんだしさ、由紀って呼んでいい?”という一言で皆、私のことを名前呼びするようになっていた。

「え?あぁ…行こうかな」

「…どうかした?最近ぼーっとしてる時間が多くないか?」

「ん?…最近面白い小説見つけちゃって、ずっと読んでるから寝不足で…」

「……。まぁ、早く寝ろよ?」

「うん」

バスケ部に…伊月くんに迷惑はかけたくなかった。
でも、その頃の私は伊月くんが鋭い人間であったことを忘れていた。


放課後。
私は日直だったため、一緒に行こうと言ってくれた伊月くんの誘いを断り、日誌を書いてから体育館へと向かっていた。
体育館に続く外廊下まで差し掛かったところで、知らない女性3人に呼び止められた。

「…なんですか?」

「呼び出された理由、わからないワケ?」

「独りぼっちがお似合いなお前がバスケ部と仲良くなれて調子に乗ってるみたいだからさ?」

「ちょっと説教しに来てやったのよ」

そう言って3人はケラケラと笑い出した。
その後、3人のうちの1人が私の腕を掴むと、校舎の裏まで連れていかれた。
途中誰かに助けを求めようとしたが、放課後は人気のない場所だったのでそれもできなかった。


校舎裏に着いたところでドンッと背中を押されて校舎の壁にぶつかった。
咄嗟に出た手がヒリヒリと痛い。


「で、お前みたいなブスがどうやってバスケ部に媚び売ったんだよ」

「誘ったり?」

「こいつで乗る奴なんかいるかよ」


3人の甲高い声が頭に響いてクラクラする。
壁に背中を預けたまま、私はしゃがみこんだ。

確かに、なぜバスケ部の皆は私なんかと仲良くしてくれてるんだろう。
私は彼らに何もしてあげられないというのに。

嫌なことばかり頭の中でぐるぐるしだして、もうどうでもいいやと思ったとき、絶望していた私の元に希望がやってきた。


「由紀!!!」

「!!ッ…伊月くん…」

私を囲むようにして立っていた3人は目を丸くして慌てたような声をだしていた。
そりゃそうだ、彼は今部活の最中のハズだ。

彼は3人を掻き分けるようにして私の元に来ると、しゃがんで私の顔を覗いた。
そして僅かにホッとしたような顔をすると立ち上がり、いつも優しく微笑んでいる彼とは思えないような冷たい顔でキッと3人を睨んだ。

「由紀になんの用?」

「え…ぁ、いや…」

「由紀の下駄箱、君達がやったのだったら、俺許さないよ?」

「………ッ!!」

3人は伊月くんの言葉に息を呑むと、少し後退りしたあと走って何処かへ行ってしまった。

「………なん、で」

“なんでここにいるのか。”それを聞こうと口を開いたが、声が掠れてうまく出ない。
彼はそれを察してくれたのか、私の頭を撫でたあと隣に座った。

「いや、最近様子おかしかったなって。それにいつもきれいな字で素早くノートを執ってる由紀にしては日誌書くだけに時間かかってるなって思ってさ。」

「ごめん、なさい…」

「由紀のせいじゃないだろ?それで、教室に戻ったら由紀はいなくて。帰ったのかなってお前の下駄箱みてみたら…」

だからか。
だから彼はさっき下駄箱の話をしていたのか。
真っ白な頭の片隅でそんなことを考える。

そしてふと伊月くんが来てくれた瞬間の光景がよみがえった。
彼は確か、息を切らせて汗だくだった。

「ご…ごめんなさい!走らせちゃって…!!」

急いでポケットからハンカチを取り出して彼の顔を優しく拭った。
一瞬目を見開いた彼だが、その後すぐに笑いだした。
何かおかしかっただろうかと私が慌てていると、おでこに柔らかい感触がした。
そして離れていく彼の顔。

…おでこに、柔らかい感…触…

そこまで考えてやっと彼にキスされたのだと気付き、耳まで真っ赤になる感覚を覚えながらおでこを両手で覆い隠した。

「な…ななな…ッ!!」

「やっぱり好きだなぁって」

彼はなにを言っているのだろう。

真っ白な頭では何も考えられなくて。
沸騰して遠くなった意識の中で、私の名前を呼ぶ彼の声がした。







ふと気づいたら体育館で、彼におんぶされていて。
そのまわりをバスケ部皆に囲まれてそれぞれ心配の声を投げかけてくれて。

その後すぐに出た“由紀は渡さないから”という伊月くんの発言に皆、“おせーよ”と言って彼を殴っていて。

小さな声で“良かったね”と頭を撫でてくれたリコちゃんに私は小さく微笑んだ。


(伊月くんに由紀は勿体無いわよねぇ)

(ってか早く由紀をおろしてやれよ…)

(!!!〜〜〜ッ)


・・・・・・・・・・・・・
a3様へ捧げます。
時間がかかったわりに大した内容じゃなくてすみません・・・泣

(20121015)

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