・教室

料理教室のキッチンに沢山の主婦がいる

主婦A「あーん、今日も素敵だわ。柊(ひいらぎ)せんせっ」
主婦B「さすがよねぇ、見た目はハンサム、料理の腕はピカイチ!」
主婦C「まさにメインディッシュの王子様っ」

教室前のキッチンに柊涼(りょう)(28)が立っている

涼  「はーい、皆さん、楽しいおしゃべりもその辺にして、火加減見てくださいねー」

涼、にっこり笑う

主婦全「は〜い!」

涼N 「俺の名は柊涼。28歳。主婦向けの料理教室を始めて数年。ここまで相手が普通の主婦ばかりだったからか、想像もしなかった。いや、違う。こんなことは漫画でしか起こりえないと思っていた」

後ろのほうのキッチンで爆発音が聞こえる
主婦、悲鳴を上げる

主婦A「キャー!」
涼  「なっ! なんだ!」

煙の中から咳き込んだ山本司(やまもとつかさ)(25)が出てくる

司  「ゴホッ……ゴホッ……」

涼、駆け寄る

涼  「山本さん! 大丈夫ですか!?」
司  「す、すみません……ケホッ……なんか、いきなり目の前が……」

涼、唖然とする

涼  「……」

涼N 「どうすれば、普通に料理をしていて爆発など起こせるのだろう」



・事務室(夕方)

司  「ご、ごめんなさい……」

涼と司、椅子に座って向かい合っている
涼、司の手当てをしている

涼  「いえ、大した怪我が無くてよかったです。これでよしっと……。他に痛むところは?」

司、首を振る

司  「大丈夫です……、迷惑をかけた上に手当てまで……ホントにすみませんでした……」
涼  「こんなこともありますよ。気にしないでください」
司  「僕に……やっぱり料理なんて無理だったんですよね……今回のことでよく分かりました」
涼  「そんな、誰でも初めてはこんなものです。諦めないで」

涼M 「いや……誰でもっていうのは間違っているが」

司  「でも……こんな調子じゃあ家に帰って作ってみても、家が焼けるだけです……」

司、泣き出す

涼M 「家が……焼ける……」

涼、苦笑いをする

涼  「こ、今回はどうして料理を習おうと来て下さったんですか?」
司  「え……、あの……」
涼  「?」
司  「ぼ、僕、一人暮らしを始めたんですけど、料理なんかしたことなくて、それでずっと外食だったり、コンビニのお弁当だったりで……」
涼  「それは……」
司  「そしたらいつの間にか体がおかしくなってたみたいで、この間、倒れてしまったんです……」
涼  「……」

涼M 「なんてことだ……」

司  「だから、自炊をしてみようと思って……。だけどやっぱり無理なんです……」

司、涙を両手で拭っている

涼  「……」

その姿を見ている涼

涼M 「このまま放って置けばきっとまた同じことの繰り返しで倒れてしまう……か。しかし、教室で大人数相手にやるとなるとまた爆発が起きる……。教室が無くなるのは困るな。だとしたらマンツーマンで教えてやるしかないか……。うーん……」

涼  「よし! わかりました」
司  「へっ?」
涼  「山本さんのお宅ってこの近くでしたよね?」
司  「は、はい……そうですけど……」
涼  「行きましょう」

涼、立ち上がって司を引っ張っていく

司  「えっ? ちょ、柊先生?」



・司宅(夕方)

質素なアパートの一室
キッチンの前に立っている涼と司

司  「あ、あの……すみません、こんなところで……」
涼  「何言ってるんですか。料理は水と火があればどこででも出来るんですよ」

涼、司に笑いかける

司  「……」

司、驚く
涼、キッチン周りを見渡す

涼  「それで……、あの、調理器具は……?」

何も無いキッチンに首をかしげる涼
司、ハッとして微笑む

司  「それならここに」

司、部屋の奥に行くと袋を出してくる
涼、その袋を見る

涼  「……」
司  「今の世の中便利なお店があるんですねー。僕びっくりしちゃって」

司、楽しそうに笑いながら袋から包丁や鍋を出す

司  「100円で色んな物が売ってるんですよ! 知ってました?」
涼  「……」

涼、額を押さえて呆れる
司、涼の様子に首をかしげる

司  「? 柊先生……?」
涼  「あ、あの……」

涼M 「思っていた以上に酷い……!」

涼  「100円で色んな物が買えるのはほんとに凄いなとは思います」
司  「はい……。?」
涼  「それでも100円は100円なんですよ。食器なんかは別として、包丁は……」

涼、司が出した物の中から包丁を取り出すと持ってきたキャベツを切ってみせる

涼  「ほら、切れにくいでしょう?」
司  「ほんとだ……」
涼  「それにフライパンだってそうですよ。焦げ付いて使いづらいんです。値段相応なんですよ」
司  「へぇ……」
涼  「安く抑えられれば助かる面もありますが、それでも包丁なんかの毎日使うものは、使いやすさや長持ちするかを見て、それ相応のものを選んだ方がいいんです」
司  「そうなんだ……」

司、本気で関心している

涼M 「どれほどの箱入りで育ってきたんだこの人は……」

涼、疲れたような声を出す

涼  「と、とにかく……。ここでは何ですから私の家へ行きましょう……」
司  「柊先生の家へ……?」



・涼の部屋(夜)

広いワンルームにキッチンやベッド、ソファなど整えられている部屋
キッチンの前に立っている涼と司

司  「すみません……、こ、こんなにご迷惑をおかけしてしまって……」
涼  「いえ、私もこっちの方が教えやすいですから」
司  「……」

司、凹んでいる

涼  「大丈夫ですよ。私が好きでやってることなんですから。気にしないで」

涼、微笑む

司  「……」

司、涼を見て視線を落とすとしばらくして顔を上げる

司  「僕! がんばります! 一人で食べられるものが作れるようにッ!!」

涼M 「食べられるもの……」

涼、笑う

涼  「ははっ、一緒にがんばりましょう」



・柊実家、リビング(夜)

リビングのテーブルに座っている涼、涼の弟の京(きょう)(23)、幼馴染の達也(たつや)(22)、
涼の母親のミチル(40代)
涼の膝の上にメインクーンの白猫のセロリが寝ている

京  「一人で作れるようになるまで同棲すんのっ!?」
ミチル「やだわ! 京ちゃん! ママ見に行きたい!!」
涼  「……」

涼、呆れて言葉が出ない

涼  「母さん何言ってんだよ……。それに同棲って何だ……、同棲って……」
京  「だぁってそうじゃないのー?」
涼  「違う! 仕方ないだろ。何にも作れないんじゃあ、食べるものもまたコンビニ弁当とかになるだろうし。俺の家から職場も近いそうだし。それにあんな状態で放って置くなんて出来るわけがないだろ……」
京  「涼ちゃん好きだぁねー。人のお世話するの」

京、ヘラヘラ笑っている

達也 「京ちゃんの世話で慣れたら誰だって出来るよな」

達也、笑う

京  「何それひどい!」

涼、疲れた表情をする

涼  「いや……京なんか全然平気なんだ……」
京  「ほーら! さすが涼ちゃん分かってるー!」
涼  「違う……レベルが違うんだよ……」

京、達也、ミチル、首をかしげる

京  「?」
達也 「?」
ミチル「?」



・涼の部屋(夜)(回想)

涼  「じゃあとりあえず、味噌汁から作ってみましょうか」

腕をまくる涼、その隣で司がエプロンをして立っている

司  「はい! お味噌汁なら簡単そうです!」



・涼の部屋(夜)(回想)

鍋にだしを取った汁が入っている

涼  「だしが取れたら次は具を入れましょう」
司  「はい!」
涼  「今日はスタンダードに豆腐とわかめです」
司  「ふんふん」
涼  「豆腐を出して、1センチ角に切ってみましょうか」
司  「いよいよ包丁ですね……」

司、息を呑む

涼  「……」

涼M 「いよいよ……?」

司  「えーっと、お豆腐を出して……っと」

司、豆腐をまな板の上に置こうとする

涼  「ちょっと待った」
司  「?」
涼  「豆腐は手の上で切るんです。こうして……」

涼、司の手のひらに豆腐を乗せる

涼  「そのまま切ってください」
司  「……」

司、手がぷるぷる震える

涼  「? 山本さん……?」
司  「こ、こんなことできませんっ!」
涼  「へっ?」

司、怯えている

司  「手、手の上で包丁だなんて……! 危ないですよッ!」

涼M 「そう来たか……!」

涼  「大丈夫。別にざっくり切るわけじゃないんです。そっと包丁を落とすだけでいいんですよ。包丁は引かなければ切れませんから」
司  「……ぅぅ……」

司、まだ怯えている

涼  「わ、分かりました。じゃあ私の手の上で切ってみましょう。ね? これなら大丈夫」

涼、司の手から豆腐を取って自分の手に乗せる

司  「そ、そんな……、もし切れたら……」
涼  「大丈夫。そっと落とすだけでいいですから」

涼、司に微笑みかける

司  「そ、そっと……落とすだけ……」

司、包丁を持つ手が震えている

涼  「ひ、引かないでくださいね……?」
司  「は、はい……ゴクリ……」

司、ゆっくりと包丁を落とす

涼M 「こ、こんなに包丁が怖くなったのは初めてだ……」

しかし手を切ることなく豆腐が切れる

司  「切れた……」

涼、安心する

涼M 「切れなくて良かった……」



・柊実家、リビング(夜)

京  「何その天然記念物……」
ミチル「京ちゃんどうしよう。ママやっぱり見に行きたいわ……」

涼、呆れる

涼  「結局味噌汁作り終えるのに1時間もかかったんだ……」
達也 「今時そんな箱入りもいるんだね」
涼  「まぁ、嫌々じゃないんだけどな。どれだけ成長させられるのか、試してみたいんだよ」
京  「世話焼きに熱が入りましたな」

京、笑う

涼  「そんなとこだな」



・涼の部屋(夜)

涼、キャリーケースにセロリを入れて帰ってくる
部屋には司がちょこんと座っていて照れながら言う

司  「あ、あの! おかえりなさい……」

涼、微笑む

涼  「ただいま。迎えてくれる人がいるのっていいですね。どうでした? 道。迷いませんでしたか?」
司  「はい。柊先生が描いてくれた地図が凄く分かりやすくて」
涼  「それは良かった。あーっと、その……」
司  「はい?」
涼  「先生っていうのやめませんか? 教室内だったらいいんですけど、なんか慣れなくって」

涼、苦笑いをする

司  「あ、そ、そうですよね……、お家でまでお仕事気分にさせちゃいますもんね……。えっと、それじゃあ、柊さん……?」

涼、笑う

涼  「涼でいいですよ」

司、何故か照れる

司  「は、はい……っ、えっと……涼……さん?」
涼  「はい」

涼、微笑む

司  「ぼ、僕も……司でいいです」
涼  「はい。じゃあ司さんで」
司  「はい」

司、嬉しそうに笑う
涼、キャリーケースを開ける

涼  「それでこっちはお仲間のセロリくんです」

セロリ、中から出てくる

司  「うわぁ……」

涼、ハッとする

涼  「あ!」
司  「へっ?」
涼  「猫! 大丈夫ですか!? 苦手だったりしません!?」

司、笑う

司  「いいえ。飼ったことはありませんけど、動物は大好きです」

司の足元にセロリが行くとにゃあんと鳴く
すると司、しゃがみこんでセロリを撫でる

司  「綺麗ですね。真っ白で……、ふふっ、ふわふわだ」

司、楽しそうに笑う
涼、ほっとする

涼  「よかった。丁度カットのために実家に預かってもらってたんですよ」

涼、冷蔵庫の方へ行き、冷蔵庫を開く

涼  「とりあえず、なにか作りましょうか」

司、笑う

司  「はいっ」



・涼の部屋(夜)

テーブルを挟んで座って食事をしている涼と司

司  「あの、涼さん……」
涼  「? どうしました?」
司  「その……僕、もっとお役に立てませんか……?」

涼、首をかしげる

涼  「役に……ですか?」
司  「はい……、その、時間を割いていただいているのに増して、こんなにもお世話になっているのに、僕に出来ることが無さ過ぎて……」

涼、微笑む

涼  「私の好きでやってることですから。気にしなくていいんですよ?」
司  「でも! ……僕も、何か役に立ちたいんです……。お料理が出来れば晩御飯を作って待っていることもできるんですが、まだまだそこまで力が及びませんし……」
涼  「うーん……、役に立つ……」

涼M 「こんな関係だと言ってもこの人は生徒さんなわけで、掃除洗濯なんかさせるわけにもいかないしな……」

考えているところにセロリが来る

涼  「あ、そうだ」
司  「何かありますか!? 何でも言ってください!」

司、嬉しそうに涼を見る

涼  「セロリの、エサ当番っていうのはどうですか?」
司  「セロリくんの……?」

司、セロリを見る
するとセロリがにゃあんと鳴く

涼  「えぇ、セロリのエサを朝と夜、1日2回。私と違って司さんは帰ってくるのが定時だから、セロリもきっと喜びます」

司、表情が明るくなる

司  「はい! 僕でよければ任せてください!」
涼  「ふふっ、じゃあお任せします」

セロリ、にゃあんと鳴く



・涼の部屋(夜)

涼N 「それからの日々といえば」

司、涼の隣で涼の包丁さばきを見て関心している



・涼の部屋(朝)

弁当を作っている涼
一生懸命盛り付けをしている司

涼N 「1日3食の料理の合間に、小さな料理教室を開いていったのだが」



・涼の部屋(夜)

真剣な目をしてにんじんを切っている司
涼、それを横目で見つつ、味噌汁を作っている

涼N 「司さんの成長速度は普通よりもゆっくりで、それでも一歩ずつ成長していっていた」



・涼の部屋(夜)

涼、テーブルに向かって何かを書いている
そこへ司がココアを入れて持ってくると、涼の前に出す

司  「お疲れ様です」

涼、顔を上げて微笑む

涼  「ありがとうございます」

司、照れる

司  「いえ、こんなものしか入れれませんけど。お湯を注ぐだけなら」

涼、笑いながらココアを飲む

涼  「ははっ、でもだいぶ何でも出来るようになったじゃないですか。今日のお味噌汁、美味しかったですよ」
司  「ほんとですか!? へへっ、嬉しいな……」

司、テレながら涼の前に座ると涼の書いているものを見て首をかしげる

司  「それは、お仕事ですか……?」
涼  「? あぁ、違いますよ。これ、献立表なんです」

涼、書きかけの献立表を司に見せる
カレンダーの様な表に一日3食の献立が書いてある

司  「へぇ……、こんなにいっぱい……」
涼  「昔からの癖で」
司  「昔からの、癖……?」
涼  「えぇ。それ、実家のなんです。実家でケーキ屋をやってるんですけど。昔は従業員も少なくて母が家事をする暇も無くって。私が変わりに家の事と弟の世話をしていたんです」
司  「へぇ……」
涼  「初めは自分でも手探りだったんですけど、献立表を作ってみたら思ったよりも楽しくて。それからずーっと。母にも助かると言われるので、毎月こうして表を作って渡してるんですよ」
司  「凄いなぁ……、僕なんて家のことは何一つしたことなくって……」
涼  「……、あの、言いたくなかったらいいんですけど」
司  「はい?」
涼  「司さんは……その、どうして一人暮らしを……?」

涼M 「こんな状態で家を出るってことは……何か理由があるはず……」

司、ふっと自嘲的に笑う

司  「恥ずかしい話です。この年で、家出みたいなものをしてしまって……」
涼  「家出……」
司  「幼い頃から本当に何もさせてもらえなかったんです。あの、うちの実家はちょっとした会社を営んでいるんですけど、多少裕福ではあったので、いつも傍には家政婦さんがいて……」

涼M 「やっぱりそう来たか……!」

司  「それで、僕が家事や料理なんかをしようとしても、いつも母に『そんなことは誰かがしてくれるんだから、あなたがやる必要は無い』と言われてしまって……。何も出来なかったんです」
涼  「それは……」
司  「だけどそんなことでは、いつか何かあった時とか、将来父の会社を継いだ後だって、家事も料理も出来ないではやっていけないでしょう? だから、両親の反対を押し切って、家出同然で飛び出してきたんです」

涼M 「ただの箱入り息子じゃなかった……か」

涼、微笑む

涼  「それを聞いて安心しました」

司、驚く

司  「えっ? あの……その、幻滅とか……しませんか……?」
涼  「どうして? あなたは自分の意思でどうにかしないといけないと思って、家を出たんでしょう?」
司  「はい……」
涼  「今のままではいけないと気がつけて、そしてそれを実行に移せてる。それにとても頑張ってるじゃないですか。私はそういう人が好きですよ」

司、赤くなる

司  「え……?」
涼  「少しでもお手伝いできたら、私もとても嬉しいです」
司  「そんな! す、少しなんてものじゃありませんよ! 涼さんは僕にとって……その……」
涼  「?」
司  「か、神様みたいな存在ですっ!」

涼M 「神様……」

涼、笑う

涼  「そんな大げさな」
司  「あ、あの、そのっ。僕、お風呂沸かしてきますねっ」

司、風呂場へ行く
涼、その後姿を見て微笑む

涼M 「可愛い人だな」

涼、自分が思い浮かべた言葉に疑問を抱く

涼  「可愛い……?」

涼M 「まぁ、確かに可愛いけど」

涼、また献立表を書き始める



・風呂場(夜)

湯船に浸かっている司
顔を半分沈めてぶくぶくしている

涼  『今のままではいけないと気がつけて、そしてそれを実行に移せてる。それにとても頑張ってるじゃないですか。私はそういう人が好きですよ』

司M 「どうしてだろう……、涼さんの言葉が凄く嬉しい……。こんなこと今まで思ってもみなかったのに。微笑みかけられるのが嬉しくて仕方ない……」

司  「……」

司M 「どうしちゃったんだろ……」

ぶくぶくする



・涼の部屋(夜)

司、風呂から出てくる

司  「涼さん、お風呂お先にありが……」

司、ソファに座って転寝をしている涼を見つける

司M 「寝ちゃってる……」

ソファの傍まで来ると声をかけようとするが、少し考えて止める

司M 「綺麗な手……」

ソファに置かれている涼の手のひらを見てその場にしゃがみこむ司
自分の手のひらと見比べる
司の指にはバンドエイドが貼ってある

司M 「僕の手は傷だらけなのに、涼さんの手は傷一つない……」

司  「……」

司、不意にそっと涼の手に触れる

涼  「ん……」

司、手を離そうとするが涼に指を握られる

司  「っ……!」

司M 「ど、どうしよう……! 僕の手を掴んで……!」

司  「あの……涼……さん?」
涼  「……」

涼、司の手を握ったまま眠っている

司M 「寝てるのか……」

司  「……」

司、涼の寝顔を見て微笑む

司M 「暖かい手……」



・涼の部屋(夜中)

涼、ソファの上で目が覚める
司の手を握っていた手はすでにほどけているが、ソファに伏せて司が幸せそうに眠っている

涼  「司さん……? って、俺こんなとこで転寝してたのか……」

涼、司の首にかかっているタオルを見る

涼M 「風呂上りのまま……? 風邪ひくぞ……」

涼、立ち上がり、伸びをすると司を抱きかかえ、ベッドに連れて行く
ベッドに司を下ろすと司が声を出す

司  「ん……」

しかし目は覚まさない
涼、布団をかけてやると司の寝顔を見る

涼  「……」

涼M 「可愛い寝顔……」

涼、司の前髪を撫でるとしばらくそのまま見つめ、不意にそっとキスをする

涼  「……」
司  「ん……」

涼、ハッとする

涼M 「俺何やってんだ……!!」



・涼の部屋(朝)

涼、キッチンに立ってボーっとしている
すると鍋の中の味噌汁が吹き零れる
しかし気がつかない涼
そこへ司があわてて止めに来る

司  「りょ、涼さんっ! 噴いてます!」

火を止める司

涼  「へ? あ! ご、ごめんなさい!」

司、涼を見て首をかしげる

司  「どうしたんですか?」
涼  「……」

涼の視界には司が上目使いで首をかしげて可愛く見えてしまう

涼M 「可愛い……」

涼  「はっ! や、ち、違うんです!」
司  「? 何が違うんです……?」
涼  「じゃ、じゃなくて! た、ただボーっとしてただけで……ははっ……ははは……」

涼、苦笑いをする

司  「お疲れなんじゃないですか……?」

司、心配そうに涼を見るが、涼、笑いながら味噌汁をお椀に入れる

涼  「い、いえ……全然!」

涼M 「やばいぞ俺……! ほんとに疲れでもしてるのか……?」

涼、チラっと司を見る

司  「?」

司、微笑んで首をかしげてみせる

涼  「い、いえ……別に……」

涼M 「やっぱり可愛い……! どうしたんだ俺……!」



・教室

教室の前のキッチンにぼーっと突っ立っている涼
それを見て主婦が噂をしている

主婦A「今日の柊先生、いつもの先生じゃないわね……」
主婦B「そうねぇ、なんだかこう……上の空というか……」
主婦C「悩みでもあるのかしら?」
主婦A「悩み? ということは……」
主婦B「やだわっ! 恋の悩みかしらっ!」
主婦C「そんな! 私たちの先生がっ!」

涼、ため息を吐く

涼  「はぁ……」

主婦A「でもこんな先生もイケてるわぁ」
主婦B「そうねぇ、そうなると、メインディッシュの王子様じゃなくって……」
主婦C「メランコリーの王子様……?」

涼、盛大にため息を吐く

涼  「はぁぁ……」

涼M 「どうしてしまったんだ俺……。昨日から頭の中に司さんしか浮かんでこない……。これじゃあまるで恋でもしてるみたいじゃないか……。京じゃあるまいし……。いや、でもどうしてあの時あんなことを……。確かに可愛いとは思いはしたが、キスまでするなんて……。しかも寝込みを襲って……! い、いや、襲いはしてない。まだしてない……。まだっ!? な、何考えてんだ……京じゃあるまいし……。あ〜〜! もう!」

涼、頭を抱える

涼M 「俺……司さんが好きなのか……?」



・涼の部屋(夕方)

涼、浮かない顔をして帰ってくる

涼  「ただいまー……」

司、嬉しそうな顔をして出迎える

司  「おかえりなさいっ!」
涼  「……」

涼、頭の中でデレる

涼M 「可愛い……」

ハッとすると首を振る

涼M 「ち、違う! 何考えてんだっ!」

司、涼の挙動不審を見て首をかしげる

司  「?」
涼  「い、いや……なんでもないんです……ははっ……」

涼、すごすごソファに行くとボスンと腰を下ろす
司、涼の近くに行くと心配そうにする

司  「涼さん……」
涼  「え? あ、どうしました……?」
司  「本当にお疲れなんじゃないですか……? その……僕、やっぱりご迷惑だったんじゃあ……」
涼  「ち、違いますっ! 迷惑だなんてそんなっ!」
司  「本当ですか……? 本当にお疲れなんだったら言ってくださいね……?」

涼M 「お疲れじゃなくて、おかしいんです……!」

涼、焦っている
司、不意に涼の額に触れる

司  「熱でもあるんじゃぁ……」
涼  「っ!」

涼、触れられた手を反射的に掴む

司  「っ……」
涼  「……」

涼、何かが切れたように司を見つめる
そのまましばらく互いに見つめ合う

司  「あ、あの……涼……さん……?」

涼、司の声にハッとすると手を離す

涼  「あっ……、す、すみません……俺……なんかおかしくて……」

涼、立ち上がって額を押さえる

司M 「あ、俺って言った……」

司、涼を不思議そうに見つめる

涼  「あ、あの、俺、ちょっと実家に」
司  「え?」
涼  「そう! 実家にちょっと献立表渡して来ますっ!」

涼、献立表を持つと無理に笑う

司  「そう……ですか」
涼  「すぐ戻りますからっ」

涼、言うと出て行く

司  「涼さんっ!」

行ってしまった涼に首をかしげる司
すると足元にセロリが来ると司の足に擦り寄る

司  「あ、ご飯。ね」

セロリ、にゃあんと鳴く



・涼宅前、廊下(夕方)

涼、歩きながら焦っている

涼M 「今のはやばかった……今のは危なかった……! ホントに襲いでもするつもりかよ俺……!」



・涼の部屋(夕方)

司、セロリにエサをあげている
セロリ、エサを食べている

司  「ねぇ、セロリくん。さっき涼さん、自分のこと俺≠チて言ったよね。ふふっ、初めて聞いたよ。涼さん、普段は自分のこと俺≠チて言うんだね」

司、嬉しそうに話している

司  「なんかね、僕、嬉しかったんだ。だってなんだか少し、涼さんに近づけた気がするから」

司、話しながら傍にあるソファに寄りかかる

司  「最近僕おかしいんだー。仕事中も休憩時間も、ずっと涼さんのこと考えてるの。早くここに帰ってきたくて仕方なくって。涼さんにね、おかえりなさいって言うのが楽しみで仕方ないんだ。ねぇ、セロリくん。もしかして僕、涼さんの事が好きなのかなぁ?」

セロリ、司を見てにゃあんと鳴く

司  「ふふっ、そうだよね。きっとそうなんだよね? だって、ホントにずっと涼さんのことばっかり考えてるんだもん」

司、嬉しそうに笑う

司  「涼さん……早く帰ってこないかなぁ……」

セロリ、エサを食べ終わると玄関の方へ歩いていく
すると玄関の方から物音が聞こえてくる

司  「? 涼さん、帰ってきたのかな?」

司、玄関の方へ行こうとする
すると玄関の方の廊下から麻耶(まや)(20)の声がしてくる

麻耶 「よぉ、セロリ。おーい、涼。いるー?」

司、足を止める

司M 「女の人……?」

麻耶、ビニール袋を提げて部屋へ入ってくると司に気がつく

麻耶 「あっれー? あ! あれだ!」

司、不安そうに麻耶を見る

司  「え……?」
麻耶 「涼の生徒か! この間言ってた」
司  「あの……」

司M 「綺麗な人……」

麻耶、ずかずか中に入ってくると司にビニール袋を渡す

麻耶 「今涼いないんだろ? これ、渡しといて」

司、袋を受け取る

司  「はい……えっと……」
麻耶 「もう仕事終わってる頃かと思ってたんだけどさ! まぁいいや、これ渡しに来ただけだから! そんじゃあたしはこれで!」

麻耶、出て行こうとするが、靴を履いているときに振り返る

麻耶 「そうだ! 涼に今度泊まりに来るときはちゃんと着替え持って来いって言っといて! そんじゃー」

麻耶、言うと部屋を出て行く

司  「……」

司、玄関の扉を見たまま立ち尽くす

司M 「泊まり……着替え……?」

司、その場に座り込む

司  「そう……だよね……。だってあんなにカッコいい人だもん……」

司の傍にセロリが来る
司、涙を流す

司  「彼女がいるに決まってるのに……。どうして僕……考えもしなかったんだろ……」

座り込んで泣いている司



・涼の部屋(夜)

司、荷物をまとめて鞄を持って立っている
足元にセロリがいる

司  「ごめんね、セロリくん」

セロリ、にゃあと鳴くと司の足に擦り寄る
司、しゃがみこむ

司  「僕、ほんとに自分の事ばっかり考えてたみたいだ。涼さんは優しいから、迷惑だって言えなかったんだよね。それなのに僕、そんなことに気づきもしないで……」

司、また涙が出てくるが、それを拭って微笑む

司  「いままでありがとう」

司、立ち上がると鞄を持って玄関の方へ行く
するとセロリが後を鳴きながら付いて来る
司、靴を履こうとしたところでずっと鳴いているセロリを見る

司  「……」

するとドアが開いて涼が帰ってくる
涼、司に驚く

涼  「うわっと、司さん! びっくりした……」
司  「涼……さん……」

涼、司の荷物に気がつく

涼  「って! どうしたんですか!? その荷物……」

司、涼に向かって微笑む

司  「ごめんなさい。涼さん」
涼  「え……?」
司  「僕、自分のことしか考えてなくて、迷惑かけてるって分からなくって」
涼  「迷惑って……そんな、私は……」

司、首を振る

司  「涼さんは優しいから。だけど僕はその優しさに甘えて、こんなに長い間お世話になってしまって。もうちょっと早くに気がつくべきでした。さっきね、彼女さんが来て、お野菜沢山持ってきてくださったんです」

涼、眉を寄せる

涼  「彼女?」
司  「きっと彼女さんも僕のせいで涼さんに会えなくて、迷惑してたと思うんです。ごめんなさい」

涼M 「ちょっと待て。彼女って誰だ。誰が来た……?」

涼  「いや、あの、司さん?」
司  「これからは、僕がお邪魔していた分、沢山会ってくださいね。……って、僕が言うことじゃないか」

司、無理に笑う

涼M 「誰と勘違いして……。女……野菜……。! 麻耶か!?」

涼  「いや、違うんです! あいつはそうじゃなくて!」
司  「僕も一人ではまだ心細いですけど、お味噌汁も作れるようになりましたし。安心してください。ここまでこれたのは涼さんのお陰です」

涼M 「なんでこんなことに……!」

司、部屋を出て行こうと扉を開け、振り返る

司  「迷惑かけてごめんなさい。今まで、ありがとうございました」

司、一礼をすると去っていこうとする

涼  「司さんッ!」

涼、咄嗟に司の手を掴む
振り返る司

涼  「あいつはそんなんじゃ……」

涼、弁解しようとして言葉を止める

涼M 「いや、ちょっと待て。どうするつもりなんだ俺は……。ここで司さんに弁解して、誤解をといて……。その後は……? あなたが好きなんだって告白でもするつもりか……? だとしたら、尚更司さんはこの家から出て行くって言うだろう。だってそうじゃないか。俺とこの人は男で、そうなることは不自然で。俺はこの手を引いて……どうするんだよ……」

涼、手を離す

涼  「いや、ごめんなさい……。なんでもありません……」
司  「……」
涼  「だけど、これだけは言わせてください。俺は、迷惑だなんて一度も思ったことはありません。あなたをこの部屋に留めさせたのは、本当に心からあなたの役に立てればいいと思ったからなんです」

司、目に涙が滲み、それを隠そうと目線を下げる

涼  「謝るのは俺の方です。あなたにそんな思いをさせて、ごめんなさい」
司  「……、いいえ。今までお世話になりました……」

涼、黙って首を振る
司、涼を見る

司  「そうだ、彼女さんがね、今度泊まる時は、着替えを持ってきてくださいって」
涼  「え……?」

司、微笑む

司  「それじゃあ、お元気で」
涼  「……」

去っていく司を見て、涼、何も言えずにいる
司が角を曲がって姿が見えなくなるとその場にしゃがみこんで頭を抱える

涼M 「くそ……最悪だ……」



・柊実家、リビング(夜)

涼、膝にセロリを乗せて覇気をなくしてうな垂れている
涼の話を聞いていた京、達也、ミチル
京とミチル、わなわなする

ミチル「涼ちゃん! ママはあなたをそんな風に育てた覚えはありませんっ!」
京  「俺だって! そんな兄を持った覚えはなーいッ!!」

達也、ミチルと京に呆れる

涼  「何とでも言ってくれ……」
京  「涼ちゃんってそんなに馬鹿だったのかよ!」
ミチル「そうよ! どうしてそこで麻耶ちゃんは従姉妹だって言わないのよぅ!」
涼  「俺だって言おうと思ったんだ……。だけどそんな簡単に言えなかったんだ」
京  「なんでだよ! くっそー! 俺が言ってきてやるよ!」

達也、呆れて止める

達也 「京ちゃん、止めろ……」
京  「なんでよ! 涼ちゃんは司さんのことが好きなんだろ!? だったら!」
涼  「後の事考えたら、言えなくなったんだ」

京とミチル、首をかしげる

京  「後の事?」
ミチル「後の事?」

涼、ため息を吐く

涼  「はぁ……。あそこで誤解を解いて、俺が司さんに好きだと言ったところで答えは見えてるだろ。断られて、司さんは家に戻って、俺がホモだって噂はどこからともなく主婦へ伝わり、そして俺の教室には生徒がいなくなる……。そうなれば俺は無職のただの料理好きに早代わり……」
ミチル「やぁねぇ。教室がなくなったって、うちへ戻ってくればいいだけの話でしょう?」
京  「そうだよ。涼ちゃんなら主婦層にモテてまたお客さんが増える」
ミチル「そうなったら、ママ大助かりよぉ?」
達也 「……」

達也M「可哀想な涼ちゃん……」

涼  「いいんだ……これで……」
ミチル「って! 良くなんかないわよ!」

リビングに涼そっくりの父、久太郎(きゅうたろう)(40代)が入ってくる

久太郎「なんだ、にぎやかだな」
ミチル「いいから早く司さんのところへ言って誤解を解いてきなさいな! 素直になるのよ! ねぇ! パパ!」

久太郎、何がなんだか分からないまま一応うなずく

久太郎「え? あ、あぁ……」

涼、相変わらず覇気がない

涼  「やめてくれ……俺は意気地なしの大馬鹿野郎なんだ……」

久太郎、リビングの雰囲気に首をかしげる

久太郎「?」



・教室の外(夕方)

主婦が帰っていく

主婦A「柊先生、さようなら」
涼  「さようなら。お気をつけて」

涼、笑顔で手を振る
しかし、誰もいなくなると肩を落とす

涼M 「あぁ……夕日がまぶしい……」

教室の中へ戻っていこうとすると後ろから司が現れる

司  「あの……」

涼M 「この声は……」

涼、振り返る
司、微笑む

司  「お久しぶりです」
涼  「司……さん……」
司  「あの、今お時間よろしいですか?」
涼  「え、えぇ……。あ、中に……」

司、首を振る

司  「いえ、ここで。すぐ済みますので」
涼  「そう……ですか……」

司、手に持っているタッパを涼に差し出す

司  「これ、僕が作ったんです」
涼  「え?」

涼、タッパを受け取り、蓋を開ける
すると中から綺麗に焼けただし巻き卵が出てくる

涼  「だし巻き卵……」
司  「あの、味見してもらえませんか?」
涼  「え、えぇ。もちろん」

涼、卵を一切れ取り出すと一口食べる

涼  「……美味しい……」

司、嬉しそうに笑う

司  「ほんとですか!?」
涼  「えぇ……。これ、司さんが一人で……?」
司  「はい!」

涼M 「少し前まで包丁を握って震えてたのに……。これで俺はホントに用なしか……」

司、涼を見て話し出す

司  「あのね、涼さん。僕、今日は謝りに来たんです」
涼  「謝りに……?」
司  「えぇ。長い間お世話になったのに、あんな風に出て行ってしまって、申し訳ないと思って」
涼  「そんな……、あれは私も……」
司  「ううん。違うんです。僕ね、ホントは、あなたの事が好きなんです」
涼  「えっ……」

涼、目を見張る

司  「だからあの時、あのままあなたの家にお世話にはなれないって思って」
涼  「そんな……」

涼M 「う、うそだろ……」

司  「あ、ごめんなさい。嘘です」

涼M 「えぇぇぇぇぇ……」

涼  「ど、どういう……」
司  「あなたに恋人がいるって知ったこともショックだったし、それに幸せそうなあなたを近くで見ていることに耐えられそうに無かったから。だからあの時、僕は逃げ出しただけなんです。僕が、勝手にヤキモチやいてたから。ほんとにごめんなさい」
涼  「……」

涼M 「これは……都合のいい……夢……?」

司  「だけどもう大丈夫。一人で拙いですけど、食べられるご飯が作れるようになりました。それに、ほら、合格点、もらえますよね?」
涼  「合格……?」

涼、卵焼きを見る

司  「あなたに合格点をもらえたら、僕はちゃんとあなたからも卒業しようと思うんです。
    一人で生きていけるように」
涼  「……」

ミチル『素直になるのよ!』

涼  「こ、こんな……」

涼、司を見る

涼  「こんなもので合格なんて言われたら困ります」
司  「え……?」
涼  「た、確かに美味しいですけど、こんなレベルで合格だなんて言われると、この教室のレベルが……」

涼M 「あぁ、母さん。俺はこんなにも不器用だったっけ……」

涼  「だ、だから、まだまだ合格点なんてあげられません」
司  「涼さん……」
涼  「あなたはまだあの部屋で、私の授業を受けてもらわないと困るんですよ」

涼M 「あー、俺は何を言ってるんだ……。もっと素直に……もっとストレートに……」

司  「いいんですか……? だって僕、あなたのことが……」
涼  「っ!」

涼、司に駆け寄って抱きしめる

涼M 「あぁ、俺にはこんなことしかできない……」

涼  「ごめんなさい。俺もあなたが好きなんです……」

司、驚く

司  「うそ……」
涼  「本当です……」
司  「だ、だって! あなたには恋人が……!」
涼  「あーあの、えっと、あれは従姉妹で……」
司  「えぇっ!?」
涼  「あいつの家が農業やってて、それでこの教室の野菜を全部任せてあるんですよ……それで……」
司  「ほ、ほんとですか……?」
涼  「えぇ。本当に申し訳ない。変な誤解させてしまって……」
司  「じゃ、じゃあ……」

司、涼を見上げる
涼、司の頬に触れるとふっと笑う

涼  「えぇ。ほんとにあなたが好きですよ」

涼、キスをする
離れると、司が真っ赤になってつぶやく

司  「ファーストキス……」

涼、驚く

涼  「えぇっ!?」

司、照れる

涼M 「あ、いや……違う……」

涼  「ごめんなさい。これが初めてじゃないです……」
司  「えぇっ!?」



・涼の部屋(朝)

涼N 「そんなこんなで、司さんは俺の部屋に戻ってきたのだが。想像もしなかったのは、俺の不器用な性格で……」

涼、ふとテーブルの上にある書類に気がつく

涼  「ん?……ってこれ大事な書類なんじゃ……!」

涼、書類を持って家を出る



・司の会社の前

涼、書類片手に歩いてくる

涼  「えーと、確かこの辺だったはず……」

司が大きなビルから出てくる

司  「あ! 涼さーん!」
涼  「ん? あぁ、いたいた……って!!」

涼、司が出てきたビルを見上げ、名前を見る

涼M 「山本ってあの一流企業の社長かよ……」

涼、呆然とする

司  『うちの実家はちょっとした会社を営んでいるんですけど』

涼M 「全然ちょっとしてない……」

司  「涼さん……はぁっ……ごめんなさい! わざわざ届けてもらって……」
涼  「い、いえ……。私は今日休みですし。お気になさらず……」

司、様子のおかしい涼に首をかしげる

司  「? 涼さん……?」

涼M 「次期社長……か……」

涼  「い、いやぁ。なんでもないです……はははっ……。あ、これ。書類」

涼、書類を渡す

司  「ありがとうございます。午後から必要だったんで助かりました」

司、嬉しそうに笑う

涼M 「相変わらず可愛いなぁ……。って何考えてんだ……京じゃあるまいし」

涼  「じゃあ、俺はこれで。お仕事頑張って」
司  「はい!」

涼、行こうとして振り返る

涼  「そうだ。今日の晩御飯、メインディッシュは何がいいです?」

司、笑う

司  「あなたが作る物ならなんでも」

涼N 「結局教えられたのは、俺の方だったのかもしれない」







おわり

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