・達也の部屋(夜)

達也(たつや)(22)と京(きょう)(23)コタツに入って寝転んでいる

京  「だからさぁ、ホワイトデーはずるいんだって」
達也 「ほー」
京  「バレンタインは女の子が率先してあげれるのにさ。ホワイトデーはお返しなんだよ? 自分からあげたらなんだかおかしいんだよ?それってずるくない?」
達也 「へー」
京  「だから俺は女の子に生まれたかったんだよね」
達也 「ふーん」

達也、京の話を聞いてはいるがぼーっとしている

達也N「俺の隣で寝転んでいるこの男。見た目はハンサムを絵に描いたようで、背なんかすっげーでかくて。コタツからは足がはみ出るほどで」

コタツから足がはみ出ている

達也N「それなのに中身は乙女みたいな男である。名前は京。今年24歳。さっきからチョコレートについて愚痴をたれているのだが」

京  「もう! 達也、話聞いてんの?」

京、達也の口の端をつまんでアヒル口にさせる

達也 「きぃとぇるよ」

京、手を放す

京  「で、どう思うのさ?」
達也 「誰にあげたいの」

達也、呆れている
京、ショックを受ける

京  「そんなこと! 言わなきゃわかんないの!?」
達也 「……」
京  「お前にあげるに決まってるじゃん!」

達也、真顔になる

達也N「この人はもったいないほどハンサムなのに。俺にぞっこんラブ(京談)なんだそうだ」

達也 「だったら別に堂々とくれればいいんじゃないの」
京  「それはあげるよ? もちろんあげるよ? 達也が俺にくれるのかどうかは別にして。バレンタインにもくれる気配さえなかったのも別にして。超あげるんだけどね! しかも手作りの!」
達也 「……」
京  「でも俺は世間の風潮に腹が立ってるわけだよ! 分かるかい!?」

達也、どうでもよさそうに答える

達也 「うん。そうだね」
京  「だから俺は君に愚痴ってるんだけどさー。あ、そうだ。やっぱりホワイトチョコがいいかなぁ?」

京、急に表情が明るくなる

達也 「いや、別に京ちゃんが作る物だったらなんでもいいよ」
京  「……!!!」

京、びっくりして照れる

達也 「な、何……急に……」
京  「い、いや、その、君のそういうとこ、大好きだよ」
達也 「?」

達也N「京ちゃんは時々わけが分からない」



・達也の部屋(朝)

コタツで寝ている達也
急に大きな音で目覚まし時計が鳴る
飛び起きる

達也 「んわぁあぁあっ!」

机の上の目覚まし時計を飛び起きて止める

達也 「……目覚まし時計……ん?」

時計の横にメモが置いてある

京M 「今日はお店番なのでおうちにかえりまーす!学校ちゃんと行かないと駄目だぞぅ! そんで帰りにちゃんとお店に来てね!京ちゃん今日もがんばっちゃう!」

達也 「……」

達也、京の寝ていたコタツを見る
誰もいない

達也 「起きるか……」

達也、コタツから出る

達也N「京ちゃんの実家はケーキ屋で、大学を出た後、店を継ぐために彼はまじめに働いている。何気に京ちゃんの作るお菓子は美味い」



・ケーキ屋前

達也が歩いてくるとケーキ屋の前に京の母親のミチル(40代)が立っている
達也を見つけると飛び跳ねる

ミチル「たっちゃーん!」

ミチルに手を振る達也

達也 「おはよう、おばさん」
ミチル「おはよう! 昨日も京ちゃんってば、たっちゃんのところにいたんでしょッ? 京ちゃんばっかりずるーい!」
達也 「はははっ」

達也N「この人は京ちゃんの母親で、京ちゃんはこの人に顔がそっくりだ。いや、中身もか」

達也、店の中を見ると京が接客をしている

達也 「京ちゃん忙しそうだね。んじゃ俺はこれで」
ミチル「えっ? 京ちゃんとおはようのチューしないの!?」

達也、呆れる

達也 「しないよ……じゃ」

達也、歩き出す

ミチル「今日も学校帰りに待ってるからねー!」
達也 「はーい」
京  「達也!!」

京の声がして振り返ると京が息を荒くして店の前にいる

達也 「いってきます」
京  「おはようのチューくらいさせてよー!!」

達也、若干怒る

達也 「いってきます!」



・大学、教室

授業を聞いている達也

達也N「京ちゃんと俺は、幼馴染の腐れ縁。幼稚園の頃からずっと一緒だったのだが、いつから京ちゃんが俺にぞっこんラブ(京談)になったのかはあんまり覚えていない」



・大学、中庭

達也とのどか(21)が向き合っている

のどか「その……好きなの」

達也N「そんな俺に、どうやら春が来た」



・京宅、リビング(夜)

京  「おはようのチューくらいして当たり前だよね!」

京、ソファに座ってクッションを抱きしめながら怒っている
その前に座っている達也

達也 「外国じゃあるまいし」
ミチル「えぇ〜? だけどママはパパと毎朝してるわよぉ」
達也 「それは夫婦だからでしょ?」
京  「俺と達也は夫婦みたいなもんじゃん」

京、何故か照れている

達也 「どこが」
京  「だって、毎日一緒だし? 同じ布団で寝る仲だし」
達也 「コタツだろ?」
京  「もう! いいもーん! 家出るときこっそりしちゃったし!」
達也 「……」

達也、無言で唇をこする

京  「ひどい!」



・京宅、玄関(夜)

ミチル「また京ちゃんだけなのぉ?」
京  「お邪魔虫は家で待っててくださーい」
ミチル「京ちゃんの馬鹿ー!」

靴を履いている達也、ふとした拍子に何かを思い出す

達也 「そうだ」

京、ミチル、同時に首をかしげる

京  「ん?」
ミチル「ん?」
達也 「俺、彼女できたんだ」

達也、笑う
しかし京とミチル固まってしまう

京  「……」
ミチル「……」
達也 「ん?どうしたの二人とも」
ミチル「京ちゃん、ママ年かしら。幻聴が聞こえるみたい……」
京  「俺……何も聞こえない……」
達也 「はははっ! そんなに驚くこと無いだろ? 俺だって彼女の一人くらい……」

京、涙を流して家の中に入っていく

京  「達也のばかー!!」
ミチル「京ちゃん!」
達也 「え……? なんで?」



・ケーキ屋前(朝)

達也 「おばさん、おはよう」

いつもどおりに達也が来る
店の前の掃除をしているミチル
元気無さそうに挨拶をする

ミチル「あらぁ、たっちゃん……おはよう……」
達也 「? どうしたの?元気ないけど」
ミチル「なんでもないのよぉ。ただ私の夢が一つ無くなっただけで……」
達也 「夢? って、京ちゃんは?」

達也、店を覗くが京はいない

達也 「店番してないの?」
ミチル「京ちゃん、お熱出しちゃって寝てるのよぉ……」
達也 「熱!? 大丈夫なの? 俺学校終わったら見舞いに来るよ。言っといて」
ミチル「来てくれるの!? ありがとう!」
達也 「当たり前だろー。それじゃあ行ってくるね」

達也、歩き出す

ミチル「あぁ、たっちゃんがこんなに遠い存在に見えるなんて……」



・大学、教室

鞄に荷物をつめている達也
そこへのどかが来る

のどか「達也くーん。この後どっか行かない?」
達也 「え? あぁ、ごめん。今日ちょっと用事があるから無理なんだ」
のどか「そうなの?」
達也 「うん。また今度!」

達也、去っていく

のどか「……」



・京の部屋前(夕方)

京の部屋の前に立っている達也

達也 「おーい。京ちゃん、熱大丈夫?」

中でガタっと音がする

達也 「?」
京  「だ、大丈夫じゃない!」
達也 「なんだ、声は元気そうじゃん。開けてよ」
京  「ベッドから出れないから開けられないの!」
達也 「なんだそれ」

達也、ドアノブを回すが鍵がかかっている

達也 「京ちゃん、なんで鍵なんかかけてんの? いっつも開いてんのに」
京  「お、俺にだってプライベートがあるんだ!」
達也 「はぁ?」
京  「俺は達也に会ったら死んじゃう病なんだよ! だから会えないの!」
達也 「はははっ、なんだそれ。まぁいいや。元気そうだし、また来るよ。ちゃんと寝とけよー」

達也、去っていく



・京の部屋(夕方)

京、布団をかぶっている

京  「へっ!? もう帰るの!?」

何の返事も無いドアの向こうに京、枕に顔をうずめる

京  「達也のばかー!」



・ケーキ屋前(朝)

店の前を掃除しているミチル
そこへ達也が来る

達也 「おはよう、おばさん」
ミチル「あら、たっちゃん。おはよう」

達也、店の中を覗く
京がカウンターの中でぼーっと突っ立っている

達也 「あ、京ちゃん復活したんだ」
ミチル「そうなのよー。だけど元気無くって。……私もだけど……」
達也 「え? なんかあったの?」
ミチル「……」

ミチル、達也を見つめる

達也 「?」

達也、首をかしげる



・ケーキ屋店内(朝)

ぼーっとしている京
ふと店の外を見ると達也がいて目が合う

京  「!!」

達也、笑顔で手を振る

京  「っ!」

京、そのまま座り込んで隠れる



・ケーキ屋前(朝)

達也 「なんだ、京ちゃん変なの」
ミチル「ねぇ、たっちゃん」
達也 「? なに?」
ミチル「その……彼女とは……」
達也 「うん?」
ミチル「その……、あーん! やっぱり聞けないわ!」

ミチル、顔を両手で隠して首を振る

達也N「相変わらず変な親子だ」



・京の部屋前(夜)

達也N「それからの京ちゃんは」

達也 「おーい、京ちゃん。開けてよー」
京  「だめ!」



・ケーキ屋前(朝)

達也N「何故か俺に会おうとしてくれなくて」

ケーキ屋の中を見る達也
中で京が接客をしている
ふとした瞬間に達也に気がつくとぱっと顔を逸らす京

達也 「……」



・大学、中庭

達也、花壇の淵に座っている

達也N「俺はなんか面白くない」

達也、不機嫌そうにしている
そこへのどかが来る

のどか「たーつや君」
達也 「あ、のどかちゃん」
のどか「どうしたの? 難しい顔して」

のどか、達也の隣に座る

達也 「いや、なんか最近京ちゃんがおかしくってさー。あ、いや、前からおかしい人だったけど」
のどか「はははっ、京ちゃんってあのケーキの王子様でしょ?」

のどか、笑う

達也 「ケーキの王子様!?」
のどか「あれ? 知らないの? あそこのケーキ美味しくて有名だけど、王子様の接客目当ての子もいっぱいいるんだよ?」
達也 「京ちゃんが王子様か……。想像できなくも無いけど……」
のどか「それで? その王子様がどうしたの?」
達也 「ん? あー、なんかさ。最近顔も合わせてくれなくて。俺なんかした覚えもないんだけど」
のどか「ふーん。二人は幼馴染なんだっけ?」
達也 「うん。幼稚園の頃からずっと一緒」
のどか「長いねー」
達也 「今までこんなこと無かったんだけどな」
のどか「だけど、王子様って一つ年上でしょ? どうして二人がそんなに仲良くなったの?」
達也 「えーっとね」



・幼稚園(回想)

達也N「俺が年少の頃にさ、休み時間の間ずーっと砂場で一人でなんか作ってる人がいたんだよね。それが京ちゃんだったんだけど」

京(5)、砂場で真剣な顔をして何かを作っている
それを遠くから不思議そうに見ている達也(4)



・幼稚園(回想)

達也N「京ちゃん休み時間終わっても作ってたから、先生に無理やり連れ戻されててさ」

京、先生に引きずられて戻っていく



・幼稚園(回想)

達也N「それを一日が終わるまでずっと繰り返してたんだ。それを俺はずっと見てたの」

京、一生懸命何かを作っている



・幼稚園(夕方)(回想)

達也N「放課後になってもやっぱり作ってて、気になって見に行ったら」

京、まだ作っている
それに近づいていく達也

達也 「ずっと何作ってるの?」

京、達也の声に振り返えらずに答える

京  「ケーキ」

砂で作られたケーキがもうすぐ完成しそうになっている

達也N「その真剣な顔がさ、なんか面白くって。だけどその砂のケーキが凄い綺麗だったんだよね」

京  「出来た!」

京、嬉しそうに笑う

達也 「凄いね。美味しそう」

達也、京に笑いかける
すると、京が驚く



・大学、中庭

達也 「その後はあんまり覚えてないんだけど、なんか京ちゃんが本物のケーキ食べさせてあげるとか言ってさ。俺も京ちゃんちのケーキ屋に入り浸りになって。そっからなんか腐れ縁で学校もずーっと一緒だったし。今も仲良くて……」

のどか、微笑む

のどか「いいね、そういうの」
達也 「そう?」
のどか「うん! 私幼馴染っていないもん。憧れちゃうなぁ」
達也 「はははっ、でも別にどうってことないよ?」
のどか「ふふっ、でも。どうしてだろうね? 顔合わせてくれないの」
達也 「うーん。ほんと謎なんだよな」
のどか「あ、でもさ。明後日ホワイトデーじゃない? それの準備で忙しいとか!」
達也 「ホワイトデー……」

京  『あ、そうだ。やっぱりホワイトチョコがいいかなぁ?』

達也、京の笑顔を思い出す

達也 「うーん……」
のどか「?」



・ケーキ屋前(夕方)

達也、一人歩いてくるとケーキ屋の中を見る
中にはミチルの姿しか見えない

達也 「……」

達也、黙って入っていく



・ケーキ屋店内(夕方)

達也が入ってくる

ミチル「いらっしゃいま……あら、たっちゃん。おかえりー」
達也 「ただいま。京ちゃんは?」

ミチル、少し困ったような顔をする

ミチル「京ちゃん、買出しから帰ってこないのよぉ」
達也 「え?」
ミチル「京ちゃん目当てのお客さんいーっぱいいるのにねぇ。困ったわぁ」
達也 「そうなんだ。じゃあ、また来るよ」
ミチル「あら、いいのよ? 中で待っててくれて」
達也 「いいよ。邪魔しちゃ悪いし。それじゃ」

達也、少し悲しげに微笑むと店を出る

ミチル「もう! 京ちゃんったら、どこで道草くってるのかしら!」

ミチル、ぷりぷり怒る



・達也の部屋(夜)

達也、コタツに寝転んで考え事をしている

達也M「俺なんかしたっけなー?」

寝返りを打つ

達也M「そういえば、こんなことも今まで無かった気がする……。どっちかと言うと俺の後をずーっと京ちゃんは付いて来てたし。京ちゃんがいないのって記憶に無いよな……。いっつも横でヘラヘラ笑ってたのに」

達也 「はぁ……」

達也M「……面白くない」

寝返りを打つ



・ケーキ屋店内

達也、中に入ってくる
しかしミチルしかいない

ミチル「あらぁたっちゃん、こんにちは」
達也 「京ちゃん……またいないの?」

ミチル、申し訳無さそうにする

ミチル「さっき出て行ったところなのよぉ。明日は忙しいだろうから今日はお休みなんだけど。どこ行ったのかしらね? 聞いておけばよかったわ」
達也 「そっか。じゃあいいや」

達也、それだけ言って出て行く

ミチル「たっちゃん……」

ミチル、名残惜しそうに達也を見送る



・街(夕方)

街を歩いている達也

達也M「ったく、何を怒ってるのか知らないけど、そんなに顔合わせるのも嫌なほどなのかよ……。あー! もう! ほんとに俺なんかしたっけな……」

達也、不機嫌そうに歩いている
すると前から京が歩いてくる

達也 「あ……京ちゃん……」

達也M「いいとこにいた! 文句の一つでも言ってやる!」

達也、京に声をかけようとするが、京、達也に見向きもしないでそのまますれ違う

達也 「京……ちゃん……」

達也、そのことに驚く

達也 「……」

達也、呆然と京の後姿を見ている



・京宅、玄関(夜)

達也、息を切らしている
出迎えているミチル

ミチル「あらぁ、たっちゃん。どうしたの? そんなに急いで」
達也 「おばさん! 京ちゃんは!?」
ミチル「京ちゃんならお店のキッチンにいるけど……」

達也、勝手に家に上がる

達也 「ちょっとお邪魔します!」
ミチル「た、たっちゃん?」

達也、そのまま店のほうへ行く



・ケーキ屋、キッチン(夜)

京、眼鏡をかけてキッチンにいる
真剣な顔をして何かを作っている

京  「……」

そこへドタドタと足音が聞こえてきて達也が現れる

京  「?」
達也 「……」

京、達也に気づいて焦る

京  「あ、や、え? た、達也!? な、なんで!」

達也、怒っている

達也 「この野郎! 無視するほど俺が嫌いか!!」
京  「無視? え? ど、どうしたの……」
達也 「俺が何したって言うんだよ! 何の説明もなしに俺のこと無視しやがって! 卑怯だぞ!」
京  「ひ、卑怯って……あの……」

京、後ろでに作っていたものを隠す

達也 「少しは説明くらい……」
京  「っ!!」

京、達也を見て驚く
達也、無意識のうちに泣いている

達也 「嫌いなら……嫌いって言えよ……」
京  「ぐっ……!」

京、急に右手を押さえだす

京  「くそっ……! 俺の……っ! 封じ込めた右腕が勝手に……!」
達也 「?」

京、急に静かになると目を逸らす

京  「だけど駄目なんだよ……。だって達也には好きな人が出来たわけだし。俺とはもう一緒にいてくれないだろうから。達也離れしなきゃいけないんだなって思って」
達也 「え……?」

京、悲しげに微笑む

京  「だって達也は俺のこと好きじゃないだろ?」
達也 「何言ってんだよ……。なんでそうなる? 俺、京ちゃんのこと好きだよ」
京  「ははっ、なんて嬉しい言葉なんだ」
達也 「だから今まで通り……」
京  「馬鹿だなぁ。俺ちゃんと達也に言っただろ? ぞっこんラブだって」
達也 「?」
京  「俺は達也が大好きなんだよ。もうこれ以上無いくらい。ずーっとずーっと好きだったの」
達也 「そんなこと……」
京  「知ってるって? だったらそろそろ気づいてくれてもいいじゃない。達也に彼女が出来たって聞いて、傷ついた俺の気持ちに」
達也 「……」
京  「ほら、ね? 今分かったんでしょ?」
達也 「でも……」
京  「だからさ、必死になって達也離れしようとしてたわけ。だけど俺も馬鹿だよなぁ」

京、隠した物を出す
作りかけのケーキ

京  「こんなんまだ作ってんだもん」
達也 「ケーキ……?」
京  「ホワイトデー。ってことで、これ完成したら達也にあげるからさ。それまで我慢してよ」

京、少し笑いながら作業を続ける

京  「これ渡して、達也にちゃんと振ってもらうんだ。そしたら、がんばって気持ち吹っ切るから。だからそれまでちょっとだけ我慢しろよ? 俺だって辛いんだからなぁ」
達也 「……」

達也、京の真剣な表情で作っている

達也M「あ、あの時の顔と同じ……」

京  「そしたら俺も恋人でも作るかなぁ」
達也 「え?」
京  「俺ってば結構モテるんだぜ? その気になれば一人や二人ー……」
達也 「いやだ」

京、手を止めて達也を見る

京  「え?」
達也 「そんなの嫌だ」

京、笑う

京  「なーんだそれ。ずるいぞー達也。お前だけ幸せになって、俺はずっと一人ぼっちでいろってかぁ?」

達也、首を振る

達也 「違う。だけどなんか嫌だ」
京  「……」
達也 「想像しただけでなんか嫌だ。京ちゃんが誰かと一緒にいるところなんか、見たくない」
京  「お前……」
達也 「どうしてだろう。凄く嫌だ」

達也、涙をこぼす
京、それと同時に達也を抱きしめる

京  「くそっ……俺の右手がまたっ……!」
達也 「なぁ、京ちゃんもこんな気持ちだったのか?」

達也、京を見上げる

京  「なんてこった。おい、達也。正気か? お前俺に超告白してるようにしか聞こえないぞ」
達也 「質問に答えろよ。京ちゃんも、こんな気持ちだったのか?」

京、一息ついて鼻で笑う

京  「いいや、もっとずっとお前が思ってるよりも辛かったよ」

達也、京の胸に顔をうずめる

達也 「京ちゃん、俺のこと好きなんだよな?」
京  「あぁ。何度でも言ってやる」
達也 「だったら俺もたぶん同じ気持ちだ」
京  「っ!!」

京、達也を突き放す

達也 「?」
京  「達也。それ以上はやめろ。俺の理性が崩壊する!」
達也 「はははっ、なんだそれ」

達也、笑う
京、ごちゃごちゃつぶやく

京  「う、嬉しいけどどうしよう……、えぇっと、だってでも、これは夢か? 凄く都合のいい夢か! そうか! 夢だ! だったらチューくらいしていいだろ!」

京、達也を見る

達也 「?」
京  「達也! チューしよう!」

京、言うと顔を近づける
しかし、達也に顔面を押さえられ阻止される

達也 「馬鹿!」
京  「痛い……、夢じゃない……」

達也、照れて俯く

達也 「そ、それに俺まだのどかちゃんに何も言ってない……」
京  「うっ……! そ、そうだな……ちゃんとな……」

京、聞こえないくらいの声でつぶやく

京  「のどかちゃんと……きゃっきゃうふふ……」

京、急に発狂する

京  「いやーん!! もういい! 俺はケーキ作りに専念するからちょっと待ってろ!!」

京、また作業を続ける
達也、笑う
京、また真剣な顔になる

達也 「……なぁ京ちゃん」
京  「ん?」
達也 「俺、もしかしたらもっと前から京ちゃんのこと好きだったかもしれない」
京  「は? お、おま、何言ってんだ」

京、うろたえる

達也 「だって、俺、京ちゃんのその真剣な顔が好きなんだ」
京  「き、急にどうしてそんな素直になっちゃったの」
達也 「俺が初めて京ちゃんに声かけたの、覚えてる?」
京  「え? あ、あぁ……幼稚園のな……」
達也 「そうだよ。その時も京ちゃん今と同じ顔して作ってたんだ。それが面白くて」
京  「面白い?」

京、疑うように達也を見る

達也 「だから声かけたんだよ」

達也、笑っている

京  「……」

京、呆然としているが眼鏡を取って目をこする

達也 「何」
京  「いや、達也がこれ以上ないくらいに可愛いからびっくりして……」
達也 「はははっ、相変わらず京ちゃんは変だな」
京  「相変わらず変……?」

京、眉をしかめる

達也 「そうだ。なんで眼鏡なんかしてるんだよ」
京  「いやー、今日歩いてたらコンタクト無くしてさぁ」
達也 「へ?」
京  「だから今日は眼鏡なんだけど……ってなにその顔」

達也、疑うように京を見る

達也 「京ちゃんって目悪かったっけ?」
京  「え? 今更? 俺超ド近眼なんだけど」
達也 「だからあの時気がつかなかったのか……」

京、首をかしげる

京  「なんのこと?」



・達也の部屋(夜)

達也と京、コタツに入っている
コタツの上には京のケーキがある
京、恐る恐る聞く

京  「で、修羅場にはならなかったの……?」
達也 「ん? うん。別に」
京  「うぅ……嬉しいんだけど心が痛む……!」
達也 「そんな気がしてたーってさ。はははっ」
京  「そ、そっか……」
達也 「それより早くこれ食おうよ」
京  「あー、はいはい。ちょっと待って切るから」

京、包丁を持って切り分ける

達也 「なぁ、それで、京ちゃんはいつから俺のこと好きだったの?」
京  「え? あぁ、ふふっ」

京、楽しげに思い出し笑いをする

達也 「?」
京  「俺もあの時だよ。お前が声かけてくれたとき」
達也 「へぇ」
京  「あの砂のケーキはな、俺が生まれて初めて作ったケーキなのだよ」
達也 「ほう」
京  「それをお前が一番最初に褒めてくれたんだ。それでぞっこんラブに」

京、達也の前にケーキを置く

達也 「へぇ、もっと早く言ってくれればよかったのに」

なんでもない顔をしている達也に京、呆れる

京  「いや……俺はずっと言ってたつもりなんだけどね……」

達也、京の言葉を気にせずケーキの上にあるチョコを取る

達也 「うまそー!」

京、それを見て阻止する

京  「待った!! それはこうやって」

京、達也の手からチョコを口で取り上げるとそのままキスをする

達也 「!?」
京  「ふふっ」

離れるとチョコをお互い食べる

京  「俺考案、キスで割れちゃうラブラブチョコ」
達也 「……」

達也、耳に入らず照れて真っ赤になっている
京、そんな達也を見て右腕を押さえる

京  「くそっ! 俺の右腕が勝手に!!」

京、達也を押し倒す

達也 「うわっ!」





おわり

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