・地下ガレージ(早朝)

ガチャガチャと工具の音がする

永智M「遠い遠い昔のこと。俺の記憶の中の母親は、可憐で優しく、物語の中に出てくるような人だった」

永智(えいじ)(22)机に向かって機械をいじっている

永智M「だけどそれはたった一つの記憶の欠片で、それもただ、父さんに聞かされて作った想像の記憶だ。だから正しく言えば、俺に母親の記憶は無い。気が付いたら父さんと二人だけだった」

永智、額に垂れる汗を拭く
それと同時にドアがノックされる
ドアの方を見る永智

永智 「はい」

ドアの向こうから父親の智彦(ともひこ)(39)の声が聞こえる

智彦 「永智?まだ起きてたの?」



・地下ガレージ前(早朝)

智彦、ドアの前にいる
ドアが開くと永智が顔を出す

永智 「おはよう父さん」
智彦 「おはよう。また徹夜?だめだよ、ちゃんと寝ないと」

永智、頭を掻く

永智 「いやー、ちょっと調子良かったから」

智彦、呆れて笑う

智彦 「相変わらず好きだね、僕にはさっぱり分からないけど。そろそろ何を作ってるのか教えてくれてもいい頃じゃない?」
永智 「はははっ、だから秘密道具だって」

永智、笑う

智彦 「うーん。まぁいいけど。でも体には気をつけて、ちゃんと寝ないとだめだよっ!」
永智 「はーい」

笑い合う二人

智彦 「朝ごはん出来てるよ。食べるでしょ?」
永智 「おう、食う食う」
智彦 「顔洗っておいで」

智彦、言うと階段を上がっていく

永智 「うん」

永智、言いながら智彦を見ている

永智 「……」

永智M「父さんの中に今でも生きる母親は、出会いの中の、幸せな瞬間。だけど俺は知っている。父さんはあの人に出会わなければ幸せに暮らせていたこと──」



・リビング(夕方)(回想)

永智(3)と智彦(20)向かい合って座っている

智彦 「ねぇ、永智。君のお母さんはとてもとても綺麗で優しくて、お姫様みたいな人だったんだ」
永智 「お姫様?」
智彦 「そう。僕はね、一目見て恋に落ちたんだよ」
永智 「ふふふっ、じゃあお父さんは王子様だね」

智彦、目をぱちくりさせる

智彦 「う、う〜ん、そうかな…?」
永智 「そうだよ、だってお姫様と王子様は結婚して幸せになるんだ」
智彦 「……そうだね」

智彦、悲しげに微笑む
永智、首をかしげる

永智 「だけど不思議だね。お母さん、どこいっちゃったんだろう?」

智彦、永智を抱きしめる

智彦 「……」

永智M「あの頃、俺は何も知らなかった」



・リビング(朝)

テーブルを挟んで朝食を食べている永智と智彦

永智M「物心付いたころにはもうこの家には二人だけで、母親がいると知ったのは3歳になった頃。初めて聞いた母親の話は、俺にとってはとても綺麗な世界で、父さんは俺にただ出会ったときのことを話してくれた」

永智 「父さん、醤油取って」

智彦、醤油を渡す

智彦 「はい」

永智M「父さんが16の頃。クリスマスの夜に二人は出会い、そして恋をした」



・繁華街(夜)(回想)

制服姿で一人歩いてくる智彦(16)
街中クリスマスに染まり、沢山の人が行き交っている
駅前広場の真ん中に大きな噴水があり、その前を歩く智彦

智彦 「……」

智彦、ふと立ち止まると振り返り、噴水の脇に座っている夕菜(ゆうな)(24)を見る

永智M「恋に落ちた。と、父さんは幼い俺にそう言った」

智彦、夕菜に向かって歩き出す
目の前に立つと、智彦の影に夕菜が視線を上げる

智彦 「あ、あの」

永智M「クリスマスの空気が、俺には鮮明に想像できた。両親の思い出は、鮮やかだった」



・キッチン(朝)

永智、食器を洗っている
そこへ智彦が残りの食器を持って来る

智彦 「永智は来週予定あるの?」

永智、食器を洗いながら話をする

永智 「来週?あぁ、あるよ」

智彦、残念そうにする

智彦 「なぁんだ。やっぱりか」

永智、笑う

永智 「なに、やっぱりって」
智彦 「だって永智、カッコイイもん。そりゃ女の子の一人や二人いるよね。クリスマスだって引っ張りだこ?」
永智 「何言ってんの。父さんは?なんか予定無いの」
智彦 「さっぱりさ」

智彦、布巾を取って食器を拭く

智彦 「今年も永智と二人で過ごせるかと思ってたんだけど、まぁ仕方ないよね」

智彦、笑う

永智 「……」

永智、一瞬智彦の方を見るがまた食器を洗う
静かに言う

永智 「ごめんね。毎年一緒だったのに。でも今年は無理なんだ」

智彦、永智のその声を聞いて驚く

智彦 「い、いや、いいんだよ?家でクリスマスって方が珍しいんだから。それに父親と二人だけとか、20歳超えても一緒にいてくれただけで十分だよ」

永智、智彦を見て笑う

永智 「何言ってんの。当たり前だろ」
智彦 「そう?ねぇ、そんなことより。僕にも紹介してよその子。永智の彼女に僕会ったことないよ?」
永智 「はははっ、そのうちな」
智彦 「もう」

笑い合っている二人



・地下ガレージ(夜)

机に向かってパソコンをいじっている永智
モニターの光が顔に反射している

永智M「母親が姿を消したことを、父さんははっきりと話してはくれない。それは今までずっと。そのことを聞いても濁して逃げてしまう。優しい父さんだからきっと、俺を傷つけたくないとでも思っているんだと思う。だけど俺はもう子供じゃない。いつの頃からか、俺が夢見た先は父さんの幸せだけだった」

キーボードを叩く音だけがガレージに響いている



・アクセサリーショップ

奥のレジカウンターに肘を付いている利也(としや)(22)
店の前に現れた永智の姿を見てまずいという顔をする

利也 「ゲッ!」

ドアを開けて入ってくる永智
利也の表情を見て呆れた顔をする

永智 「お前…」
利也 「い、いや違うんだよ!俺は!」

永智、カウンターの前に立つ

永智 「もういい、言わなくて。忘れてたんだろこの野郎」
利也 「ご、ごめんなさい!今すぐするから!なんだっけ!?あ、あれだ!名前!ね!」

利也、焦って奥に引っ込む
その姿を見てため息を吐く永智
すると指輪を持って出てくる利也

利也 「これでしょ?ね?すぐ出来るんだから、べ、別に用事ないんでしょ?これから」

永智、呆れながら脇にあった椅子に座る

永智 「あぁ、いいからさっさとしろ」

利也、カウンター内にある作業台の前に座る

利也 「いやー、すっかり抜けてて…だぁって永智あれからずっと地下篭りしてたんでしょ?そりゃ忘れるよねーって」
永智 「お前のその忘れ癖が治ればこの店はもっと繁盛するだろうな」
利也 「いやだねー、これでも売り上げ上がってんのよ」
永智 「そうかそうか」
利也 「いじわる」

ドアが開いて桐(きり)(18)が入ってくる

桐  「あれー、地底人がいるー」

利也、声に桐を見る

利也 「キリちゃんお帰りー」

桐、カウンターに入る

桐  「ただいまです。あー、やっぱり忘れてたんだこれ。そうだと思ってたんですよ」
永智 「だったらちゃんと言ってやれよ。お前はこいつの補助みたいなもんだろ」
桐  「嫌ですよ」
利也 「嫌なの?」

桐、利也を無視して話し出す

桐  「地下から出てきたってことは出来たんですか?秘密道具」
永智 「うーん、まぁそろそろ」
利也 「でもでも来週でしょ?」
永智 「あぁ」
桐  「もう何年になるんですか?小さい頃からやってたんでしょー?」
利也 「10年以上前だよね、覚えてるもん俺。永智が作文書いてたの。えーっと、なんだっけ?お父さんを幸せにするんだってやつ」
永智 「あぁ、そうだよ」

永智M「その夢が形を帯びたのは、俺が10歳の冬の頃」



・教室(回想)

作文を持って席に座る永智(10)
作文には花丸がついている
そこへ利也(10)が来る

利也 「わー!永智はなまるだ!」
永智 「利也は?」
利也 「へへへー」

利也、自分の作文を見せる
丸がしてある

利也 「まるー!」

永智、呆れる

永智 「そう」
利也 「ねぇねぇ、何書いたの?」
永智 「俺の将来の夢だよ」
利也 「将来の夢かー!なになに?お医者さん?」
永智 「違うよ。お父さんを助けてあげるんだ。タイムマシンを作って」
利也 「タイムマシン?」



・アクセサリーショップ

永智 「それじゃ」

永智、店を出て行く
その姿を見ている利也と桐

桐  「ねぇ、利也さんは知ってるんでしょー?秘密道具の秘密」
利也 「うん。知ってるよ。永智はタイムマシンで過去に戻っておじさんを助けてあげるんだって」
桐  「でもでも、それってどこまで戻るんですか?」
利也 「それはね、永智が生まれたすぐ後だよ。そこでおばさんを引き止めてあげるんだって」
桐  「そうなんですか?永智さんが言ってたの?」

利也、頷く

利也 「そうだよ、作文に書いてあった。おばさん引き止めて、家族三人。万々歳。ね?いい話だよね」
桐  「ふーん」



・地下ガレージ(夕方)

ガレージに入ってくる永智
鞄を無造作にソファに置くと机の前に座る
パソコンの電源をつけ、ポケットから指輪を出す

永智 「……」

指輪の内側にはtomohikoと書かれている

智彦 『クリスマスのイルミネーションの中、僕は恋をしたんだよ』

永智M「年を重ねるごとに、父さんの言葉に喜べない思いを感じだした」

永智、起動したパソコンに向かってキーを打っていく

永智M「その頃から、記憶の欠片の母親が霞んで歪んで、そして、幼い夢は、形を変えた」

物凄いスピードで打たれていく文字

永智M「父さんの幸せを、叶えるため」



・地下ガレージ(早朝)

相変わらずパソコンに向かってキーを打ちこむ永智

永智 「……」

画面には様々な文字が流れて行く
しばらくするとそれがゆっくりと止まっていく
そして最後にDecember 25...Ready?≠ニ表示される

永智 「……」

永智、その文字をみて静かに息を吐き出すと背もたれにもたれ、
上を向いて静かに目を閉じる

永智M「この日の為に……」



・地下から上がる階段(朝)

永智、無表情のまま静かに階段を上がっていく



・リビング(朝)

永智がリビングの扉を開くと、朝の日差しが窓からリビングへ差し込んでいるのを見る
キッチンに智彦がいるのに気が付く

永智 「……」

智彦、リビングに出てきた永智に気が付くと微笑む

智彦 「おはよう」
永智 「……」
智彦 「こんなに朝早くからデート?」

永智、智彦の微笑みに一瞬目線を下げ、そして智彦を見て微笑む

永智 「父さん。クリスマスパーティーしようか」



・リビング(朝)

いつも通りの朝食を前に向かい合って座っている永智と智彦
智彦、苦笑いをする

智彦 「永智…これじゃあいつもの朝食と同じだよ…?」

そんな智彦に笑う永智

永智 「じゃあこれで。いつもと違う」

永智、傍にあったキャンドルを手に取るとマッチを擦って火をつける
智彦、笑う

智彦 「クリスマスらしいよ」

食事を始める二人

智彦 「また朝まで起きてたんでしょ?大丈夫なの?このままデートだなんて」
永智 「眠れなかったんだ」

智彦、永智の言葉に目をぱちくりさせる

智彦 「永智でもそんな緊張したりするんだね。驚いたな」
永智 「はははっ」
智彦 「僕なんかいっつも緊張してたよ。ほら、お母さんと出会ったときも。死にそうなくらい緊張してたんだ」

智彦、懐かしげに笑う

永智 「……」
智彦 「もう随分と前のことだけど…」

永智、食事の手を止める
智彦、手を止めた永智を不思議そうに見る

智彦 「永智?」

永智、智彦を見ずに話し出す

永智 「父さん…、もし、過去に戻れるとしたら…どうする?」

智彦、微笑む

智彦 「そうだなぁ…、あ、あのね。永智がまだ小さかった頃…えーっと、4歳くらいだったかな?二人でかくれんぼしてたんだよね、それで僕がオニだったんだけど、いつまで経っても永智のこと見つけられなくて、それで永智、泣いちゃったんだよ」
永智 「……」
智彦 「あの頃に戻って、ちゃんと見つけてあげたいな」

懐かしげに笑っている智彦

智彦 「永智、あの時覚えて…」

永智、顔を上げる

永智 「違う」
智彦 「え?」
永智 「違うだろ…。本当に戻りたいのは…、父さんが戻りたいのは…」
智彦 「…?」
永智 「あのクリスマスの日だろ…、母さんと出会った…」

智彦、驚く

智彦 「…どうして…?」
永智 「なぁ、父さん。俺もう子供じゃない。何も知らずに父さんが教えてくれた母親を、夢見てることなんか出来なくなった」
智彦 「……」
永智 「俺、知ってるんだよ」
智彦 「何を…」
永智 「俺と…父さんは…血が繋がってないってこと」

智彦、目を見張る

智彦 「っ……」
永智 「どうしてあの時俺を素直に受け止めたの…?分かってたんだろ?自分の子供じゃないって」

智彦、無理に微笑む

智彦 「何言ってるの。永智は、僕の息子だよ」
永智 「父さん」
智彦 「もう、馬鹿だなぁ永智は。君は僕の息子。誰にそんなこと言われたの?そんなの信じちゃだめだよ」
永智 「……」
智彦 「ほら、早く食べないとご飯、冷めちゃうよ?」

智彦、食事をしようとする

永智 「……父さんとあの人が出会った時には、もうすでに俺はいたんだろ」

智彦、永智の言葉に手を止めるが、永智を見ない

永智 「そんな簡単なこと、すぐに分かるじゃないか…」
智彦 「……」
永智 「他にもおかしなことなんて沢山ある…、それなのに、どうしてあの時…、自分の子だって受け入れたの…?」
智彦 「……」
永智 「俺を置いて出て行った時だって…どうして…ずっと…」

智彦、声を荒げて立ち上がる

智彦 「やめてッ!!」
永智 「父さん…」

智彦、額を押さえながら庭へ繋がる戸の方に行く

智彦 「やめよう…こんな話…。せっかくのクリスマスなのに…」
永智 「……」

智彦、呟く

智彦 「そうだよね…もう君は子供じゃない……」

永智、その言葉に立ち上がると智彦の方へ行き、何も言わずに智彦を抱きしめる
智彦、驚く

智彦 「永智…?」
永智 「あの時…、あの人に出会いさえしなければ、父さんはもっと自由に生きていけたんだ」
智彦 「……」
永智 「こんな荷物…背負わなくてすんだのに…」

智彦、永智の言葉に背中に手を回す

智彦 「永智…、何が荷物なの?」
永智 「そんなの」
智彦 「何言ってるんだよ。ねぇ、永智。僕はね、あのクリスマスの日。ホントに死にそうなくらい緊張してたんだ。だけど声をかけなきゃいけないと思った」
永智 「っ……」
智彦 「それはね、君に出会うためだったんだよ」
永智 「え……?」
智彦 「僕は君に会うために、あれだけ勇気を振り絞って声をかけたんだ。だから、ねぇ。今こうして君といることは、何も不思議なことじゃない」
永智 「……」
智彦 「僕は君といることが、何よりも幸せなんだ」

永智、智彦を強く抱きしめる

永智M「幼い夢が、その一言にすべてを砕かれた」

永智、その腕を解き、優しくキスをする

永智M「だけど、ねぇ。父さん。さようなら」

永智、離れるとそのまま地下へと続く扉を開けてリビングを出て行く



・地下ガレージ(朝)

永智、パソコンの前に立ち、ポケットから指輪を取り出す
永智、ふっと笑う

永智M「俺は今、あなたの中から、あの人の影を消しに過去に戻る」

モニターにはDecember 25...Ready?≠ニ表示されている

永智M「あなたへの思いのために」

永智、キーボードのDeleteボタンにそっと触れる



・リビング(朝)

智彦、その場に立ち尽くしている

智彦 「……」

智彦、唇にそっと触れると地下へと続く扉を見る
視線を泳がせながら俯くと、ポケットに手を入れ中から指輪を出す

智彦 「……」

指輪の内側にはeijiと書かれている



・地下へと続く階段(朝)

智彦、静かに階段を下りてくると扉の前で一息つく

智彦 「……永智」

声をかけるが返事は無い

智彦 「……、永智?入るよ…?」

智彦、言うと扉を開ける



・地下ガレージ(朝)

扉を開ける智彦
中には誰もいない

智彦 「永智…?」

中に入るとパソコンのモニターにふと目線を移す
モニターにはDad,I love you.≠ニ表示されている
智彦、その文字を見てもう一度部屋の中を見る

智彦 「……永智…」



・繁華街(夜)(過去)

クリスマスの夜の繁華街
沢山の人が行き交い、ジングルベルがどこからとも無く流れてくる
その人の中を歩いてくる永智

永智 「……」

永智、静かに足を止める
目線の先には噴水の前に座っている夕菜の姿がある



・繁華街(夜)(過去)

智彦(16)が歩いてくる
するとふと足を止める

智彦 「……」

智彦、振り返ると永智が立っている

智彦 「……」



・街(夜)(過去)

並んで歩いている永智と智彦
智彦、少し笑っている

智彦 「大分遠くまで来たんですね」
永智 「えぇ。この辺りには詳しくなくて」
智彦 「今日はさすがに人も多いですもんね」
永智 「……」

永智、智彦を見ている
それに気が付かずに歩いていく智彦
永智、前を見て歩く

永智M「クリスマスのイルミネーションが、俺のあの記憶の中と同じに鮮やかに煌いている。古い町並みの中を歩く幼い父さんの姿は、俺の知ってる父さんと変わりは無かった。俺は知っている。ずっと父さんはこのままなんだ」

智彦 『永智』

永智M「この後、母親と結婚して、俺が生まれても。父さんはずっとこのまま……」

智彦 「ここにもうすぐ大きなショッピングモールが出来るらしいですよ。僕、この商店街の町並み大好きだったんで…」

智彦、言いながら永智を見る
永智、俯いていて段々と歩みを止める

智彦 「あの…」

永智、俯いたまま涙をこぼす

永智 「…ごめんなさい……」

智彦、心配そうに永智を見つめる

永智 「ごめんなさい…俺……」
智彦 「……」

智彦 『君に出会うためだったんだよ』

永智M「父さんは俺をずっと見ててくれたのに」



・廊下(夕方)(回想)

智彦(21)、歩いてくる

智彦 「永智ー、どこー?」

呼ぶが返事は無い
立ち止まって考える

智彦 「どこに隠れてるんだろ…?もう30分も探してるのに…」

また歩き出す智彦

智彦 「永智ー」

地下へと続く階段への扉が閉まっている
その中から微かに物音がする

智彦 「永智?そこにいるの?」

智彦、扉を開けると階段に永智(4)が座っている
永智、こちらを向かない

智彦 「いたー!こんなところにいたんだ。永智、隠れるの上手だねー」

智彦、永智に笑いかけるが永智、振り向かずに微かに肩を震わせている

智彦 「永智?」

智彦、永智の顔を覗く
今にも泣き出しそうな永智
智彦、焦る

智彦 「永智っ、あ、あの、ごめんね?泣かないでっ」

永智、振り返って智彦に抱きつく
声が震えている

永智 「もうかくれんぼしない…」

智彦、永智を抱きしめる

智彦 「どうして?永智の勝ちだよ?」
永智 「だってお父さん見つけてくれないもん…」
智彦 「ごめんね。永智が隠れるの上手だから、僕見つけられなかったよ。でもね」

智彦、体を離すと泣いている永智を見る

智彦 「でも、永智一等賞だ」

智彦、言って微笑む
永智、涙を流してまた智彦に抱きつく

永智 「やだ…一等賞じゃなくていい…お父さんに見つけてほしいもん」

智彦、また抱きしめて微笑む

智彦 「そっか。ごめんね、永智。次はちゃんと見つけるから」



・街(夜)(過去)

俯いたまま肩を震わせている永智

永智 「あなたは…ちゃんと俺を見つけてくれたのに……、ずっと…見ててくれたのに…」

智彦、黙ったまま永智を見ている

永智 「だけど、どうしても…こうすることしか出来なかった……気持ちが…抑えられなくて…」
智彦 「すごく好きなんですね…その人のこと」
永智 「え…」

永智、智彦を見る
智彦、微笑んでいる

智彦 「羨ましいな」
永智 「……」
智彦 「何があったのか、僕には分からないけど、でも。謝ったりなんかしないでいいんですよ」

智彦 『僕は君といることが』

智彦 「だって、そんなにもその人のことを想っているんだから」

智彦 『何よりも幸せなんだ』

智彦、もう一度微笑む

智彦 「ね?」
永智 「……」

永智、その微笑みに目線を下げるとしばらくして智彦を見て微笑む

永智 「あなたが言うなら…きっとそうなのかな…」



・街(夜)(過去)

智彦の少し後ろを歩いている永智

永智 「本当は最後に渡したかった物があったのに、それも渡せないままでした」

智彦、少し後ろを伺うがまた前を見て歩く

智彦 「きっといつか渡せますよ」
永智 「どうして?」
智彦 「どうしてだろう?ふふ、なんかそんな気がするんです」

永智、くすっと笑う

永智 「だったらいいな」

永智、手を見るとだんだんと透けてくる

永智 「……」
智彦 「今日はいつもと違う道を歩いてきて正解でした」
永智 「え?」
智彦 「僕、いつもはあの道使ってないんですよ。でもね、クリスマスのこの雰囲気がすごく好きで、人ごみの中でみんなの笑ってる顔が見たくて、人の多いあの道を通ってきたんです」

永智、言葉をなくす

永智 「……」
智彦 「そしたらね、やっぱりいいことがあった」
永智 「……」

永智、俯く

智彦 「あの時、振り返ってよかった」

永智、振り向かない智彦の方を見て切なげに目線を下げる
段々と体までもが透けてくる

永智M「父さん。いつかまたどこかで会えると信じてる」

智彦 「あなたに会えたから」

永智M「その時はまた、俺を見つけてそう言って…」

智彦、微笑んで振り返る
それと同時に永智の体は粒子となって消えてしまう



・リビング(回想)

永智(7)と智彦(24)、机に向かって二人で紙に何か書いている

永智 「ねぇお父さん見て」
智彦 「ん?」
永智 「俺の名前とね、お父さんの名前。同じだよ」

永智、うれしそうに笑う

智彦 「そうだよ。僕の名前を永智にあげたんだ」
永智 「ほんとに?」

笑いあう二人



・リビング(回想)

リビングにいる智彦(27)
扉を開けて永智(10)が帰ってくる
永智、手に花丸の付いた作文を持っている

永智 「お父さん!見て!はなまる!」

微笑む智彦



・玄関先(夕方)(回想)

永智(15)、女友達に手を振る
手を振って去っていく女友達

智彦 「彼女?」

後ろから現れる智彦(32)、笑っている
永智、少し悲しげに微笑むと玄関の方へ歩き出す

永智 「違うよ」
智彦 「えー?ほんとに?」



・キッチン(夜)(回想)

永智(18)、食器を洗っている
そこへ智彦(35)が来る

智彦 「ねぇ、永智。永智の好きな子っていないの?」
永智 「え?」
智彦 「永智ももう18歳だし、そういう子いるだろうなぁって」

智彦、笑う
永智、智彦の笑顔を見て一瞬目線を下げると食器洗いを続ける

永智 「いるよ」
智彦 「えっ?どんな子?」

智彦、興味津々で永智を見る
永智、智彦を見る

永智 「父さん」
智彦 「え…?」

永智、ふっと微笑むとまた食器を洗う

智彦 「もう!そうやってはぐらかすんだから!教えてよー!」

智彦、笑う
そんな智彦に悲しげに笑う永智

永智M「ねぇ、父さん。俺はずっとあなたを愛していた。過去を変えて、あなたが俺の父さんじゃなくなれば」



・地下ガレージ(朝)(回想)

モニターにはDecember 25...Ready?≠ニ表示されている

永智M「この思いも、どうにかできると思ったんだ」

永智、キーボードのDeleteボタンにそっと触れる



・街(夜)(過去)

智彦 「あれ……?」

智彦、誰もいないその場所を見て不思議そうにする

智彦 「……」

永智M「ごめんね。父さん」

智彦、ふと地面に光るものを見つける
拾い上げてみるとそれは指輪で、内側にtomohikoと彫られている

智彦 「っ……」

智彦、誰もいないその場所をただ見ている



・路地

智彦(39)、車の前で頭を抱えている

智彦 「最悪だ……」

車のバンパーに傷が入っている

智彦 「なんでこんな日に…」



・修理屋

倉庫に車を出している
修理屋と智彦、車の前にいる

修理屋「なーに、こんな日に擦っちゃったの?」
智彦 「言わないでくださいよ…どれくらいかかりますか…?」

修理屋、時計を見る

修理屋「この程度なら夜までには間に合うよ」
智彦 「よかった…」
修理屋「何、デート?まぁクリスマスだしねぇ」
智彦 「はははっ、そんな相手がいたらいいんですけどね」
修理屋「もしかしてまだやってるのか?あれ」
智彦 「えぇ。もう毎年恒例になっちゃって。見つかりもしないのにって、周りにはあきれられるんですけど」

智彦、悲しげに笑う

修理屋「そーりゃなぁ、もう何年だぁ?消えた男を待ってるっていうやつだろ?」
智彦 「いまだになんだか、忘れられなくて…」

智彦、ぽけっとからあの指輪を取り出す

修理屋「今年こそは見つかればいいねぇ」

バイクの音が聞こえる

修理屋「お、帰ってきたか。紹介するよ、新しく入った新人くん。そいつにこの修理やらせるから」
智彦 「新人くん?」
修理屋「あぁ、心配すんな。腕は確かだ」

修理屋、笑う

修理屋「おーい!永智!仕事だ仕事!」

倉庫の裏から声がする

永智 「はい!」

智彦、その声にはっとする
倉庫裏から現れる永智(22)

智彦 「……」

永智の姿を見て呆然とする智彦
永智、微笑む

永智 「こんにちは」

永智、智彦、向かい合って立っている






おわり    

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