・倉庫

美術倉庫の中で煙草を吸いながらキャンバスを前に座って外を見ている大河内(おおこうち)(21)

大河内M「雨が降る日、彼は決まって服を脱ぐ。それを期待してここに来る俺はたぶんもう終わってる」

煙を吐く



・倉庫

外は雨が降っている
全裸で立って後ろを向いている久志(ひさし)(23)
それを描いている大河内

久志 「ケツの造形美がどうたらこうたら」
大河内「なんですかそれ」

大河内、煙草を吹き出す
久志、尻を触る

久志 「ケツが綺麗だと体全体が綺麗に見えるんだと」
大河内「へぇ。それで今日は後ろ向き」
久志 「俺のケツは綺麗だろうが」

久志、尻を掴む
大河内、呆れる

大河内「穴が見えますよ」
久志 「たまにはそういうのもいいんじゃない?」

大河内、笑うが真面目な顔をして描き出す

大河内「ケツだけじゃなくて全身綺麗ですよ。あなたは」
久志 「ふーん」



・倉庫へと続く裏道

大河内、一人道具を持って歩いている
空は晴れている

大河内M「いつだったか、見つけた静かな隠れ家に制限付きの先住民がいたことに気が付いたのは…」

噛み煙草をしながら空に煙を吐く

大河内M「髪の長い、ライオン頭の綺麗なオブジェ」



・倉庫

ドアを開ける大河内
中には誰もいない

大河内M「彼は雨の日しか現れない」



・美術室(回想)

雨が降っている
生徒が道具を持って散らばっていく

生徒A「どうする?」
生徒B「だって外雨降ってるし」
生徒C「あーあたし科学室行ってくる」
生徒A「何それマニアック」
生徒B「俺いっつも中庭なんだけどなー」

その中を一人傘を差して外へ出て行く大河内



・倉庫へと続く裏道(回想)

一人歩いてくる大河内
倉庫の前に着くと傘を畳む

大河内M「ここだと一人で静かに描ける」

ドアを開ける

大河内「……」

倉庫のマットの上に全裸で向こうを向いて寝ている久志
それを見て言葉を無くす大河内

大河内M「驚く前に綺麗だと思った」



・倉庫(回想)

久志、マットの上に全裸で胡坐をかいて座り、眠たそうに頭を掻いている
大河内、椅子に座っている

久志 「でー、その、あれだ。美術科のー、子だ」
大河内「はい」
久志 「何、ここ使うの?」
大河内「はい」
久志 「他に誰か来る?」
大河内「いいえ」

大河内、首を振るが少し悩む

大河内「あ、他にもこの場所知ってる奴がいたら来るかも」
久志 「じゃあ鍵だ。鍵閉めろ」

久志、ドアを指差す

大河内「はぁ」

大河内、言われたとおりに鍵を閉める

久志 「で?」

久志、首をかしげる

大河内「で?」

大河内、同じように首をかしげる

久志 「俺寝てていい?」
大河内「いいですけど、なんで全裸なんですか」
久志 「うーん」

久志、顎に手を当てて考えるそぶりをする

久志 「雨降ってるから」

久志、微笑む



・倉庫(回想)

久志、マットの上で向こうを向いて寝ている
大河内、それを描いている
久志、向こうを向いたまま話す

久志 「さっきからすげー視線を感じるんだけど」
大河内「あぁ、気にしないでください」
久志 「気になるなぁ、そう言われても」
大河内「そうですか」
久志 「オブジェに許可は取らないのか」
大河内「そうですね。大体は喋らないので」
久志 「そうか」

しばらく黙る二人

久志 「どうして俺が」
大河内「……」

大河内、手を止めて久志を見る

大河内「綺麗だと思ったから」

大河内M「理由なんかそんなもの」



・倉庫

下書きの状態のキャンバスを前に座っている大河内
線のままの絵の中の久志に触れる

大河内M「あの頃雨はよく降って、彼はその度ここへ来た。服を脱げば筆にのって絵の中へ。俺はただその曲線美に色をのせる。あれは夏の初めの蒸し暑い日で、うっすらと筋肉のついた肌が汗ばんでいた。今では肌寒いこの季節。雨も降らずに彼がどこにいるのかなんか分からない」



・倉庫前

雨が降る中道具を持って傘を差し、走ってくる大河内

大河内「はぁっ、…はぁ…」

大河内、ドアの前で息を落ち着かせるとドアを開ける



・倉庫

倉庫の奥で裸のまま後ろを向いていた久志、ドアの音に振り返る

久志 「よう」

久志、微笑む

大河内「お久しぶりです」

大河内、笑う



・倉庫

マットの上に向こうを向いて寝そべっている久志
それを煙草を吸いながら描いている大河内

大河内M「いつからか、雨が降ることを願ってばかりで。この倉庫の上だけでも熱帯雨林になればいいと思っていた。筆を握る手が熱くなるのは、不思議と雨の日だけで──」

大河内「……」

大河内、手を止める
久志を見ると肩が震えている

大河内「……」

大河内M「何も言わない彼のあの肌が、どうしてか、愛しい」

大河内、立ち上がり、久志に近づくと肩に触れてこちらを向かせる

久志 「な……」

久志、それに驚くが大河内に口を塞がれる

久志 「…っ……ん…」
大河内「ん……はぁ…」

大河内、口を離すと距離を離さないままに久志を見つめる

久志 「お前の手、なんでそんなに熱いんだよ。びっくりし…」

大河内、また久志の言葉を聞かずにキスをする

久志 「ぁ……っ…」
大河内「ん…ふ……っ…」
久志 「んっ……はぁっ…はぁ…お前…なぁ…」

久志、息を荒くしながらも呆れる

久志 「最後まで言わせろ」

大河内、真顔で言う

大河内「あ…ごめんなさい。なんか、すげー可愛いと思って」
久志 「はぁ…あー、はいはい」

久志、呆れるがそのまま大河内の首に腕を回してキスをする

久志 「綺麗じゃなかったのか?」

久志、笑うがまたキスをする



・倉庫前

大河内、一人倉庫の前で空を見上げる

大河内M「それから雨は降らないで、あの人は現れないまま時は過ぎて枯葉が舞い、空は高く吹く風は冷たく、あの時触れたあの肌みたいで」

大河内、煙草に火をつける

大河内M「未完成の絵と、乾いた空気にどうしようもなく寂しく思う自分の心が空しい」

静かに呟く

大河内 「妖怪……か…幽霊…か」



・リビング(夜)

ソファに座って天気予報を見ている大河内

テレビ『明日の夕方ごろにわか雨が降るでしょう。降水確率は──』

大河内M「低い降水確率と、裸のオブジェ」



・倉庫へと続く裏道

曇った空を見上げる大河内

大河内M「次に会えたらその肌に触れて言ってやろうか」



・倉庫前

ドアに手を掛けると雨が降ってくる
振り返って空を見上げる大河内

大河内「……」

ドアを開ける大河内



・倉庫

大河内、ドアを開けるが中には誰もいない

大河内「……」

黙ったまま目線を下げてマットを見る
後ろから走ってくる足音が聞こえる

大河内「……」

大河内の後ろで止まる足音、荒い息が聞こえる
大河内、振り返る

久志 「はぁ…はぁっ…お前…」

久志、コートにマフラー姿で雨に濡れながら息を整えている

大河内「……」
久志 「来るの早いよ」

久志、笑う



・倉庫

久志、マットの上でマフラーを取り、服を脱いでいく
それを見ている大河内

大河内M「服を着ていることに違和感を覚えたことは黙っておこう」

久志、すべて脱ぎ終えるとこちらを向く

大河内M「さぁそろそろ言ってやろうか」

大河内、久志と向き合う

大河内「毛布と俺の手どっちがいい?」





おわり

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