第二章 「夢の花」


・蓮宅前

播磨、蓮、歩いてくると小さな平屋が見えてくる
格子戸の中に小さな庭がある
蓮、格子戸を開くと播磨を見る

蓮  「ここ」
播磨 「いいところじゃないか」

播磨、微笑む
蓮、悔しげにする

蓮  「あぁ、俺にとっちゃあ天国だよ!」

蓮、言い捨てると中に入っていく
播磨、笑いながら付いていく

播磨 「はははっ」



・蓮宅

八畳一間に炊事場がついている蓮の部屋
播磨、低い棚に置いてあるしおりを見つけ、手に取る
それを見る蓮

蓮  「それ、お前のだよ」
播磨 「え…?」
蓮  「あの時、忘れてったろ」
播磨 「あぁ…」
蓮  「俺のはこっち」

蓮、傍に来ると本に挟んであったしおりを取る

播磨 「ずっと、持っててくれたのか」
蓮  「うん…。だってこれは播磨が初めて俺にくれたものだったから」

播磨、蓮を抱きしめる
蓮、笑う

蓮  「何、急に」
播磨 「いや、ついな」

播磨、抱きしめながらも笑う

蓮  「お前ってそんな奴だったっけ?」

蓮、播磨の背中に手を回す

播磨 「さぁ、どうだろうな。まだ薬が抜けてないんじゃないか?」
蓮  「嘘つけ、薬のせいにすんなっ」

笑い合う二人

蓮  「播磨」

蓮、言いながら体を離す

播磨 「ん?」

播磨、蓮を見ると同時に蓮が播磨にキスをする

播磨 「っ…!」

蓮、すぐに離れて炊事場の方へ行く

蓮  「家に戻らなくていいのか?」

その後姿を黙って見る播磨

蓮  「叔母様に何も言われ…」

蓮、播磨を見ると播磨が額を押さえて俯いている

蓮  「播磨?」
播磨 「いや、なんでもない…」

播磨、言いながら後ろを向く
その姿を見て楽しそうに笑う蓮、後ろから播磨に抱きつく

蓮  「何がなんでもないってー?」

蓮、言いながら播磨の物に手を伸ばす

播磨 「こら。しばらくすれば収まるから…」
蓮  「ふふっ、播磨ってば若いんだからー」

蓮、ズボンの中に手を入れる

播磨 「っ…おい、蓮ッ」
蓮  「すぐ帰らなきゃだめ?」
播磨 「い、いや…別に今日は…っ」
蓮  「じゃあこれ終わったらね」
播磨 「このっ…」

播磨、蓮の手を抜くとその場に押し倒す

蓮  「あっ……や、播磨っ……」



・蓮宅(夕方)

蓮、一人炊事場に立って薬の入った瓶を持っている

蓮  「……」

上半身裸の播磨がそこへ来ると顔を洗い、ボーっとしている蓮を見る

播磨 「どうした?……それ」
蓮  「え?」

蓮、はっと気がつく

蓮  「あぁ、捨てようと思って…」
播磨 「……」
蓮  「本物の播磨がいるから…もういらないだろ?」

蓮、少し笑って播磨を見る

播磨 「あぁ」
蓮  「大丈夫だよ…」

蓮、ぼそっと呟くと瓶ごとごみ箱に捨てる

蓮  「……」

播磨、蓮を抱きしめる

播磨 「……」

黙ったまま播磨の胸に顔を埋める蓮



・寺島家、書斎(夜)

播磨、座って本を読んでいる
そこへ田中が来る

田中 「播磨様」
播磨 「ん、あぁ。お前か」

播磨、言いながら本を閉じる

田中 「読書ですか?」
播磨 「いや、調べ物をしていた」
田中 「調べものですか…」
播磨 「あぁ。そうだ、菊池のおじ様が言っていたのを覚えてるか?罰という薬物のことなんだが」
田中 「はい。……蓮様ですか?」
播磨 「……あぁ」
田中 「……」

播磨、立ち上がって本棚に本を入れる

播磨 「そう容易くやめることが出来るのかと思ってさ」
田中 「はぁ…」
播磨 「調べてみたがどの文献にも載っていなかった。新しい物なんだろう」
田中 「私も調べてみますよ」
播磨 「ありがとう」

播磨、微笑む
その表情を見て田中、安心したようにする



・茶屋

蓮、茶屋の店先で座っている
その周りに幼い子供が五人座って蓮の話を聞いている

蓮  「八枚……九枚…」
子供達「……」
蓮  「一枚たりなーい…」
子供達「きゃああああ!!」

子供達の悲鳴に驚きながらも播磨が来る
それに気が付く蓮

蓮  「あ、播磨」
子供A「播磨!?」
子供B「でたぁ!!」
播磨 「?」

蓮、立ち上がる

蓮  「ほら、おしまいだ。行った行った」

蓮の声に子供達笑いながら散らばっていく

播磨 「何だ、皿屋敷か」

播磨、蓮、歩き出す

蓮  「そ。でも番町の方だよ」
播磨 「青山播磨ね、よく昔からかわれたな」
蓮  「俺は好きだけどね。あの話」
播磨 「へぇ」
蓮  「で?今日はどこへ?」
播磨 「ちょっとそこまで散歩にでも」
蓮  「ふふっ」



・町

蓮、楽しそうに笑い歩く

播磨 「どうだ、調子は」
蓮  「薬?」
播磨 「あぁ…」
蓮  「大丈夫だよ。幻覚も、震えも起きない。絶ってみるとこんなもんなのかなーって。死んだ奴らとかおかしくなった奴らと同じように使ってたけど、なんか大丈夫みたい」
播磨 「そう…か」
蓮  「播磨がいるからかな」

蓮、播磨を見上げて笑う

播磨 「お前…。はぁ…」

播磨、ため息をつく

蓮  「なに。ん?」

蓮、播磨の手の中にある小瓶に気が付く

蓮  「何それ?」
播磨 「いや、いい…」

播磨、気まずそうに隠す

蓮  「えー!気になる!何?」

蓮、播磨の手の中から小瓶を奪う

播磨 「あ!おい!」
蓮  「んー?」

蓮、小瓶を見る
小瓶の中には色とりどりの金平糖が入っている

蓮  「コンペイトウ?」
播磨 「……」

播磨、しまったという風に額を押さえて歩いていく
それを追いかける蓮

蓮  「播磨っ!これなに?」
播磨 「…コンペイトウだ」
蓮  「それは分かってるけど……」

蓮、もう一度小瓶を見ると何かを閃く

蓮  「…俺に?」
播磨 「あーもう!そうだよ!」

播磨、拗ねる

蓮  「まーって待って、なんで拗ねるの」

蓮、笑う

播磨 「お前が!……その」
蓮  「うん?」
播磨 「昔母さんが俺にくれたんだよ。魔法のコンペイトウだって…」
蓮  「?」

播磨、拗ねてボソボソ言う

播磨 「ガキの頃はそれで俺は何度も救われたんだ…、馬鹿みたいな子供騙しだけど…だから…」
蓮  「それを俺に…?」
播磨 「い、いろいろ辛いかもしれないと思って!気休めだけど…」

播磨、聞こえるか聞こえないかの声で言う

播磨 「俺に出来ることがあればいいと思ったんだ…」
蓮  「……」

蓮、急に立ち止まる

播磨 「?蓮…」

播磨、立ち止まって蓮を見る
蓮、小瓶を見ているが播磨を見る

蓮  「ありがとう」
播磨 「え?」
蓮  「俺これずっと持ってるよ」

播磨、驚く

播磨 「あ、あぁ…」
蓮  「でも使わないっ」

蓮、楽しそうに笑いながら歩いていく

播磨 「蓮?」

播磨、また歩き出す
蓮、空を見上げながら話す

蓮  「播磨がいれば薬もいらない。このコンペイトウだって必要ないだろ?」

播磨、蓮の言葉にふっと笑う

播磨 「そうだな」

二人、笑い合って歩いていく
そこへ風とともに風鈴の音が聞こえてくる
二人、その方を見ると風鈴屋が出ていることに気が付く

蓮  「うわー、綺麗な音」

蓮、風鈴屋を見に行く
播磨も後に続く
蓮と播磨に気が付く店主(60代)

店主 「いらっしゃい」
播磨 「風流だな…。一つ買って行くか。蓮、どれがいい?」
蓮  「え?ほんとに?わーい!じゃあねー」

蓮、風鈴を見る
目線の高さにある青い風鈴を指差す

蓮  「これがいい」
播磨 「綺麗だな。じゃあ俺もこれで」
店主 「まいど!包んでやるからちょっと待ってくれな」

店主、二つの風鈴を取ると店先で新聞紙に包み始める
蓮、ふと低い台の上に並べられている簪(かんざし)を見る

蓮  「……」

蓮、黙って一本の簪を手に取る
簪の頭に小さなアザミの花と、花に止まるアゲハチョウが付いている

播磨 「簪か」
蓮  「うん…。アザミの花が付いてる…」

店主、包みながら少し笑いを交えて話し出す

店主 「それ女房に作ってやったんだけどね、死の花だー罰の花だーとかって気味悪がって受け取ってくれなかったんだよ」
播磨 「死の花?」
店主 「あれ、知らないかい。巷で流れている薬の話さ」
播磨 「……」
蓮  「罰の表にアザミの花が描かれているんだ」

蓮、簪を見ながら静かに話し出す

蓮  「だから罰の花…」

播磨、蓮を見て言葉を無くす

店主 「近頃死人もよく出てるからねぇ。世間でもそういう印象になっちまったんだわな。置いてても誰も手にとりゃしないよ」
蓮  「綺麗なのに…」
店主 「あんたもアザミが好きかい」
蓮  「うん」

蓮の言葉に嬉しそうにする店主

店主 「そうかそうか。ならそれはおまけだ。持って行っとくれ」
蓮  「え?」
店主 「どうせいつまで経っても売れないもんだからな」

店主、笑う

蓮  「ありがとう」

蓮、嬉しそうに笑うと播磨を見る
播磨、微笑み返すと蓮の手から簪を取り、蓮の耳にかけてやる

播磨 「似合うよ」
蓮  「ふふっ」



・町

並んで歩く二人

蓮  「ねぇ播磨」
播磨 「ん?」
蓮  「あの時どうしてアザミをしおりにしたの?」
播磨 「え…。いや、ただ庭に咲いてるあの花が綺麗だと思ったから」

蓮、少し笑う

蓮  「そっか」
播磨 「なんだ?」
蓮  「ううん。ただ、その、気になっただけの花がさ、播磨がくれたからってそんな理由だけで、俺にはなんだか重要な花になったんだ」
播磨 「……」

播磨、蓮を見る
蓮、ただ前を見ながら話す

蓮  「罰の花。単なる偶然が俺を引き込んだ。躊躇もせずに飲めた」
播磨 「蓮…」
蓮  「あの薬を作った人ね、奥さんの為に罰を作ったんだって」
播磨 「え?」
蓮  「薬知ってる奴らの中では有名な話。ある薬剤師には妻がいた。その妻はどうしてだかまったく表情が無い。表情が無くても、ただそこにいるだけで美しい女だった。でも薬剤師は一度でいいからその美しい妻の笑顔が見たかった。そこで作ったのが罰だ」
播磨 「……」

播磨、蓮から視線を外し前を見る

蓮  「その薬を飲むと、妻は静かに少し笑った。それが初めて見た笑顔だった。それから半年間。妻は何度も笑ってくれたんだって。でも突然死んじゃった」
播磨 「え……」
蓮  「中毒起こしたんだって話。それから薬剤師の行方が分からなくなって、残された薬と調合表が世間に出回ったんだ」
播磨 「……どうして罰だなんて名前になったんだ?」
蓮  「通称だって聞いたけど、ほんとの名前は俺も知らない」
播磨 「そうか…」

蓮、播磨を見る

蓮  「ねぇ、播磨。『薊の花も一盛り』って諺、知ってる?」
播磨 「あぁ、醜い女性でも年頃になれば魅力が出るっていう?」

蓮、笑う

蓮  「そうそう」

蓮、空を見る

蓮  「あの薬にアザミが描いてあるのはそこから来たんだって聞いた。元々その諺はアザミの花の特徴から棘があるアザミでも、美しい花が咲くっていう意味で出来たんでしょ?だから奥さんを思ってアザミを描いたんだって」
播磨 「笑えばもっと綺麗になると思ったからか…」
蓮  「そう。…薬を使ってでも、幸せだったのかな…」
播磨 「……」
蓮  「俺は幻の播磨に会う為に薬を飲んでた。その頃は幸せだったよ。幻でも、播磨に会えることだけで嬉しかった」
播磨 「……」

播磨、目線を下げる
蓮、笑う

蓮  「でも今ではそんなのじゃ足りなくなった」

播磨、蓮を見る

蓮  「やっぱり本物の播磨じゃないと満足できないよ」

播磨、蓮の手を取る
蓮、握り返すと播磨を見上げる

蓮  「播磨。俺、お菊でもいいよ」
播磨 「え…?」
蓮  「そうなっても仕方ないと思うから」

蓮、目線を下げる

蓮  「でもね、俺は皿を割って播磨の気持ちを試そうだなんてことしないよ。播磨を信じてるから」
播磨 「蓮…」

蓮、申し訳なさそうに呟くように言う

蓮  「だからお願い。我侭なんか言わないから俺の傍に居て。切ったりなんかしないでね」

播磨、蓮の言葉に手を引くと蓮を抱きしめる

播磨 「そんなこと言うな。俺はずっとお前の傍にいるよ。俺の生きてきた中で、一番はお前しかいないんだ。お前以外なんか考えられない」
蓮  「播磨…」

蓮、播磨の背中に腕を回す

蓮  「嬉しい…」

播磨M「自分の中に巣食う蓮への想いは、今や俺のすべてになっていた。蓮さえいればそれでいい。十分だ。逃げることなんかもうしない。その信じる心が消えたとしても、俺は蓮の傍から離れることは無い。背中にそっと触れる細い指が、いつまでも離れなければいいと思った」



・寺島家、書斎(夜)

播磨、机に向かって仕事をしている
窓の方から風鈴の音が聞こえてくる
播磨、風鈴を見る

蓮  『一度でいいからその美しい妻の笑顔が見たかった。そこで作ったのが罰だ』

播磨M「罰を作った薬剤師の気持ちが分からないでも無い。そこには絶大なる苦労があっただろう。ただ愛する人の笑顔が見たいだけの気持ちで、彼はあの薬を作り、そして何もかもを失った」

蓮  『だからお願い。我侭なんか言わないから俺の傍に居て』

播磨 「……」

播磨、空に浮かぶ月を見る

播磨M「蓮を失うなら…」

播磨 「……」

播磨、ため息を吐いて目頭を押さえる

播磨M「自分が死んだ方が幸せだ…」



・蓮宅

蓮  「んっ……ぅ…あっ…」

部屋に蓮の嬌声が響く
壁にもたれて座りながら播磨の髪に触れている蓮
播磨、蓮の物を咥えている

蓮  「あぁっ…はり、ま……そこ…だめっ…」
播磨 「ん……?…ふふ……どこ?……ここ?」
蓮  「んぁっ…!…だめ…だって…っ…」
播磨 「蓮……可愛いな……んぅ…」
蓮  「あっ、あっ……んっ…はぁ……や…」
播磨 「…っ……ん…ふ…ぅ……んぅ…」
蓮  「播磨…っ…」

蓮、快感に表情を歪ませながら播磨を見る
播磨、蓮を見上げる

播磨 「ん…?」

蓮、感じながらも少し笑う

蓮  「その……っ…まま…噛み切って…?」

播磨、蓮の言葉に驚く

播磨 「え…?」
蓮  「それが…無かったら、播磨の…お嫁さんになれる…でしょ…?」

蓮、冗談を言うように笑っている

播磨 「うん……」

播磨、目線を外し、行為を続ける

蓮  「そしたらっ…ぁっ……、毎朝…っ…美味しいお味噌汁…作って…」
播磨 「んっ……ふ……っ…」
蓮  「生まれた…ぅ…子供と……んぁっ…仕事が終わるの……待ってるの…っ…」
播磨 「うん……ん……ぅ…」
蓮  「すごく……あ、あっ……幸せ…っ…なんだよ…う…んあぁっ…」



・寝室(朝)

蓮  「播磨……」

まどろみの中、蓮の声が聞こえてくる

播磨 「ん……」
蓮  「ねぇ、播磨。起きて?」
播磨 「んー…」
蓮  「播磨?朝ごはんできてるよ?」
播磨 「うー……」

播磨、目を覚ます

蓮  「おはよう」

蓮、微笑んでいる
播磨、蓮の頭に手を回すと、微笑んでキスをする

播磨 「おはよう」



・居間(朝)

居間に入ってくる播磨と蓮

蓮  「ほら、薊(あざみ)。お父さんが起きてきたよ」

薊(5)、播磨に駆け寄る

薊  「父様!おはようございます!」

播磨、薊を抱き上げる

播磨 「おはよう」
蓮  「ほら、二人とも座って。ご飯だよ」



・居間(朝)

食卓を囲んで笑っている播磨、蓮、薊

播磨M「確かにこんな日々があれば、これ以上ない幸せだろう…」



・蓮宅

播磨、蓮、行為を続けている

蓮  「はりまっ……だめ…っ…でる…っ…でちゃう…あぁっ…」
播磨 「ふ……ぅ……んっ、ん…っ」

播磨M「蓮の笑顔に包まれて、笑って過ごす最良の日々」

蓮  「あ、あっ…や…イくっ……はりまっ…イく…っ…」
播磨 「う……ふ…んっ……ん、ん、ん…っ…」
蓮  「あぁっ…んぁっ……はぁ…あ、あ、あっ…んんっ──!」

蓮、達する

播磨 「ん……っ……ん…」

播磨、それを飲み干すと息を荒くしている蓮に深くキスをする

蓮  「ん…ぅ……はり…ま…」
播磨 「っ……ん……はぁ……ぅ…」

播磨M「叶わない、夢の日々…」

抱きしめ合う二人




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