・玄関(夜)

浩太(こうた)(20)、玄関のドアを開ける

浩太M「俺の家にはアホでどうしようもない犬がいる」

裕次郎(ゆうじろう)(見た目20歳くらい)、玄関でニッコリ笑っている

裕次郎「コータ!!おかえり!」

裕次郎、浩太に抱きつく
浩太、うんざりした顔をする

浩太M「先日、そいつが人間になって俺に会いに来た」

浩太 「抱きつくなっ!」
裕次郎「コータコータ

浩太の言葉も耳に入っていない裕次郎

浩太M「死ぬほどバカ」



・リビング(回想)

浩太、電話をしている

浩太 「え!?裕次郎がいなくなった!?」
母  『さっき帰ってきたら玄関が開いてて!探し回ってるんだけどどこにもいないのよ!!』
浩太 「またかよ!鍵は!?かけてったの!?」
母  『もちろんよ!でも何故か開いてて!』
浩太 「そんなことありえないだろ!?いくらあいつでも鍵なんか開けられないって!」
母  『でも確かにかけていったのよ!あの子バカだからきっと車にはねられちゃうわ!』
浩太 「わかったから!俺も探すから!なんかあったら連絡して!」
母  『わかった!』

電話を切る

浩太 「くっそー何回目だよ!!」

浩太、携帯と鍵を持つと玄関に行く



・玄関(回想)

浩太、靴を履いて玄関を開ける
裕次郎が笑顔で立っている

裕次郎「やっぱりいたー

裕次郎、浩太に抱きつく

浩太 「っ!!」
裕次郎「コータ会いに来たよ〜
浩太 「な……だ…誰だ……お前…」

浩太、呆然としながら抱きしめられている



・リビング

ソファに座っている浩太と裕次郎

裕次郎「……」

裕次郎、浩太の手を取ると自分の頭に乗せる

浩太 「っ…」

浩太、手をのける

裕次郎「……」

裕次郎、また浩太の手を取ると自分の頭に乗せる

浩太 「……」

浩太、手をのける

裕次郎「……」

裕次郎、浩太の手を取ると自分の頭に乗せる

浩太 「あぁぁぁッ!!もうウザい!!やめろっ!!」

裕次郎、浩太の声に切ない目をして小首をかしげる

浩太 「キィィィ!!」

浩太、奇声をあげると裕次郎の髪の毛をめちゃくちゃにする

裕次郎「わ〜い

裕次郎、それを喜んでいる

浩太 「い〜〜〜〜ッ!!」

浩太、イライラする

浩太M「ボーダーコリー、一歳半。耳垂れ、柄はまぁ良し。顔は可愛い。特技は泳ぐこと。しかし大型犬並にデカく、人好きが度を越してウザく、バカでどうしようもない。アホ。アホ。アホ」



・実家のリビング(回想)

浩太M「裕次郎がうちに来たのは忘れもしないまだ寒かった三月。遠く西日本から車でやってきた三ヶ月のこいつは、来て早々俺の膝を占領した」

浩太の胡坐の上に丸まって嬉しそうにしている子犬の裕次郎

浩太 「こ、これが…三ヶ月…?」
母  「ちょっと…大きいわね…」

苦笑いで裕次郎を見る二人

浩太M「子犬にしてはデカい。将来もっと大きくなるであろうことを物語る足はたくましかった」

浩太 「でも可愛いじゃん。よろしくな。裕次郎」

浩太、裕次郎の頭を撫でてやる
嬉しそうに尻尾を振る裕次郎



・実家のリビング(回想)

浩太M「異常なほどの人好き。それは攻撃と何ら変わりは無い」

浩太、帰ってくるとリビングの戸を開ける

浩太 「ただい──」

それと同時に成犬になった裕次郎が飛びつく

浩太 「グフッ…!!」

浩太、押し倒される
嬉しそうに顔を舐めまくる裕次郎

浩太M「上手く受身が取れないと死ぬ恐れがある」



・リビング(夜)

浩太M「寂しいと遠吠えをし、近所から苦情が来る始末。走る車に特攻し、脱走経験は二回。猫をこよなく愛し、ハエに喧嘩を売る。大好きなのは人。人。人。見た目は賢そうだけど、実はとってもバカなんです

ソファに座って相変わらずテレビを見ている二人
裕次郎、浩太の肩に頭を乗せる

浩太 「……」

浩太、若干嫌な顔をする

浩太M「そんなアホ次郎がどうして人間になり、俺の家に転がり込んだのか…」



・玄関(回想)

裕次郎「コータ会いに来たよ〜
浩太 「な……だ…誰だ……お前…」

浩太、呆然としながら抱きしめられている

裕次郎「俺だよ〜。裕次郎だよ〜」

裕次郎、見えない尻尾を振る

浩太 「ちょ、ちょっと待て!離れろ!気持ち悪いッ!!」
裕次郎「コータ…?」
浩太 「ゆ、裕次郎なんて知り合い俺にはいないぞ!」
裕次郎「……」

裕次郎、眉を下げる

浩太 「そんなことより俺裕次郎探しに行かなきゃなんねぇんだ…!」

浩太、裕次郎を押しのけて出て行こうとする
裕次郎、浩太の手を捕まえる

浩太 「な、離せよ!」
裕次郎「俺はここにいるよ?」

裕次郎、また嬉しそうに笑っている

浩太 「え?…いや!違う!俺は犬の…!」
裕次郎「俺でしょ?」
浩太 「はぁ?」

浩太、ウザそうに裕次郎を見る
裕次郎、また浩太を抱きしめる

浩太 「ぅっ…!」
裕次郎「コータ俺を置いてどっか行っちゃうんだもん。寂しかったんだよ?だから探しに来たんだ」
浩太 「な、何言って」
裕次郎「もうどこにも行かないでね。ずっと一緒だよ」

裕次郎、急に浩太にキスをする

浩太 「んっ!?…ちょ、むっ……んぅ…やめろ…っ……」
裕次郎「コータ……んっ……ぁ…ふ…」
浩太 「んんっ……んー!……んぁ…やめ……っ!」

浩太、何とか体を離すと叫ぶ

浩太 「…お、おすわりッ!!」
裕次郎「はっ…!」

裕次郎、シュタっとお座りをする

浩太 「……」

浩太、裕次郎を見下ろして呆然とする

浩太M「こいつはお座りだけは完璧だった……」



・リビング(夜)(回想)

浩太M「ということでどうしてこいつが人間になったのかは分からない。というかあんまり信じていない。しかし実家に犬の裕次郎は帰って来ず…」

浩太、電話をしている

浩太 「あの…もしもし?」

浩太、少しめんどくさそうに話す

母  『もしもしっ!?見つかったの!?』

浩太、母の大声に受話器を離す

浩太 「あぁ、見つかった」
母  『ほんと!?』
浩太 「見つかったのは見つかったんだけど……」

浩太、ソファに座って楽しそうに浩太を見ている裕次郎を見る

浩太 「あの、ちょっとの間だけ…預かってても…いい?」

浩太、うんざりした顔をする

母  『え?どういう意味よ…?』
浩太 「いやーさ…」

浩太、頭を掻きながら話す

浩太 「なんか俺も久しぶりに会ったら可愛くなっちゃってさー…」
母  『……』
浩太 「一緒にいたいなー…なんちゃって…」

浩太、苦笑いをする

母  『あんた…裕次郎から逃げるように家を出て行ったのに…』
浩太 「や…えっと…なんかやっぱ離れて分かったっていうの?」

浩太M「この会話はちょっと無理があったような気がする…」



・リビング(夜)

浩太M「そしてその後が今の状況なわけで……」

裕次郎、段々と頭が下りてきて浩太の膝の上に頭を乗せるとひっくり返る

浩太 「……」
裕次郎「コータ

裕次郎、楽しそうに浩太を見上げる

浩太 「キモい、ウザい、重い。どけ」
裕次郎「もう。コータ冷たい…」
浩太 「いーからどけ!」
裕次郎「ヤダ」
浩太 「キィッ!」

浩太、裕次郎をどけると立ち上がる

裕次郎「あーもー。コータぁ…」

裕次郎、浩太を見つめる

浩太 「……」

浩太、じと目で裕次郎を見返す

裕次郎「そんなに俺のこと嫌いなの…?」

裕次郎、うるうるした目で浩太を見る

浩太 「ぅ……」
裕次郎「俺はコータのこと大好きだよ。だって俺の写真を見て選んでくれたのはコータだもん」

浩太、裕次郎の頭に垂れ耳が見えてくる

浩太 「は……」
裕次郎「コータが好きだから…俺…」

浩太、どこからとも無くクーンという鳴き声が聞こえる

浩太 「き、き、きら、嫌いとか……そんなんじゃないけど…」

浩太、目を逸らす

裕次郎「……」

裕次郎、うるんだ目で見つめる

浩太 「くそっ…!」

浩太、裕次郎を抱きしめる

裕次郎「コータ

浩太、完全に犬の裕次郎を見る

浩太M「馬鹿野郎!根本的に犬が大好きなんだ俺は!クソ!馬鹿!俺の馬鹿!!」



・寝室(夜)

二人並んでベッドで寝ている
裕次郎、いびきをかいている

浩太 「うるさい……」

嫌な顔で裕次郎を見る浩太
裕次郎、気持ち良さそうに眠っている

浩太 「……」

浩太、裕次郎の鼻を摘む

裕次郎「ふ…フガ……へっぶしゅッ!!」

凄い勢いでくしゃみをすると涎が浩太に降り注ぐ

浩太 「な……」
裕次郎「ん……ぅ……」

裕次郎、鼻を擦るとまた眠る

浩太 「この野郎……」



・大学前

浩太、一人で学校から出てくる
すると後ろから女友達が来る

友達 「浩太ー」
浩太 「おう、なに。お前も終わり?」
友達 「うん。休講。ねぇ、お腹減らなーい?」

だるそうに話す友達

浩太 「減った減った」

浩太、腕時計を見る

浩太 「三時かー。どっか食い行くー?」
友達 「いいねー!おやつってことで!」
浩太 「おっけ。何がいい?俺なんかこう脂っこいもんが…」
裕次郎「コーター!」

急に後ろから裕次郎の声がする

浩太 「え?」

浩太、後ろを振り返る

友達 「ん?」

友達も振り返ると裕次郎が傍まで来る

浩太 「お、お前なんで!」
裕次郎「へへへっ」

裕次郎、笑っている

友達 「友達?」
浩太 「え?あ、いや…」
裕次郎「迎えに来たんだ!帰ろっ」

裕次郎、浩太の手を取る

浩太 「はぁ!?何考えてんだよ!っつーかどうやってここまで…」
裕次郎「ん?匂いで」

裕次郎、鼻を指差す

浩太 「馬鹿かお前!危ないだろ!?」
裕次郎「大丈夫だったよ?」

相変わらず笑っている裕次郎

友達 「あー、約束あった?それなら…」
浩太 「え?や、違う違う」
裕次郎「?」

裕次郎、小首をかしげる

浩太 「お前いいから帰れ」
裕次郎「え?何で?」
浩太 「何でじゃねぇよ。俺これから遊んで帰るから」
裕次郎「……」

裕次郎、友達を見ると浩太に視線を戻す

裕次郎「やだ…」

裕次郎、寂しそうに浩太を見る

浩太 「やだじゃねぇよ。来れたんだから帰れるだろ?」
裕次郎「やだよ…。俺、コータが女の人と一緒にいるのヤダ…」

裕次郎、浩太の手をぎゅっと握る

浩太 「はぁ?何言ってんだよ馬鹿!いいから帰れよ?分かったな」

浩太、言いながら手を離させる

浩太 「行こ」

浩太、友達に笑いかけると歩いていく

友達 「いいの…?」

裕次郎、寂しそうに浩太を見たまま立ち尽くしている

友達 「なんか泣きそうだけど…」
浩太 「いいのいいの。ったく、ほんと馬鹿なんだからあいつ」

浩太、呆れながら話す

友達 「……ホモ…?」

友達、小声で言う

浩太 「違う。人外」
友達 「?」



・大学前

去っていく二人を見て寂しそうにする裕次郎

裕次郎「……」

裕次郎、沈んだまま踵を返してもと来た道を戻る



・大学前

歩いている浩太と友達

浩太 「何食うー?」
友達 「浩太脂っこいもんがいいんでしょ?じゃあ…」

後ろの方からブレーキ音が響く

浩太 「っ?」

浩太、友達、振り返る

運転手「危ねぇだろ!!馬鹿野郎ッ!!」

トラックの運転手に怒鳴られている裕次郎

裕次郎「ごめんなさい…っ」

裕次郎、怯えながら謝る

浩太 「あいつっ…」

浩太、迷う

浩太 「あー!もうッ!!」
友達 「浩太?」
浩太 「すまん!やっぱ帰るわ!」

浩太、走っていく

友達 「う、うん。分かった…」

走っていく浩太を見送る友達



・街

横断歩道を歩いている裕次郎
信号が点滅している

浩太 「走れ」

浩太、後ろから走ってくると裕次郎の手を取って走る

裕次郎「コータ…?」

裕次郎、つられて走ると横断歩道を渡りきると同時に信号が赤になる

浩太 「……」

浩太、裕次郎を見ずに手を引いたまま歩き出す

裕次郎「コータ。あの…」
浩太 「お前ってほんとに迷惑しかかけねぇのな」

裕次郎、浩太の言葉に眉を下げ俯く

裕次郎「ごめんなさい……」
浩太 「…ったく、轢かれなくてよかったよ…」

浩太、ぼそっと言う

裕次郎「……」

裕次郎、浩太を見るが表情が見えなくてまた俯く

裕次郎「コータ……」
浩太 「あぁ?」
裕次郎「俺…人間になんかならない方がよかった…かな…」
浩太 「あぁ、そうだな」
裕次郎「……」
浩太 「犬でいてくれた方がどれだけ安心か…」

浩太、言いながら裕次郎を見る
裕次郎、俯いている

裕次郎「……ごめんね」

裕次郎、浩太を見る

裕次郎「俺が犬の時、いっつもコータ怒ってばっかりだったから。俺、人間になればコータ怒らないと思ったんだ」
浩太 「え?」

浩太、驚く

裕次郎「でも、そうじゃなかったね。俺人間になってもコータに迷惑かけちゃった。ごめんね」

裕次郎、申し訳なさそうに無理に笑う

浩太 「……」

浩太、言葉を無くす

裕次郎「もう迷惑かけないようにするから。俺のこと嫌いにならないで」
浩太 「そんなの……」

浩太、続けて何か言おうとするがまた前を見て歩く

浩太 「ほんとお前馬鹿じゃないの」
裕次郎「うん…」
浩太 「……」

浩太M「馬鹿なくせに。なんでこんなこと思ってんだ。嫌いになんか、なるわけないのに」

裕次郎「コータ。スリッパ、沢山駄目にしちゃってごめんね」
浩太 「なんだよ。急に」
裕次郎「あと、服も駄目にしちゃったし、靴も」
浩太 「ソファも布団も庭も。だろ」
裕次郎「そうだね。…人間の時じゃないと言葉が分からないから」
浩太 「あぁ」
裕次郎「これからはそういうことしないようにするから。コータに嫌われないように、頑張るから」
浩太 「……うん」
裕次郎「コータ…好きだよ。大好き」
浩太 「……うん」
裕次郎「寂しくても我慢するから」
浩太 「……俺が家出て行ったの」
裕次郎「え?」
浩太 「お前のせいじゃないからな」
裕次郎「……そうなの?」
浩太 「家から学校が遠かったから引っ越しただけだから」
裕次郎「……」

裕次郎、浩太を見つめる

浩太 「お前のせいじゃない」
裕次郎「うん」

裕次郎、微笑む



・寝室(夜)

並んで眠っている二人

裕次郎「コータ…もう寝ちゃった?」

裕次郎、浩太の方に寝返りを打つ

浩太 「寝た」

裕次郎、笑う

裕次郎「起きてるじゃん」
浩太 「なんだよ」
裕次郎「あの人コータの彼女?」
浩太 「はぁ…。違うよ。友達」
裕次郎「ほんとに?」
浩太 「あぁ」

浩太、少し怒って言う

裕次郎「そっか。よかった」
浩太 「良かったってなんだ。良かったって」

浩太、呆れて裕次郎を見る
すると裕次郎、微笑む

裕次郎「ねぇコータ。好きだよ」
浩太 「何回言えば気が済むんだよ…」
裕次郎「沢山言いたい。俺ね、人間になれて良かったよ。コータに好きって言えたから」
浩太 「……」

裕次郎、浩太に手を伸ばすと抱き寄せる

浩太 「っ…」
裕次郎「人間だったらこうやって抱きしめられるし、優しく出来るね」

裕次郎、浩太の耳元で話している

裕次郎「これからはちゃんと言うこと聞くからね」

裕次郎、浩太の顔を見ると優しく微笑む
浩太、それを見て言葉を無くす

裕次郎「コータ。大好き」

裕次郎、キスをする

浩太 「っ……ばか…」

浩太、ボソッと呟くと裕次郎、微笑んでぎゅっと抱きしめ目を閉じる

裕次郎「人間になれてよかった…」

浩太M「裕次郎は犬の時、言葉が通じないから馬鹿だったんだとは思わない。こいつの愛情表現は爆発的なんだ。今まで馬鹿でどうしようもないと思っていた行動は、全部嬉しくて仕方が無かったから。でもそう考えるとやっぱりこいつは馬鹿なんだ。抱きしめる手はやっぱりでかかったけど、犬の時と同じで暖かかった」



・寝室(朝)

浩太 「ん……ぅ…」

浩太、目が覚める
隣を見るが裕次郎の姿が無い

浩太 「ん…あれ…?裕次郎…?」

浩太、起き上がって部屋を見渡すが誰もいない



・リビング(朝)

浩太、リビングに出てくる

浩太 「おい、裕次郎…」

リビングにも誰の姿も無い

浩太 「裕次郎?」

部屋中を探し回る浩太
しかしどこにもいない



・玄関(朝)

浩太 「どこ行ったんだ……」

浩太、ふと玄関の鍵を見ると鍵がかかっていない

浩太 「っ!!あいつまさか!」

浩太、靴を履いて外へ出る



・街(朝)

浩太 「裕次郎っ!!おい!どこだ!」

浩太、走りながら辺りを探している

浩太 「裕次郎!」

浩太、息を切らして立ち止まる

浩太 「……どこ行って……っ」

浩太M「まさか家へ帰ったのか…?」

浩太、走り出す



・実家前(朝)

走って帰ってくる浩太
浩太、玄関を開けると中へ飛び込んでいく



・実家の玄関(朝)

浩太 「おい!裕次郎!いるのかっ!?」

靴を脱いで中に入るとリビングの戸を開ける



・実家のリビング(朝)

浩太 「裕次郎っ!」

浩太、叫びながら入るが誰もいない

浩太 「っ!」

リビングを出て行く



・自室前(朝)

浩太、階段を駆け上がる

浩太 「裕次郎っ!!」

浩太、言いながら自室のドアを開けるが誰もいない
その場で頭を抱える

浩太M「ここじゃないのか…じゃあやっぱり外に…?」

遠くの方から足音が聞こえてくる

浩太 「っ……」

浩太、振り返らずにはっと顔を上げる

裕次郎『俺…人間になんかならない方がよかった…かな…』

浩太M「まさか」

裕次郎『これからはそういうことしないようにするから。コータに嫌われないように、頑張るから』

足音が段々近づいてくる

浩太M「裕次郎」

裕次郎『人間になれてよかった…』

浩太M「お前」

足音が真後ろで止まる

浩太 「……」
裕次郎「ワン」

振り返る浩太

浩太 「裕次郎…」

振り返るとお座りをした犬の裕次郎が尻尾を振っている

浩太 「裕次郎」

浩太、裕次郎の目線にしゃがみこむと頭を撫でる
嬉しそうにする裕次郎

浩太 「お前……なんで元の姿に戻ってんの…?」

浩太、裕次郎を抱きしめる

浩太 「あれは…裕次郎じゃなかったのか…?」

浩太、涙を流す

浩太 「なぁ、人間になったなんか嘘だったのか…?あれはお前じゃなかったのか…?」

浩太、裕次郎の目を見る
裕次郎、浩太の涙を舐める

浩太 「っ…」
裕次郎「くーん…」

心配そうに浩太を見る裕次郎

浩太 「違う……お前だよ…なぁ…」

浩太、泣きながら裕次郎をもう一度抱きしめる
尻尾を振っている裕次郎

浩太M「人間の裕次郎はそれ以来現れなくなった──」



・堤防

草むらに寝転んでいる浩太
その隣に犬の裕次郎が座っている

浩太M「その代わりに裕次郎はよく言うことを聞き、前みたいな馬鹿なことを殆どしなくなった。今では見た目どおりになんだか賢い犬になってしまったのだ」

裕次郎『これからはそういうことしないようにするから。コータに嫌われないように、頑張るから』

浩太M「あんな風に考えていたことに、馬鹿だなぁと時々思う。どんなに馬鹿なことをしても、どれだけお前を怒ろうが、俺は嫌いになることなんか無いのに」

浩太、裕次郎に手を伸ばして頭を撫でる
嬉しそうに尻尾を振る裕次郎

浩太M「それを今言ったところでこいつが理解できるのかは分からない。だからあの時ちゃんと言ってやればよかったと思うんだ。俺もちゃんとお前のこと好きだからって」

裕次郎『俺ね、人間になれて良かったよ。コータに好きって言えたから』

浩太M「好きだと伝えられたらそれで良かったんだろうか?犬のときからそんなのは十分伝わってきていたのに」

浩太、その辺の咲いていたねこじゃらしを取る

浩太M「そう考えると、やっぱりこいつは馬鹿なんだな」

浩太、ねこじゃらしで裕次郎の鼻をくすぐる

浩太 「ふふっ」
裕次郎「ふ…ふが…」

浩太、にやにやしながらくすぐる

裕次郎「ヘッブシュッ!!」

裕次郎、くしゃみをする

浩太 「あ……」

大量の鼻水を被ると同時に言葉を無くす浩太

裕次郎「コータ…」

人間の姿になった裕次郎が座っている




おわり


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