第四章


・那智の部屋(夜中)

眠っている那智と輝夜
輝夜、目を覚ます

輝夜 「……那智」

輝夜、那智の肩を揺さぶり起こす

那智 「ん……ぅ……んー?…何…」

目を覚ます那智

輝夜 「何か来た…」

輝夜、窓の外を見る
起き上がる那智

那智 「はぁ〜?何かって何…?」
輝夜 「分からんが何か気配を感じる…」
那智 「や、やめろよ怖いこと言うの…」

びびる那智

輝夜 「違う。ここではない…」

輝夜、ベッドから下りると部屋を出て行く

那智 「あ!おい!どこ行くんだよ!!」

追いかける那智



・竹やぶ(夜中)

那智 「もうお前なんなの……こんなところまで…」

ジャージ姿で怒っている那智
輝夜、あの開けた場所に出る

輝夜 「……」

竹の横を見て立ち止まる輝夜

那智 「なんだよ?何が……」

竹の横に膝丈ほども子供がいる

那智 「ああああああ!あの時の!ってぇ!お前いるのに……」
輝夜 「有明っ!!」

輝夜、走って傍に行く

那智 「えぇ!?有明さん!?」



・竹やぶ(夜中)

有明を抱き上げる輝夜

輝夜 「そなたどうしてこんな姿に…」
那智 「ホントに有明さんなのか…?」
輝夜 「あぁ。間違いない」
有明 「ふふふっ」

有明、楽しそうに笑っている

那智 「あの時と同じだ…」



・那智の部屋(夜中)

ベッドにちょこんと座っている有明

那智 「やっぱり有明さんだな!」

笑っている那智

輝夜 「何故だ」
那智 「だって礼儀正しいし。お前がこの姿の時はベッドで跳ねまくってたもん」
輝夜 「むっ」

拗ねる輝夜

那智 「んでもどうしてこんな姿に?いつもは普通に来るのに」
輝夜 「何かあったのか?」

輝夜、那智、有明を見るが笑うしかしない有明

那智 「喋れないんだよな…どうする?」
輝夜 「とりあえず元に戻るのを待つしかない」
那智 「そっか。まぁ朝んなったらなってんだろ」
輝夜 「そうだといいが」



・那智の部屋(夜中)

那智、ベッドとその下に敷いてある布団を見る

那智 「やっぱりお前下で寝ろよ」
輝夜 「何故だ!?」
那智 「だってこんな小さいのに一人で寝かせるのは可哀想だろ?」
輝夜 「しかしこいつは朝になれば元に戻るのかもしれないのだぞ!」
那智 「じゃあお前が一緒に寝てあげるの?」
輝夜 「え……?いや、それは嫌だ」
那智 「じゃあやっぱり輝夜が一人で寝ろよ!」
輝夜 「だからどうしてそうなるのだ!」



・那智の部屋(夜中)

輝夜 「どうしてこうなる」

ブツブツ言いながら寝ている輝夜
有明、那智、輝夜の順で狭そうにベッドに寝ている

那智 「うるさいぞ」
輝夜 「那智、そなたはこっちを向いて寝ろ」

輝夜、那智を抱きしめる

那智 「あーもう!なんでだよ!」
輝夜 「そなたいつも私を抱いて寝るではないか!」
那智 「だ、だからなんだよ!!」

照れる那智

輝夜 「朝起きて有明を抱きしめているかもしれないだろう!」
那智 「そんなわけあるか!いいから寝ろ!おやすみ!」
輝夜 「いいか!絶対にそいつを抱くな!」
那智 「うるさい!寝ろ!」



・那智の部屋(朝)

輝夜 「……」

輝夜、わなわなしている

那智 「ん……」
有明 「…すー……すー…」

那智、元の姿に戻った有明を抱きしめている
有明も那智を抱きしめている

輝夜 「貴様ら早く起きろ!!」

輝夜が怒鳴ると目を覚ます二人

那智 「はっ!まさか!」
有明 「え…?あれ…?」
輝夜 「まさかでもあれでもない!早く離れろ!」

輝夜、那智を引っぺがして抱きしめる

那智 「うわっ!」
有明 「か、輝夜様……?」

有明、状況が分からずに目を丸くしている

輝夜 「有明……そなたどうしてあの様な姿になっておった」

輝夜、怒っている

有明 「私……どうして…」

有明、自分の手を見る

輝夜 「?」
有明 「どうしてここに…?」

不思議そうに輝夜を見る

輝夜 「まさか貴様記憶が無いのか…?」
那智 「輝夜と同じ…」
有明 「記憶…?記憶なら……!私今日朝の鐘の当番なのに!」

有明、頭を抱える

輝夜 「はぁ?」
那智 「鐘…?」
有明 「申し訳ございません輝夜様!私月へ戻らねば!」

有明、窓に手をかける
輝夜、有明の腕を掴む

輝夜 「待て。記憶はあるのだな?」

輝夜、真剣な顔で有明を見る

有明 「ですから…私はご報告をしにこちらへやってきたのでは…?」
輝夜 「……」



・那智の部屋(朝)

ベッドに座って話している輝夜と那智
床に正座をしている有明

有明 「私が…そのようなことに…」
那智 「じゃあ昨日のことは覚えてないんだ…」
輝夜 「私は覚えていたがな」
有明 「……しかし私はどうしてそのような姿になったのでしょうか?」
輝夜 「私が知るか。あっちで何かあったのだろう」
有明 「……」
那智 「でも何かあったんなら誰かがこっちに来るんじゃねぇの?」
輝夜 「いや、こちらへ来れるのは限られている。余程の力がないと来れはせん。もしかすると本当に何かあったのかもしれんな」
有明 「しかし私はいつものように仕事をこなしていたようにしか…」
那智 「なぁ、輝夜がこっちに来たときさ、無理な旅をしたんだって言ってたよな?いつもの行き来とは違う方法だったってこと?」
輝夜 「あぁ。私は父上に閉じ込め…!まさか!」
有明 「?」

輝夜、有明の肩を掴む

輝夜 「そなた父上に何かされたのか」
有明 「父上……?」
輝夜 「逃げ出してきたのではないのか」
有明 「輝夜様。私の父は随分昔に天災で亡くなっておりますが…?」
輝夜 「そうではない!私の父だ!十六夜だ!」
有明 「十六夜……?」

有明、小首を傾げる

輝夜 「お前……父上を忘れているのか…?」
有明 「お父上……?」



・中庭廊下

輝夜、一人で歩いてくる

昴  「輝夜!?」

前から来た昴がそれを見つける

輝夜 「いいところにおった」
昴  「こっちも連絡取ろうと必死になっていたんですよ!有明さんが!」
輝夜 「私もそのことで帰って来たのだ」
昴  「聞いたんですか!?」
輝夜 「あぁ。父上はどこだ」



・大広間

輝夜 「父上」

輝夜、大広間に入ってくる

十六夜「……」

十六夜、輝夜に視線を向ける
酷く冷たい目をしていて輝夜、それに拳を握り締める

輝夜 「有明は私のところにいます」
十六夜「何」
輝夜 「しかし何故私に一言話をしてくれなかったのですか。こんな勝手なことを」
十六夜「勝手なのはお前だ。何故有明を連れてこない」
輝夜 「……あなたはどうしていつもこんな風にしか出来ないのですか…」
十六夜「どういう意味だ」
輝夜 「私のことならまだしも、有明はあなたのものではありません!」
十六夜「っ!何を言うか!あれは元はといえば私のものだ!貴様のものではないのだぞ!」
輝夜 「そうです。私のものでもありません。有明は一人の人間です。しかしあなたはあいつを閉じ込めてしまおうとしていた。私の時と同じではないですか!有明はそれを了承していたのですか!?」
十六夜「了承だと…?」
輝夜 「していないのでしょう?だから有明は逃げたのではないですか!私の時と同じように!」
十六夜「どうして私が了承を得ないといけないのだ」
輝夜 「あなたは…」
十六夜「ものではないだと?そんなこと分かっている!しかしあいつは私のものなのだ!ここに来たときからずっとな!早くここへ連れて来い!今すぐにだ!」
輝夜 「あなたがそんな風だからこんなことになってしまうんです!」
十六夜「何?」
輝夜 「有明はあなたの記憶をなくしています」

十六夜、目を見張る

輝夜 「あなただけを忘れてしまっているのですよ…」
十六夜「何だと……」
輝夜 「不知火」
不知火「はい」
輝夜 「連れて来い」
不知火「かしこまりました」



・大広間

十六夜「本当に私が分からないのか」

十六夜の前に立っている有明、悲しげな表情をする

有明 「申し訳ございません…」
十六夜「……そんな…」
輝夜 「これがあなたの報いです」
十六夜「っ……」
三日月「言うようになったな輝夜」

三日月、笑いながら部屋に入ってくる

輝夜 「母上…」
三日月「輝夜の言うとおりだ。有明」
有明 「はい」
三日月「よく無事でいてくれた。心配しておったのだぞ」
有明 「申し訳ございませんでした」

有明、頭を下げる

三日月「そなたが謝ることではない。さて、十六夜。どうするつもりだ。何も覚えていないとなるとかえって好都合だな。このまままたあの部屋へ閉じ込めるか」

三日月、笑いながら言う

十六夜「……」
有明 「あの…」
十六夜「もうよい」

十六夜、有明を見る

十六夜「三日月の言うとおりだな。もう何も覚えておらんのなら意味も無い」
有明 「……」

十六夜、有明の頬に触れる

十六夜「よく無事でいてくれた」

十六夜、言うとそのまま去っていく

輝夜 「父上…」
三日月「よい、声をかけてやるな」
輝夜 「母上…しかし」
三日月「……、不知火」
不知火「はい」
三日月「皆を休ませろ。騒動は終わった」



・櫓(夜)

昴  「戻らなくていいのですか?」

櫓から地球を眺めている輝夜に声をかける昴
昴の他に明星、不知火もいる

輝夜 「戻りたいがこの様な状況では戻るのにも気が引ける」

輝夜、言いながら座る

明星 「へぇ。お前もちったぁ皇帝らしいこと言うじゃねぇか」

笑う明星

輝夜 「皇帝だからではない」
不知火「ではどうして?」
輝夜 「父上があのような顔をしたのは初めて見た」

輝夜、壁に寄りかかる

昴  「……」
不知火「それは私もです」
明星 「そんなの皆同じだ」

輝夜、ふっと笑う

輝夜 「私が居てもどうこうなる問題ではないだろう。私に優しくされたところで父上もよい気分にはならん。しかしあの様になるとはな。私もどうすればいいのか分からんのだ…」

輝夜の声に黙る三人

明星 「お。有明だ」

明星、城内を見下ろしている
三人も見る
有明、一人で歩いている

昴  「こうなったのも仕方が無い気もしますが……」
明星 「あんなことされちゃーなぁ。でも生きてて良かったじゃねぇか。それに記憶が無くなったって言っても一時的なもんだろ?少しはいい薬になるだろ」
不知火「明星、輝夜を前にしてよくそんなことが言えますね…」

呆れる不知火

明星 「あ。そうだな…すまん」
輝夜 「よい。私もそうは思っておる。しかし爺の結界を破って父上の記憶だけで済むとは…。やはりあいつは化け物だな…」

輝夜、言いながら座る
それを見て三人も座りなおす

不知火「三日月様も仰っていました」
昴  「あの…」
輝夜 「ん?なんだ」
昴  「この度の異動はどうなるのです?やはりそのまま続行されるのですか?」
不知火「……」

不安そうな顔をする三人

輝夜 「心配せんでもよい。取り止めだ。こうも早く動かされてはかなわんわ。私でさえこの歳で皇帝になどなるつもりは無かったというのに」
昴  「そうですか。それは安心しました」
不知火「やはり輝夜と先に連絡を取るべきでしたね…」
明星 「よかった…」
不知火「では前任のままでよろしいのですね?」
輝夜 「あぁ。そなたは母上の傍にいろ。母上もまだそなたを手放す気はあるまい」

不知火、嬉しそうに笑う

昴  「では私もまだ奥に行かなくていいのですね?」
輝夜 「あぁ」
昴  「良かった。ねぇ明星?」
明星 「え!?あ、あぁ…そうだな…」

戸惑う明星

輝夜 「しかし有明のことをどうにかした方が良いかもしれんな…」
昴  「え?統括のままではないのですか?」
輝夜 「いや、それはそれでよいのだが。父上の御付をもう一人…」
有明 「こんなところにいらっしゃったのですか!!」

突然有明が顔を出す

明星 「うわっ!」
昴  「有明さん!」
不知火「あ!あのこれは!」
輝夜 「……」
有明 「あなた達はまったく……幼い頃と何も変わっていませんね…」

呆れる有明

輝夜 「そなたも変わっておらんではないか」

笑う輝夜

有明 「あ……そうですね」

笑う有明を見て全員笑う

輝夜 「どうした。勤務はもう終わっているはずだが?それともそれでもここでは遊ぶなと?」
有明 「いえ、そうではありません。少し輝夜様とお話がしたいと思いまして。でも楽しんでいらっしゃるようですからまた明日にします」

有明、引っ込もうとする

輝夜 「待て。私も話をしようと思っていた。行こう」

輝夜、立ち上がる



・縁側(夜)

輝夜、有明、座っている
空には地球が輝いている

輝夜 「なんだ。話とは」
有明 「…輝夜様から仰ってください」
輝夜 「そうか?……記憶の無い今言っても仕方が無いかもしれんが、今回のことはすまなかった」
有明 「え?いや、あの、やめてください!私は…」
輝夜 「いや、私が城にいればこのようなことにはならなかっただろう。それにそなたには要らぬ苦労をかけていた」
有明 「輝夜様!」

有明、謝る輝夜に困る

輝夜 「今までの体制もおかしかったのだ。そなたは統括だけではなく私にも付いている。それに元は父上の御付だ。いくらそなたの能力が高いといっても三役もこなす必要は無かったはずだ」
有明 「……」
輝夜 「こうなってしまった以上、そのことについてもきちんと立て直す必要がある。なぁ有明」
有明 「はい」
輝夜 「そなた私の正式な御付となれ」
有明 「え…?」
輝夜 「統括を辞めろとは言わん。こちらとしても今辞められるとかなわんからな。しかし父上に付くのは他の者に任せるべきだ」
有明 「……」

有明、俯く

輝夜 「私が皇帝となった今、そなたの力が必要だ。しかし父上にはもう必要ではないだろう」
有明 「しかし…」
輝夜 「まぁあの父上に耐えられるのはそなたくらいしかおらんのかもしれんが」

輝夜、少し笑う

輝夜 「無理にとは言わん。そなたの望む通りにしよう。これは命令では無いからな」

輝夜、微笑んで有明を見る

有明 「…少し…考えさせてください…」
輝夜 「あぁ、急がなくても良い。父上には私が話を通す。そなたは何も気にしなくていいから今はゆっくり休むといい。城のことも気にするな。不知火や昴や明星が何とかしてくれるそうだ。私もしばらくはこちらにいる」
有明 「しかし那智様がお寂しく思われるのでは…?」
輝夜 「心配するな。あいつなら分かってくれる」

笑う輝夜

有明 「そうですか……」
輝夜 「それで?そなたの話とはなんだ」
有明 「はい…。その、十六夜様のことなんですが…」
輝夜 「あぁ。記憶はまだ少しも戻らんのか?」
有明 「はい……」
輝夜 「そうか。まぁそのことも気にせんでよい。私もそうだったではないか」
有明 「…私はどうしてあの方だけの記憶を無くしてしまったのでしょうか…」
輝夜 「……」

輝夜、有明を見る

有明 「話は不知火から伺いました。しかし私はどうして逃げ出すようなことをしたのか…」
輝夜 「……」
有明 「確かに仕事を奪われ、側室となることは…その…」
輝夜 「よい、気にせず言え」
有明 「…悲しいことです」
輝夜 「あぁ」
有明 「しかし身寄りの無い私をここまで生かしていただいたご恩がこの場所にはあるはずなのに、それなのに私はその恩を仇で返すようなことを…。望まれるのなら従うのが」
輝夜 「やめろ」
有明 「え…?」
輝夜 「そなたは囚われているわけではないのだぞ。命令されればなんでもするように思うな」
有明 「しかし私は」
輝夜 「私はそなたを兄の様に思っていた」
有明 「輝夜様…」

有明、驚き目を見張る

輝夜 「父上の命令であろうと生まれた時から私の傍にいた。まじないを教わったのもそなたからだ」
有明 「それは…」
輝夜 「父上に厳しくされたときに慰めてくれたのもそなただ」
有明 「……」
輝夜 「それは私がこの星の皇子だからしたことか?すべて命令されていたから」
有明 「違います!そんなことはございません!私は心からあなたを思っていました!」
輝夜 「ふっ。それを聞いて安心した」

輝夜、微笑む
それを見て申し訳なさそうにする有明

有明 「……逃げ出した時のことは覚えていません」
輝夜 「あぁ」

輝夜、地球を見る

有明 「しかし何故か凄く悲しいことだったと感じます」
輝夜 「そうか」
有明 「一番…忘れてはいけないことという気がするんです……」
輝夜 「……」

有明、地球をただ見つめている




第五章へ

mainへ
topへ戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -