第二章


・客間(回想)

見た目十歳くらいの有明が正座をして座って部屋をきょろきょろ見回している
そこへ夕月(ゆうづき)が来る
有明、頭を下げる

夕月 「お前が有明か」
有明 「はい」
夕月 「畏まらんでいい。顔を上げなさい」
有明 「はい」

夕月、微笑んでいる

夕月 「話は聞いた。とりあえず力を見せてみなさい。何が一番得意だ?」

有明M「その年の初め、両親が天災で亡くなり私は天涯孤独の身となりました。生きる手立ても分からぬ私を見かねた隣人達が私の力ならとこの城へ連れてきてくれたのです」

有明 「はい。失礼します」

有明、少し後ろに下がると両手のひらを上に向ける
右の手のひらから水が飛び出し、左の手のひらへ消えていく

夕月 「ほう」

夕月、それを見て関心する
次に指先を擦ると炎が飛び出し、手を叩くと鈴の音が鳴る

夕月 「ほほほ、見事だ」
有明 「最後によろしいですか?」
夕月 「あぁ、やってみなさい」

有明、頭を下げると立ち上がり庭を見る

夕月 「?」
有明 「失礼します」

有明、もう一度頭を下げ右手を差し出しふっと息を吹きかけると
その指先からきらきら光る粒子が飛び、庭に咲いている小さな花を一輪浮かべる
するとその花がこちらに飛んできて手の中に止まる

夕月 「ほう、浮力が使えるのか…」

夕月、驚く

有明 「どうぞ」

有明、微笑んで花を差し出す

有明M「まじないを使うのは幼い頃から得意でした。両親には特別な力だと教えられ、私はその力を誰かを楽しませるためや、両親の手伝いとして使っていました」

夕月 「うん。素晴らしい。お前ほどの歳で浮力を使えるなど見たことが無い」
有明 「ありがとうございます」

有明、嬉しそうに笑う

十六夜「爺」

突然庭から十六夜が現れる
見た目十四歳ほどに見える

夕月 「これは十六夜様。どうなされましたかな?」

有明、頭を下げるのを忘れて十六夜に見入っている

有明 「……」

有明M「庭の隅から現れた十六夜様は見たことも無いほど美しく、この世の者と思えなかった程で──」

十六夜「そいつが言っていた孤児か」

十六夜、有明を見る
その視線にハッとして急いで頭を下げる有明

夕月 「そうでございます」
十六夜「面白いまじないが出来るんだな」
有明 「ありがとうございます」
十六夜「そいつを俺の御付にしろ」
夕月 「しかし陛下は三日月様にと仰っていましたが…」
十六夜「よい」

十六夜、言うと部屋に上がってくる

十六夜「気にいった」

十六夜、言いながら有明の顔を上げさせ目を見る

十六夜「いい目の色をしているな。父上と三日月には私から話を通す。お前も私の元におりたいだろう」

十六夜、笑って有明を見る

有明 「はい…」

呆然と十六夜に見惚れている有明

有明M「この時の返事は従った言葉ではなく、本当に心から願った言葉でした。思えば私は一目見た時から十六夜様に心奪われていたのです」



・十六夜の部屋(夜)(回想)

部屋の窓から地球を見ている十五歳ほどの十六夜
その隣に座っている十一歳ほどの有明

有明M「私はこの城の統括である夕月様にまじないの稽古を受けながら十六夜様のお傍にいました。しかし身の回りのお世話は専用の御付がいましたので、私は殆ど遊び相手としてお使えさせていただいていたのです」

有明 「十六夜様。お寒くありませんか?」
十六夜「いや」

空を見上げたままの十六夜

有明M「十六夜様は殆ど表情を表すことは無く、お話もあまりなさらない方でした」

有明 「夕月様にこんなことを教わったんです」
十六夜「ん?」

有明、地球を見る

有明 「あの星にはこの世を去った者が新たな命を持って生まれてくるのだと」
十六夜「……」
有明 「あの星に人が住んでいるとはおとぎ話でしか知りませんでしたが、もしそれが本当ならば私の両親もあの星でまた命を授かっているのでしょうか…」
十六夜「…有明」

十六夜、地球を見ている有明の顎を持つとこちらを向かせる

十六夜「お前は寂しいのか。親が死んで」
有明 「…はい。両親が死んでしまったことは悲しくも、寂しくも思います」
十六夜「お前には私がいるではないか」
有明 「十六夜様…」
十六夜「それでも寂しいのか?」

有明M「その時も十六夜様はやはり表情をあまり崩されていませんでしたが、私には少しだけ優しく微笑んでいるように見え、それが本当に嬉しかったのです。十六夜様のお傍にいられるだけで私は十分だと思っていました。その時までは──」



・給仕室(回想)

慌しい雰囲気の給仕室
そこへ夕月が来て有明に気が付く
有明、見た目十四歳ほど

夕月 「あぁ、こんなところにいたのか」
有明 「何かあったのですか?」
夕月 「十六夜様と三日月様のご成婚が決まったのだ」
有明 「え…?」

有明、目を見張る

有明M「十六夜様と三日月様のご結婚はもう生まれたときから決まっていたことでした。二人ともそう決められて育ってきたのです。今更驚くことでもありませんでした」

夕月 「今日から当分の間まじないの稽古は出来ない。お前も十六夜様のお手伝いに専念しなさい」
有明 「分かりました…」

有明M「この時初めて私は十六夜様に対する想いに気が付き、それと同時に叶わないものだと気づかされたのです」



・十六夜の部屋(夜)(回想)

十六夜、窓辺に座り、地球を見ている
その光に照らされとても美しく見える
十六夜、見た目十八歳ほど

有明 「……」

有明M「泣きそうになったことを覚えています。十六夜様は本当に美しく、それはもう初めてお会いした時からそうでしたが、届かないものだと分かったからこそ一層美しく見えたのかもしれないと。伝えることも出来ない想いは、ただ空に浮かんでふわふわ漂うだけ」

十六夜「有明」

十六夜、有明に向かって手を差し出す
傍に行く有明

有明M「その手に触れる手前、泣き出しそうな私の心を今まで覚えたまじないすべてをかけて笑って言いました」

有明 「十六夜様。ご成婚、おめでとうございます」
十六夜「っ……」

十六夜、目を見張る
有明、それに驚く
十六夜、俯くと酷く冷たい声を出す

十六夜「出て行け」
有明 「え…?」
十六夜「出て行け!」

有明M「初めて聞いた感情の声は、笑う声でもなく、優しい声でもなく、拒絶するような悲しい声でした」



・勉強部屋(回想)

有明 「真面目にやってください!」

見た目八歳ほどの輝夜、明星、昴、指先から水をだしたり炎を出したりして遊んでいる
有明、怒っているが動じない三人

有明M「その後程なくして輝夜様がお生まれになり、私は十六夜様の命令により輝夜様のお傍にいました」



・十六夜の部屋(回想)

十六夜、奥に座っている
段下に輝夜と有明が座っている

十六夜「まだ浮力も使えんのか」

十六夜、冷たい目で輝夜を見ている

輝夜 「すみません…」
十六夜「私がお前の歳にはもうできていたぞ」
輝夜 「……」

見かねて有明が口を出す

有明 「しかし動力は使えるようになりましたよ。ね、輝夜様」
輝夜 「うん」

輝夜、笑って傍にあった座布団を少しずらす
しかしそれを見て十六夜ため息をつく

十六夜「そんなことではいつまで経っても皇帝にはなれんぞ。もうよい行け」

輝夜、俯いて立ち上がる

有明M「十六夜様は輝夜様にとても厳しくなさっていましたがそれだけではありませんでした」



・庭(回想)

庭の置物が真っ二つに割れている

明星 「おい、どうすんだよこれ…」
輝夜 「そなたがやったのであろう。さっさとくっつけろ」
明星 「俺っ!?後ろからまじないで突いたのは昴だぞ!」
昴  「やれと命令したのは輝夜ですよ」

コソコソ話をしている輝夜、明星、昴

十六夜「何をしている」

そこへ十六夜が来る
咄嗟に置物を囲って三人で隠す

輝夜 「い、いえ…」
明星 「なんでもありませんっ!」
昴  「ははは…」

足元から丸見えの置物を見てため息を吐く十六夜

十六夜「どきなさい」
輝夜 「あ、あの…これは…」
明星 「隕石が…」
昴  「空から降ってきて…」

すごすごと置物から離れる三人

十六夜「このくらい直せないでどうする。お前達はこの城を守る者になるのだぞ」

十六夜、言いながら手を置物に翳すとさっと空を切る
すると置物が元通りになる

輝夜 「あ…直った…」
明星 「すごい…」
昴  「跡もない…」
十六夜「有明の授業で遊んでばかりしているからだ。しっかり話を聞いて学びなさい」

十六夜、呆れて去っていく
それを庭の廊下で見ている有明

有明M「厳しい教育にも親としての愛はあったのです。しかしそれを壊してしまったのは私でした。忘れもしない、消えない罪があの方を裏切り、そして輝夜様までも苦しめることになってしまったあの日…」



・輝夜の部屋(回想)

輝夜、見た目には十五歳ほど
有明を押し倒している

有明 「か、輝夜様…」

驚いている有明

輝夜 「有明…」

輝夜、有明にキスをする

有明 「んっ…駄目です…輝夜…様っ」
輝夜 「そなたは私が嫌いなのか…?」

輝夜、切ない表情で有明を見る

有明 「そんなことは…」

有明M「いつものように叱っていればよかったのです。そうすれば何もかもが上手くいくはずでした。こんな冗談はいけませんと。私は輝夜様を十六夜様から任されている身だったのに。どうしてこの時はっきりと拒否することができなかったのか」

輝夜 「ではいい…」

輝夜、有明にキスをしながら有明の帯を解く

有明M「輝夜様は驚くほどあの頃の十六夜様に似ていて……」

有明 「輝夜…様っ……」



・十六夜の部屋(夜)(回想)

有明 「十六夜様…あの」

突然有明の胸倉を掴む十六夜

有明 「っ!…十六夜様…」
十六夜「貴様は何度私を裏切れば気が済む」

十六夜、酷く冷たい声で言う

有明 「どういう……」

十六夜、そのまま畳に押し倒す

有明 「十六夜様っ…」
十六夜「輝夜が…」
有明 「え……」
十六夜「あいつが好きなのか!!」
有明 「……」

十六夜の言葉に目を見張る有明

有明M「十六夜様が私と輝夜様の関係にどうしてお気づきになられたのかは分かりません。しかしこの時聞いた声は、あの時の声と同じでした。拒絶するような、悲しい声。それは私の償いの始まりだったのです」

有明 「十六夜…様…?」
十六夜「私がどんな思いで…」
有明 「いざ──っ!」

十六夜、有明に無理やりキスをする

有明 「んっ……んん…は…んぅ…」
十六夜「お前が悪いんだ…」

有明M「この頃から十六夜様は輝夜様に以前よりも増して厳しくなさるようになりました──」



・輝夜の部屋(回想)

輝夜、窓辺から地球を見ている

有明 「輝夜様…」
輝夜 「有明…あの星に人が住むというのは本当か…?」
有明 「……分かりません」
輝夜 「昔言っていたではないか、この世を去った者はあちらの世界で新たな生を受けるのだと」
有明 「その世界が実在していたとしても、私たちがあの星へ行く手立てはありません」
輝夜 「有明。手を出してみろ」
有明 「え…?」

輝夜、有明の手を取る
すると青い火花が散る

有明 「な……」

驚く有明

輝夜 「ここまで急いで来たのだ…。私は父上の力を持っている…。もう壊れた物を直せない子供ではない。もしもあの星に行けたのならば……」

輝夜、虚ろな目で地球を見ている

有明 「何を仰いますか…」
輝夜 「……」

有明M「この頃私は以前のような元気を失った輝夜様をどうにかして守りたいと思い、そしてその想いが輝夜様を愛すようになっていました。しかし輝夜様を救ってあげられずにあの運命の日を迎えるのです」



・給仕室(回想)

輝夜 「何をしている」

給仕室の戸口に立って声をかける
給仕室では見事な深緑の打ち掛けが広げられている

婆  「これはこれはいいところにお出でなさった」
輝夜 「どうしたのだ婆。何か祝い事でもあるのか?」
婆  「先ほどお父上がお出でなさってそなたの襲名式の日取りを」
輝夜 「なんだと!?」
婆  「輝夜様…?」
輝夜 「何を勝手なことを言っておる…私は皇帝になどならぬ…」

輝夜、取り乱している

婆  「何を言いますか。そなたは生まれる前からそうなる定めなのですよ」
輝夜 「定めなど誰が決めたのだ!私は…私は皇帝など…」
婆  「お父上の跡を継ぐのがそなたの決められた道。抗うことなど出来ないのですよ」
輝夜 「うるさい!私は絶対に跡は継がん!跡を継いでどうなるというのだ…私は…」

婆、困った表情を浮かべる

婆  「そなたの為を思って言っているのです。このままではすべてが駄目になってしまう」
輝夜 「なにを…」
婆  「すべてを投げ出して今更何になるといいましょう。そなたにはきちんと決められた道があるというのに」

婆、立ち上がって近づいてくる

婆  「許されないことですよ」

婆、輝夜の腕を掴む

輝夜 「離せッ!!」



・十六夜の部屋(夜)(回想)

有明 「どういうことですか!?」

有明、大声を上げる

十六夜「決まったことだ。今更どうにも出来ん。あいつも力をつけたからな」
有明 「どうして閉じ込めたりなど…」
十六夜「今の状況を見れば分かるだろう。お前はあいつが舌でも切らぬよう見張っていろ」
有明 「そんな…」



・輝夜の部屋(夜)(回想)

輝夜、開かない窓の傍に座っている
有明、開かない襖をすり抜けて入ってくる

輝夜 「有明っ!」

有明、輝夜を抱きしめる

有明 「申し訳ありません。すべて私のせいです…」
輝夜 「有明…私はこのままどうなるのだ…」
有明 「……私がお傍にいますから」
輝夜 「なんだその言葉は…そんなもので…」
有明 「……」
輝夜 「私はもう耐えられない…」
有明 「輝夜様…」
輝夜 「どうして私はこんな場所に生まれてきたのだ」
有明 「……」

有明、悔しそうにする

輝夜 「有明…手を貸してくれ…」
有明 「輝夜様?」

離れると輝夜を見る有明
輝夜、真剣な眼差しで有明を見る

輝夜 「少しあの星が見てみたいのだ。いつもの様に、この窓から」
有明 「……」
輝夜 「そなたの力でこの窓を開けるだけでいい。それくらいそなたなら容易いことだろう」
有明 「ですが…」
輝夜 「頼む…」

輝夜、有明の手をそっと取り手の甲にキスをする
離れると同時にそこへ息をそっと吹きかける

輝夜 「な?私に手を貸してくれ」
有明 「分かり…ました…」

有明、ふっと窓に寄るとその場所に触れる
すると窓がはっと開き、空に浮かぶ地球が見える

輝夜 「すまない有明。許してくれ。そなたには世話になった…」

輝夜、有明の頬にキスをすると姿を消す

有明 「……輝夜…様…」

有明、その場に倒れる



・大広間(回想)

十六夜「どういうことだ!!」

十六夜の怒鳴り声が辺りに響く
城中の者が大広間にいる
十六夜の隣奥に座っている三日月その隣に不知火がいる

有明 「申し訳ございません」

有明、頭を下げている

十六夜「消えただと?」
有明 「城中探しましたがどこにもおらず、気配も見当たりません」
十六夜「何のためにお前に見張らせていたと思う」
有明 「申し訳ございません」

有明M「私が気を取り戻した時には輝夜様の姿はどこにもあらず、見えたのはただ輝くあの星。気配を探るもどこにもないあの人の姿」

三日月「自業自得だ」

三日月、扇子で口元を押さえあざ笑っている

十六夜「何?」
三日月「あのようなやり方では私でも逃げ出していたぞ」
十六夜「……」

十六夜、三日月を睨みつける

三日月「おぉ怖い。しかし有明」
有明 「はい」
三日月「あれは私の可愛い子だ。何としてでも探し出せ」
有明 「かしこまりました」
三日月「不知火」
不知火「はっ」
三日月「有明に力を貸してやりなさい。しばらくは奥に来なくてよい」
不知火「かしこまりました」
三日月「私は奥へ戻る」

三日月、立ち上がる

三日月「十六夜」
十六夜「何だ」
三日月「お前の気持ちも分からんでもないがあれもまだ若い。親としての配慮というものがあるだろう。お前がそんなことならいつまで経っても望みは叶わんぞ」

三日月、いい捨てると踵を返す

十六夜「貴様に何が分かる」
三日月「輝夜の方が幾分か大人だな」

三日月、高らかに笑いながら去っていく



・統括室(回想)

有明、座って目を閉じている

不知火「有明様、少し休まれてはいかがですか?」

顔色の悪い有明

有明 「私は大丈夫です」
不知火「しかし…」
有明 「こうなったのは私の責任です。気配が追えないのは私のまじないのせい。解けるのも私しかおりません。これさえ解ければ輝夜様の居場所が分かります」
不知火「だからこそです。あなたが倒れられては元も子もありません」
有明 「……」
不知火「ですから。ここは私に任せてください」
有明 「そうですね…では少し任せます」

有明、額を押さえて姿勢を崩す

有明 「……不知火」
不知火「はい」

有明、窓から見える地球を見る

有明 「輝夜様は本当にあの星へ行かれたのだろうか…」
不知火「…どうでしょうか…」
有明 「……」



・大広間(回想)

十六夜、玉座に座っている
城中の者がいる中、有明と不知火が一番前にいる

有明 「輝夜様のお姿を確認いたしました」
十六夜「どこだ」
有明 「あの星でございます」
十六夜「……」

城中の者が騒ぎ出すが十六夜、動じない

有明 「あの星の人間と一緒にいるようで、こちらから呼びかけに反応されないことから記憶を無くされている様子です」
十六夜「記憶が無い?」
有明 「あの星へ行く際に記憶の欠片をばら撒かれた様です。しかしそれも時間の問題かと」
十六夜「そうか。ではよい。即刻連れ戻せ。何なら一緒にいる人間に手を出しても構わぬ」
有明 「……かしこまりました」
十六夜「なんだ」
有明 「いえ…」

有明M「あの星で見つけた輝夜様はとても幸せそうに見えました。幼い頃のあの笑顔で笑っていらしたのです。そして隣にいる少年を愛おしそうに見る目を私は見たことがありませんでした。しかし住む世界が違う者。輝夜様はこの国の皇帝になられる身。行き着く先は悲しい結末しかないのです」



・那智の部屋(夜)(回想)

輝夜、那智(なち)を見る
幸せそうに眠っている那智

輝夜 「さて、参るとするか」
有明 「はい」
輝夜 「短い間だが、楽しかった」

輝夜、笑うと外へ出る
外から眠る那智の姿を見る有明
有明、指先をふっと吹くときらきら光る粒子が空に舞う



・大広間(回想)

輝夜、十六夜の前に出る
その後ろにいる有明

輝夜 「父上。戻ってまいりました。あなたの言うとおりにいたします」
十六夜「……」

十六夜、輝夜を冷たい目で見ている

輝夜 「……」

輝夜、それに動じまいと目を逸らさないでいる

十六夜「よく帰って来たな」
輝夜 「はい。申し訳ありませんでした」
十六夜「有明」
有明 「はい」
十六夜「襲名式の準備をしろ。城中の者を動かせ」
有明 「かしこまりました」
輝夜 「……」

輝夜、俯く

十六夜「輝夜」
輝夜 「はい」
十六夜「その後のことに私はもう干渉しない。お前が皇帝となれば私も口を出さない。お前の好きにしろ」
輝夜 「え…?」
十六夜「さがれ」

十六夜、相変わらず冷たい目をしている
輝夜、呆然としている



・中庭(夜)(回想)

空に浮かぶ地球を眺めている有明

有明M「その後、皇帝となられた輝夜様はあの少年に会うためにあの星へ戻られました。まじないを解いた少年はすべてを思い出し、輝夜様もまたあの時の笑顔を取り戻されたのです」

十六夜「何をにやにやしているのだ。気持ち悪い」

十六夜が後ろにいる

有明 「えっ?あ、十六夜様」

有明、十六夜を見て微笑む

有明 「輝夜様は上手くいっているようですよ」

嬉しそうにしている有明を見て、呆れる十六夜

十六夜「お前があいつのまじないを解いていたのだろう。馬鹿らしい」
有明 「えっ!いや!あの……」

焦る有明

十六夜「お前はいつまで経ってもあいつに囚われているんだな」

十六夜、言い捨てると去っていく

有明 「十六夜様っ」
十六夜「……」

有明の声に振り返りもしない十六夜

有明 「……」

有明M「この時、はっきりと分かりました。私は未だ十六夜様への思いを忘れられずにいたのだと。輝夜様の幸せを願えたのは、十六夜様がいるからなのだと」



・十六夜の部屋(夕方)

乱れた姿で部屋の外を見ている有明

有明M「しかし叶わぬ想い。たとえ慰み者だとしても、あの方のお傍に居られるだけで幸せだと、そう思うことでどうにか生きていこうとする私はこの城にいるすべての者を裏切っている大罪人なのです」

有明、立ち上がり服を調える

有明M「十六夜様が私をお許しになられた時、それが本当の幸せなのか。それともそこからが地獄なのか……」

有明、部屋を出る

有明M「何が一番で何が正しいのか分からずに、私はただあの人を思うことしかできないのです。それはもう十六夜様を一目見たときからずっとそうだったのかもしれません」




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