第三章


・教室

屯している女子生徒

生徒A「今日どーするー?行くー?」
生徒B「ミシン室?あそこ今人すごいじゃん」
生徒C「帝王いなくなった途端これだもん」
生徒A「ずるいって言ってたのはどこの誰よ」
生徒B「えー?だってさぁ」
生徒C「でもさ、ほんとなのあの噂」
生徒B「辞退?」
生徒A「現にいないじゃん。これであたしにも光が!!」
生徒B「それはどうかわかんないけどさー。なんか妙に寂しいのはあたしだけ?」
生徒C「あーそれ分かる。というか、あたし毎年楽しみだったんだけどなー。帝王の服」
生徒A「えー?そうなの?」
生徒B「あたしも楽しみだったよー。戻ってこないかなー」



・食堂

俊祐が食堂に入ってくる
三人女を連れている
辺りがざわめく

生徒D「ちょ、久しぶりに見た」
生徒E「っていうか女新しくなってない?」
生徒F「っつーか、あの噂マジかよ?スランプで何にも作れなくなったっていうの」
生徒D「だって本人が言ってたんだもん。ほんとでしょ?」
生徒E「天才も落ちるんだねー…」

隅で食事をしながら話が聞こえている真央

真央 「……」

悲しげに俊祐を見る

女C 「ねぇー俊祐ぇ。この後どーすんの〜?」

俊祐にひっついている女C
真央、それを見ると去っていく



・ミシン室前

俊祐がミシン室に入ろうとすると後ろから生徒A、B、Cがくる

生徒A「あっ」
俊祐 「?」

振り返る俊祐

生徒B「か、哉家くんも使うの…?」

びびっている生徒A、B、C

俊祐 「いや、別に。見に来ただけ」

俊祐、中に入っていく

生徒C「ちょっと!どうすんの!?」

コソコソする生徒A、B、C

生徒B「どうするって、早く行けば誰もいないって言ってたのだれよ!」
生徒A「ホントに誰もいないでしょうよ!」
生徒C「いるじゃん!一番駄目な人が!」
生徒B「うぅぅ…」
生徒A「やめとこっか…」
生徒C「そのほうが安全…」

とぼとぼ去っていく生徒A、B、C
生徒Gが前から来る

生徒A「今日は帝王いるわよー…」
生徒G「えぇ!?」
生徒B「今日はだめだー…」



・ミシン室

夕方、夕日が差し込んでくる中、窓際に座って煙草に火をつける

真央 『悲しいからです……、君をどうにかしてあげたいのに…僕にはどうすればいいのかわからない』
真央 『いい人だと思ってたのに……。僕はそんなこと思ってない!』

俊祐M「あの時の泣き顔が、不謹慎にも綺麗だと思った。やっぱりこいつじゃなきゃこの服は完成しないと分かった。代わりならいくらでもいるのに、それでもあいつじゃなきゃ駄目だった」

煙草をふかす

俊祐 「……」

ミシン室の中を見る

真央 「……」

戸口に立って俊祐を見ている真央
少し怒っている

俊祐 「……」

俊祐、立ち上がって出て行こうと真央の方へ行く

真央 「どうしてあんな嘘ついてるんですか」
俊祐 「……」

すれ違い様に立ち止まる俊祐

真央 「スランプなんて嘘でしょう?どうして僕のせいにしないんですか…」
俊祐 「俺が悪いのに、どうしてお前のせいにするんだよ」
真央 「……」
俊祐 「心配すんな。お前に迷惑かけようなんか思ってないから」

行こうとする俊祐の手を掴む真央

真央 「あの時あなたが言ったことは全部が嘘じゃなかったんです…」

真央、俯いている

俊祐 「……」
真央 「僕は…いつの間にか君が好きだったから…」
俊祐 「……っ…」
真央 「だから…服を脱ぐたびに恥ずかしかったのもそうだし」
俊祐 「っ……言うな…」
真央 「君とキスだってしたかったっ!」
俊祐 「どうして……」
真央 「でも信じてください。僕は永久くんの代わりだなんて思ってない。純粋にあなたが好きなんです…」

涙を流す真央

真央 「君の道を閉ざしたかったわけでもありません。ただ僕だったらもう思い通りのものになんか、ならないと思ったから。こんな気持ちのまま君の綺麗な服を着ちゃ失礼だと思ったから…。だから僕は辞退したんですよ……」
俊祐 「……」
真央 「君にそんな顔させたかったんじゃないんです…」

泣いている俊祐

真央 「お願いだから、辞めたりなんかしないでください……」
俊祐 「俺は」

真央、俊祐を見る

俊祐 「俺は……。馬鹿でどうしようもない人間なんだよ……」
真央 「そんなことない」
俊祐 「初めて凄いと思ったんだ……あの人形見て、どうしようもなく、追いつきたいって…」
真央 「……」
俊祐 「嫌いで、嫌いで……あいつには俺にないものが沢山あって……それなのに憎ませてもくれない……」
真央 「……」
俊祐 「お前の言うとおりだよ…あいつは俺の憧れだった……あいつみたいになりたかった……」
真央 「哉家くん」

真央、俊祐の背中に抱きつく

真央 「君は君でしょう?他の誰でもない。君しか出来ないものを沢山持ってる。誰も知らない、君にしか表現できないものを、沢山持ってる」
俊祐 「……」
真央 「それを皆望んでるんですよ。こんなところで終わってなんかいないんです。君の前にはずーっとずーっと長い道がある。その先に永久くんはいないかもしれないけど、でもきっと彼は君の隣にいてくれますよ。だからこんなところで立ち止まらないでください」

真央、離れる

真央 「ごめんなさい。偉そうなこと言ってしまって……」

俊祐、振り返って真央を抱きしめる

真央 「……」

驚いている真央

俊祐 「だったらもう一度引き受けてくれ」
真央 「え…?」
俊祐 「お前じゃないとだめなんだ。言っただろ、お前じゃないとあれは完成しないって」
真央 「だ、だって…」

真央、真っ赤になっている

俊祐 「引き止めたいんだったら分かったって言え。そうじゃないと俺はもう終わりだ」

真央、笑う

真央 「君はやっぱり強引だと思います」
俊祐 「あぁ」
真央 「分かりました。僕でいいんでしたらお引き受けします」

俊祐、真央にキスをする

真央 「っ!」

驚く真央
真央の手を引いてミシン室に入るとドアを閉める
真央をドアに押し付ける俊祐
キスをする

真央 「っ……んぅ……かな、いえくん……?」
俊祐 「……んっ……」

俊祐、真央を見る

俊祐 「嫌だったらこの間みたいに殴れ。じゃないと止めないぞ」

またキスをする

真央 「…んっ……嫌じゃ…ふっ……ないん…んん…ですか…?」
俊祐 「この状況でそれを聞くのか」

鼻で笑う俊祐
赤くなって下を向く真央

真央 「あの……」
俊祐 「なに」

真央、俊祐を見上げる

真央 「もっと……してください…」
俊祐 「っ……煽るな…くそ……っ…」

キスをする

真央 「んっ……っ……」

俊祐、首筋にそってキスをしていく
服の中に手を入れる

真央 「あっ……」
俊祐 「誰かに見られたくなかったら鍵閉めろ」

俊祐、胸にキスをしながら言う

真央 「んっ……あっ……あぁっ」

真央、拙い手で鍵を閉めるとそのまま床に座り込む



・ミシン室

真央 「か、ないえ……くんっ……あっ…やぁっ…」

床で抱き合っている二人

俊祐 「名前……っ…呼べよ……」
真央 「あ、っ…んっ……しゅん、すけ…っ……あぁっ…もっと…」
俊祐 「ふっ……やっぱお前…ん…可愛いな……」

笑う俊祐

真央 「そこっ……あぁっ、あっ……やぁっ……」
俊祐 「……ん……っ…」
真央 「しゅん…すけ…っ…」

真央、俊祐に手を伸ばす
キスをする二人

真央 「あっ……もう、やぁっ……しゅんすけっ…ぼく…っ…でちゃうっ…」
俊祐 「うん……っ…いいよ……出せ……」
真央 「あっ、あんっ……んっ…しゅんすけっ……あ、あっ…やっ…はぁっ……!」
俊祐 「…っ……」



・自室

俊祐、ベッドに座って煙草に火をつける
真央、机の前に座っている

真央 「あ、あの…お姉さんは…?」
俊祐 「あぁ、帰って来ない。今舞台で地方行ってるから」
真央 「そうですか……」

落ち着かない真央

俊祐 「なんでこっち座んないの」

真央を抱き上げる俊祐
足の間に座らせて後ろから抱きしめる

真央 「た、煙草っ、危ないですっ!」
俊祐 「大丈夫だよ」

耳元で笑う俊祐

真央 「うぅ……」
俊祐 「あんなにさっきは大胆だったのに、なんで急に照れるんだよ」
真央 「〜〜〜〜っ!言わないでくださいっ!」

真央、耳を塞いで真っ赤になる

俊祐 「あぁ、あれか。そういうときには豹変しちゃうタイプか」
真央 「ち、違いますッ!」
俊祐 「へぇ〜、さっきはもっともっとってうるさかったのに」
真央 「いやぁぁぁぁ!」

真央、俊祐を押しのけようとする

俊祐 「分かった分かった。ごめん」
真央 「もう……」

真央、ふと俊祐を見る

真央 「あの、ごめんなさい…これ、この間のですよね…」
俊祐 「え?」
真央 「頬…」

真央、俊祐の頬に触れる
黄緑になっている頬

俊祐 「あぁ…別に。大したことない」
真央 「変色しちゃってるじゃないですか……」

しょんぼりする真央

春  『僕グーでやられちゃったんだけど、あの時は冷やしても黄緑になっちゃってね?凄く痛かったんだよね…』

俊祐 「あ…」
真央 「へ?」
俊祐 「お前、永久殴ったことあるだろ」
真央 「なっ!なんで知ってるんですか!?」
俊祐 「あれお前のことだったのか……」
真央 「な、永久くんが言ったんですか…?」

うろたえる真央

俊祐 「グーは痛い」
真央 「ご、ごめんなさい……」
俊祐 「っつか、永久はお前に殴られるようなことしたのか…」
真央 「っ!」

真央、真っ赤になる

俊祐 「……」
真央 「な、何もしてません…」

目を逸らす真央

俊祐 「はぁ……まぁいいや」
真央 「……あの、そんなことより」
俊祐 「どんなことより?」
真央 「もう!」
俊祐 「はははっ。白無垢だろ?今から寝ないで当日までやって間に合うか間に合わないか……」
真央 「あの、僕あのままでいいと思うんです」
俊祐 「え?」
真央 「あのままでも十分綺麗ですよ」
俊祐 「……」
真央 「?」
俊祐 「勝負に出るか……」



・大ホール

真っ暗になる会場

司会 「続いて、エントリーナンバー十八。哉家俊祐。タイトルは『nobody』」

真央が現れる
黒の打ち掛けを羽織っている
黒の内掛けには金の刺繍で見事な桜が縫われている
綿帽子は被っていない

俊祐M「これは賭けだ。あの永久の『渚』のように、何もない状態で受け入れられるのか」

静かに歩く真央
ランウェイの先で立ち止まると内掛けを脱ぐ
すると真っ白な何の刺繍も施されていない白無垢姿になる
その姿に会場が沸く

俊祐M「これで一先ずは終わりに出来るのか──」



・大ホール

司会 「見事グランプリに選ばれた、哉家俊祐さんと、モデルの高木真央さんです!」

呼び込みに出てくる二人

司会 「おめでとうございます!」
俊祐 「ありがとうございます」

隣で笑っている真央

司会 「今回の受賞で見事三連覇ということですが」
俊祐 「はい。正直今回は無理だと思ってました」
司会 「辞退も考えられたという噂をお聞きしましたが」
俊祐 「そうですね」
司会 「しかし見事でしたね。あの内掛けの刺繍はすべて手縫いだそうで」
俊祐 「はい。ありがとうございます」
司会 「その中から出てきた無地の真っ白な白無垢。私、感動させられました」
俊祐 「そう言ってもらえると嬉しいです」
司会 「最後を飾るに相応しかったんじゃあないでしょうか?」
俊祐 「そうですね」

フェード



・控え室

俊祐 「あー、疲れた……」

俊祐、椅子に座ると同時に扉が開く

真央 「俊祐くん!!」

真央、少し怒っている

俊祐 「なに?俺の花嫁さん」
真央 「〜〜〜っ!僕は聞いてませんでしたよ!」
俊祐 「なにを」
真央 「あんな内掛け!いつ作ってたんですか!?」
俊祐 「徹夜で作ってました」
真央 「刺繍なしで勝負するって言ってたじゃないですか!」
俊祐 「いいじゃん別に安全パイだ」
真央 「負ける気無かったんじゃないですか……」

俊祐、真央を抱き寄せる

俊祐 「俺だって負けるのやだもん」
真央 「もー、だったら言ってくれれば…」
俊祐 「……」

俊祐、真央の肩に顔を埋める

真央 「俊祐くん…?」
俊祐 「……すー……」
真央 「え?もしかして寝ちゃったんですか…?」
俊祐 「すー……すー……」
真央 「ちょ、ちょっと…こんなところで寝ないでくださいよ…俊祐くん!」
俊祐 「う……ん……」
真央 「起きました…?」

俊祐、真央を抱きしめる

俊祐 「ながひさ……」
真央 「!なんでそこで僕の名前じゃないんですか!?俊祐くん!起きてください!」
俊祐 「うーん……」
真央 「コラ!起きなさい!!」

俊祐M「いつか会いに行ってやるさ」



・自室

棚に飾ってある紅茶葉の瓶

俊祐M「笑って話せるくらいに俺が成長したら。お茶する約束守りにな」







おわり


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