・事務所
机の上に広げられた写真と書類
恵M 「今となっては随分前。俺が作った香水を春にあげたことがある」
頭を抱える恵
恵M 「ありがとうと笑った顔は今でも忘れられない。あれ以来、あいつは俺が作った香りがする」
恵 「あ〜〜〜〜〜〜っ!もう!」
机の上に突っ伏す恵
千尋 「恵ちゃん……」
恵 「いない!なんでいないんだ!」
千尋 「この人はー?僕結構好み」
写真を見せる
恵 「ダメ。つりあってない」
千尋 「えぇー?カッコイイのに……」
恵 「っつーか、お前が選ぶのはどれもこれも普通過ぎんだよ!どっかの誰かさんにそっくり!」
哲平 「何、まだ決まらないの?」
哲平、コーヒーを持って入って来る
恵 「あ゛ぁ゛ー……」
千尋 「恵ちゃんどれもこれもダメって言うんだもん、こんなの決まらないよー」
哲平 「珍しいですね、こんなに迷ってるの。さすが今回のは特別というか…いつもこれくらい働いてくれればいいのに…」
恵 「うるせぇ!首にするぞ!」
哲平 「なっ…!」
千尋 「ねぇ、この人はー?」
哲平 「あ、いいじゃん。爽やかで、合ってると思いますよ」
恵 「……あー、だめ。違う」
千尋 「もう、恵ちゃんさっきからそればっかり!」
哲平 「条件は何なんですか」
恵 「えぇ?ちーの隣に立って負けてない顔、ちーより背があって、大人の色気が出せ、自然な笑顔が出来て、尚且つ不敵に笑える奴かな。あと絶対必要なのは目!これがどいつもこいつもピンとこない!」
哲平 「……」
呆れる哲平
千尋 「ねぇ」
恵 「なーにー…」
やる気の無い恵
千尋 「僕ぴったりな人知ってるよ」
恵 「誰ー、昔の男かなんかー?」
哲平 「えっ?」
千尋 「違うよー。っていうか、恵ちゃん分かってて言ってるんじゃないの?」
恵 「何が」
千尋 「いるじゃん近くに」
哲平 「?」
千尋 「パパ」
恵 「……」
恵、立ち上がる
恵 「そうだ!いるじゃねぇか!なんで気が付かなかったんだ俺!灯台下暗し!」
哲平 「確かに……」
恵 「おい哲平!春今日どっかにいるんだよな!?」
哲平 「え?あ、はい。会議室で最終チェックしてます」
恵 「ちょっと行ってくる!」
走っていく恵
哲平 「ちょ、ちょっと恵ちゃん!会議中だって!」
・会議室
デザインチェックをしている春
突然扉が開く
社員A「永久さん、どうされたんですか急に……」
恵 「春っ!」
春の手を取る
春 「?どうしたの…?」
恵 「お前に頼みがある!」
春 「うん?」
・事務所
ソファに座って向かい合っている二人
春 「うーん……」
恵 「だめ…?」
春 「……いいよ」
微笑む春
恵 「ホントに!?」
春 「うん。恵ちゃんの役に立てるんなら。でも恵ちゃんの思い通りになるかな…?」
恵 「ううん大丈夫!っつーかあんたにしか無理だから!あぁもう大好き!」
抱きつく
春 「はははっ、恵ちゃん」
恵 「なーんで思いつかなかったんだろ?」
春 「あー…、あの」
恵 「ん?」
離れる
春 「これ日本で発売するんだよね?」
恵 「うん」
春 「その、あんまり……」
恵 「あー…、うん。分かってる。そんなに大きく出さないから。名前も公表しないし、あんたに迷惑かからないようにする」
春 「ごめんね。それで恵ちゃんの思った通りにならなかったら違う人使ってもいいからね。気にしないでね」
恵 「あーもう、ばか」
恵、春の頬を両手で包む
恵 「春以上に出来る奴なんかいねぇっつーの。っつか、俺もあんたのこと皆に知られるのヤダもん。俺だけのなのに……」
恵、キスをする
春 「ふふっ、では社長のご期待に副えるように頑張らせて頂きます」
キスをする
・会議室
衣装チェックをしている恵、春、千尋、他スタッフ
哲平M「今回のプロジェクトは恵ちゃんがプロデュースした香水の商品開発だ。いつもいい加減な恵ちゃんが何故こんなにも意気込んでいるかというと(本人は否定しているが)今回は春さんがボトルのデザインを手がけているからで」
ミーティングをしている
哲平M「俺はただ一緒に仕事が出来るからだと思っていたけど、ちーにそれを聞くと」
千尋 『あの香水は特別なものだから』
哲平M「と言っていた」
・スタジオ
千尋、ラフな格好で写真を撮っている
それを見ている哲平
そこへ恵が来る
哲平 「あ、お疲れ様です」
恵 「おう、春は?」
哲平 「この後です。もうそろそろ来られると思いますけど……」
恵 「そっか」
哲平 「恵ちゃん、そわそわしてるでしょ?」
恵 「なっ!バカ!んなことねぇ!」
哲平 「ふふっ」
恵 「なんだよ……ってあー、ごめんちょっと止めて」
恵、千尋に近づいていく
恵 「マフラー無いほうがいいな、あともうちょっと風緩めて。ちー、あんまり楽しそうに笑わないで、八十パーセントくらいの笑顔で」
千尋 「はーい」
恵 「あー、あと、今は結構目力強めで──…」
スタッフ「春さん入られまーす!」
春、スタジオに入ってくる
恵 「威嚇してるかんじね。ガオって」
千尋 「オッケー。ガオー!って──パパ」
恵の後ろを見て驚く千尋
恵 「ん?」
振り向く恵
黒スーツに帽子をかぶり、左目を隠している春
恵 「…………」
春 「どうかな?」
いつもと違って口元だけで笑いながら
恵の手を取り口づける
恵 「………」
春 「?恵ちゃん?」
いつもの表情になる春
恵 「い、いや、なんでも、ない……」
恵、千尋に向き直って衣装を調える
春 「えぇ?なんでもないのー?」
千尋 「ふふっ、恵ちゃん照れてる」
恵の頬を突っつく千尋
春 「どうして照れてるのー?見せて」
春、後ろから抱き込んで顔だけ振り向かせる
それを遠くから見ている哲平
哲平 (あぁ……似たもの親子………)
・スタジオ
春、撮影中
それを見ている哲平と恵
哲平 「恵ちゃん……」
恵 「なんだ…」
哲平 「あの、春さんって素人さんですよね……」
恵 「そのはずだ…」
哲平 「なんであんなに慣れてんですか……」
恵 「俺に聞くなよ…」
呆然としている二人
カメラマン「春さんいいっすねぇ〜、もっと挑発する感じで目線ください。そうそう!」
春、別人になっている
千尋 「てっちゃん、パパに見惚れてないで僕も見てよ」
哲平 「うわっ!」
後ろから抱きつかれる
千尋 「僕もパパに負けてらんなーい」
哲平 「次はお前もスーツなんだ……」
千尋 「うん!どう?カッコイイ?」
哲平 「うん……」
恵 「コラ、いちゃこらすんな、皺になる」
哲平 「し、してませんっ!」
・スタジオ
千尋、春、二人で撮っている
恵 「ちー、こっから笑うなよ。春に対してまだ疑ってかかってる感じで。それから徐々に崩していって。春はもうそのままやりたいようにやっていいから」
千尋 「はーい」
春 「はーい」
撮影が続く
社員A「永久さん。正解でしたね、春さん使ったの」
恵 「だな。っつーか、強すぎだろ。これだけ春が本気出すとは思わなかった……」
社員A「さすが親子ですよ。でもそれを分かってて両方が調節してるんじゃないですか?二人、顔そっくりなのに別人だもの」
恵 「あーやっぱ失敗したかも……」
社員A「えぇ!?どうして!?」
恵 「ああぁぁぁ……」
社員A「永久さん…?」
哲平が来る
哲平 「恵ちゃん」
恵 「はい……」
元気がない恵
哲平 「あれ?なんかあったんですか…?」
首をかしげる社員
哲平 「もう、これから仕事ですよ。しっかりしてください」
恵 「仕事…?なんだったっけ?」
哲平 「はぁ…、販売先の営業さんと食事です。わざわざ来てもらったんですからちゃんとしてください!ホラ、行きますよ!」
恵 「えぇ!?まだ撮影終わってないじゃん!」
哲平 「元々こっちは俺ら関係ないでしょうが!」
恵を引きずっていく
恵 「だって俺がプロデューサー……!」
哲平 「だからでしょ!ちゃんと歩いて!」
恵 「お前だってちーのカッコイイ姿見てたいだろ!」
哲平 「み、見てたいですけど!仕事は仕事なの!」
恵 「あー!バカ!春ー!」
引きずられて出て行く恵
・スタジオ
恵の姿を見て笑う春
カメラマン「春さん」
春 「あぁ、ごめん。ふふっ」
カメラマン「いえ、いいですよ、その笑顔。ギャップがあって」
春 「そう?」
千尋 「ねぇパパ」
千尋、春の頬に手を伸ばす
春 「ん?」
千尋 「名前、決めたのパパでしょ?」
春 「うん。そうだよ」
千尋 「どうしてdiabolico(ディアボリコ)なの?こんなに優しい香りなのに。恵ちゃんに聞いても俺もわかんないって言ってたよ?」
春 「あれー?ちーなら分かると思ってたんだけど」
春、ソファに腰掛けて千尋を抱き寄せる
千尋 「うーん…、だってdiabolicoの意味は悪魔的とかでしょ?怖いよ?」
春 「君のお父さんは悪魔みたいに僕を離してくれないもん。それに素直じゃないところがそっくりでしょ?」
千尋 「あぁ、なるほどね。ふふっ。それ恵ちゃんに言ったら絶対怒っちゃうよ」
春 「それにね、もう一つ──……」
耳打ちする
千尋 「パパ…」
春 「そういうこと」
千尋 「はははっ、もういっその事恵ちゃんって名前にすればよかったのに」
春 「それ恵ちゃんに言ったら怒られたよ」
二人、笑う
・車
哲平が運転している
哲平 「ちょっと、恵ちゃん。そんな顔して行かないでくださいね……」
恵 「だって…」
哲平 「春さんから離れたらすーぐこれだもんなぁ」
恵 「別に…そういうわけじゃないもん」
膨れる恵
哲平 「それにしても、よく商品化しようと思いましたね」
恵 「え?」
哲平 「diabolico。あれって恵ちゃんが春さんにプレゼントした香水でしょ。世界に一つだけしかないのに、それを商品化したとなると同じ香りがする人が世の中に沢山いることになるわけじゃないですか。独占欲強い恵ちゃんがそんなことするわけないのになぁって」
恵 「お前なぁ…人に堂々と独占欲強いとか言うか普通?」
哲平 「だって誰からどう見てもそうでしょ」
恵 「んなことねぇよ。でも確かにヤダったよー?」
恵、窓の外を見る
哲平 「え?じゃあどうして?」
恵 「この話出た時に春に言われたの。一緒に作るんならあの香水にしようって」
哲平 「へぇ……。またなんで。春さんだったらそれくらい分かってるでしょうに」
恵 「さぁ?わかんねぇ……。聞いても教えてくれなかった」
哲平 「……」
・工房(回想)
家に来て間もない頃
工房で作業していた春
そこへ恵がくる
恵 「春ー」
春 「おかえりなさい。?」
何かを持っている恵
恵 「あのさぁ、これ、やる」
小さい質素な小瓶を渡す
春 「ありがとう」
春、微笑む
恵 「いや、別に。いろいろ世話になってるしな」
照れている恵
春 「これ、香水?」
恵 「うん。俺が作ったの。あ、でも別につけて欲しいとかそんなんじゃねぇからっ…!」
春 「ううん、つけるよ」
蓋を開けて腕につける
春 「あ……」
恵 「……好きじゃない…?」
春 「ううん、いいねこれ。アクアノートだ…」
恵 「ふふっ、あんたはそういうイメージなんだよな」
春 「そう?」
恵 「うんっ」
春 「どうして?」
恵 「秘密」
笑っている二人
・寝室
寝室のガラス棚に銀細工で装飾された小瓶が飾ってある
瓶口にリングがかかっている
・リビング(回想)
ソファに座っている恵
春が工房から出てくる
春 「けーいちゃん」
隣に座る
恵 「ん?なに」
春 「これあげる」
小瓶を渡す
恵 「うぉ!すげぇ!何、どうしたの?」
春 「おかえし」
中に少しだけ入っている香水に気がつく
恵 「あ!これあの香水?」
春 「うん。全部入れちゃうと使えないでしょ?」
恵 「っつーかあれはあんたにあげたんだからこの瓶もあんたが使えよー」
春 「はははっ、これは恵ちゃんにプレゼントなの。だからまた作ってね」
恵の頬にキスをする
恵 「うん」
キスをする
・店
日本人の営業二人と食事をしている
営業A「celeste(チェレステ)の日本での人気は凄いですよ。今まで日本での販売は視野に入れていなかったと聞いていたんですが…」
恵 「あぁ、別に売るつもりが無かったわけではないんですよ。でもそうなると日本に戻らなきゃいけないことが多くなるでしょう?」
営業B「はははッ、なるほど。確かにこの距離を何度もとなるとね」
恵 「はい。本当に今日は遠いところをわざわざお越しくださってありがとうございます。お疲れのところ、固い話もなんですから今日は楽しんで行ってくださいよ」
営業A「お言葉に甘えまして」
哲平の携帯が鳴る
哲平 「?すみません。失礼します」
席を外す哲平
恵 「?」
営業A「ところで、今回も千尋さんがモデルということですけども」
恵 「はい」
営業A「あの謎の美男子の名は健在ですね。来日の予定はないんでしょうか?」
恵 「そうですね、そこは彼次第でしょう」
営業B「こちらとしましても、来日イベントなどを提案させていただきたいのですが」
哲平、戻ってくる
恵 「あぁ、それは難しいかもしれませんね。別の形でのサプライズなどは考えていますよ」
営業B「本当ですか!それは是非こちらでも協力させてください」
恵 「はい。どうぞよろしくお願いします」
・トイレ
洗面台に手をついている恵
恵 「あ゛ぁ゛ー疲れる……」
顔を上げると鏡に春が映る
恵 「うわっ!」
振り返る
恵 「なんで!?」
春 「撮影終わったの」
恵に抱きつく
恵 「いや、それは分かってるんだけど…なんでこっちに来てるの?しかもそのまま」
春 「僕もデザイナーとして営業はしないといけないと思って」
キスをする春
恵 「んっ…春…、あの、でも、もう飯食うだけだぞ?」
春 「撮影ポラ見たくない?」
写真を渡す
恵 「うわっ!すっげぇかっこいー……って、そういえば春ってモデルの経験あんの?」
春 「さぁ?どうだろう」
キスをする
恵 「ちょっ、春っ?なに、どうしたの?」
春 「……」
恵の手を引いて個室に押し込む
恵 「えぇ!?何、なんで今!?」
春 「しー。静かにしててね。誰か来たらばれちゃうから」
キスをしながらベルトに手を掛ける春
恵 「春!?なんでっ…やめっ……!」
春 「しー」
春、人差し指を口に当てて言うと
もう一度キスをし、屈んで恵を咥える
恵 「ちょっ……ぁっ…は、る……」
春のセットしてある髪を掴む
恵 「人がっ……」
春 「声出さなかったら大丈夫だよ……」
恵 「じゃなくて…んっ……ぁっ、あっちで待ってるっ…の……」
春 「あぁ、大丈夫……ん…ちーがいるから……」
恵 「なんで…ぁっ…やだっ、それっ……」
春 「まだほかの事考える余裕あるんだ?」
恵 「え?」
後ろに指を入れる
恵 「ちょっ!はっ、あぁっ……だ、めだって……んん」
春 「恵ちゃん…声。誰かに聞かれてもしらないよ……」
恵 「だってっ…そんなの……むりっ……ぁっ」
誰かが入ってくる
恵 「!」
春、恵を見上げて笑うと、また咥える
恵 「……!」
恵、首を振る
それを無視して続ける春
恵 「っ…!……ん…」
涙が目に滲んでくる
恵 「……っん……はぁっ……!」
恵 (早く……出ていってくれっ…)
強く吸う
恵 「んっ!」
ガタっと戸が揺れる
客 「?」
今にも涙がこぼれそうな目で春を見る恵
春、それを見て笑う
客出て行く
それを察して春、スピードを早める
恵 「ぁっ、や、はるっ……いっ…!」
春 「いいよ、イっても……」
恵 「あ、あ、あ、あっ……やぁっ…も、ぅ…」
春 「ほら、イって。いっぱい出して?」
恵 「あっ!……んっ…ぁぁ───っ!」
飲む
恵、へたり込む
恵 「はぁ……はぁっ…はぁ……なんで…?」
見上げて言うとしゃがむ春
春 「どうしてだろう?」
意地悪く笑うと、恵を立たせ服を調える
恵 「なんか…怒ってる…?」
春 「ううん」
恵 「嘘だ。俺なんかした?」
春 「怒ってないって。それとも怒るようなことしたの?」
恵 「してないけど……。あ…」
春 「?」
恵 「なんでもない……」
個室のドアを開ける恵
その姿を見て笑う春
春 「恵ちゃんのせいで髪、ぐちゃぐちゃー」
鏡を見て髪をかきあげる
恵 「なっ!あんたが急にあんなことするからっ……!」
春 「帰ったらもっとしてあげるよ」
キスをする
恵 「っ──!もう!ほら行くぞ!」
春 「はーい」
トイレから出て行く
・寝室
恵、一人でベッドに座ってあの小瓶を手にとって見ている
春 『ありがとう』
恵 (なーんでこれなんだ……)
ベッドに横たわる
恵M 「あの頃からいつだって春からは俺が作った香りがしてた。俺が一番好きなあいつの姿から作った香り。それを商品化するってさ……どうして…」
小瓶を持ち上げて見る
恵 「ん?」
起き上がり、小瓶の底を見る
恵 「フェー……デ……fede!?」
春 「やーっと気づいてくれた」
春、戸口に立って見ている
恵 「春!?いつの間に」
隣に座る春
恵 「っつか、これ…」
春 「何年?もう十四年?」
恵 「うそ……」
春 「これで気づいてくれなかったら僕もうただの恥ずかしい奴だったよ」
笑う春
恵 「こんなの気づくわけ──」
キスをする春
春 「貸して?」
小瓶を手に取り、瓶口についているリングを外す
恵の左手を取り、薬指にはめる
春 「君には何度指輪を送ればいいのかな?」
恵 「……」
春 「僕はあの頃ずーっとずーっと気がついてくれるのを待っていたんだけど」
笑って言う
恵 「だってこんな…底に書くか?書くなら指輪の近くに…」
春 「そんなことしちゃ面白くないでしょー?君がこの香水の商品化に反対するのは分かってたんだよ。表に出してなかったけど、相当怒ってたでしょ?」
恵 「べ、別に……」
春 「ふふっ、でもね。こうでもしないともうこの指輪が可哀想じゃない?」
恵 「だからって…」
春 「僕だってこの香りが皆に知られちゃうのは嫌だったよ。だから賭けにでた。恵ちゃんだったら分かってくれるだろうと思ってね」
恵 「春……気づいてたの?」
春 「僕が気づかないわけないでしょ?恵ちゃんよりもこの香りには親しみがあるのに」
恵 「〜〜〜〜っ……。分からないようにしたつもりだったのに…」
春 「はははっ、でもこれでそのまま同じ香りで開発されてたら僕もうどうしようかと思ったよ」
笑う春
恵 「っつか、やっぱり怒ってたんじゃねぇか…」
春 「怒ってないよ。意地悪しただけ。だって恵ちゃん全然気がつかないんだもん」
恵を抱きしめる
恵 「バカ……」
春 「はははっ。でもこれでやっとあの頃の僕が浮かばれるよ。あんなにドキドキしながらプロポーズしたのにね」
恵 「いや、これはただの独りよがり!宝探し!」
春 「もう…。じゃあさ、一つ分かったところで僕にも教えて?」
恵 「何を?」
春 「僕の何をイメージしたの?これ」
恵 「あー……」
春 「?」
恵 「……俺、あんたが洗濯してる姿が好きなんだよ」
春 「え?」
恵 「だーかーら、そのイメージ」
春 「恵ちゃん」
恵 「何だよ」
春 「洗濯フェチだったの…?」
恵 「なんだよそれ!」
・リビング
四人で出来上がった冊子を見ている
千尋 「うわ〜ん!こんなの僕やだぁ!」
哲平に抱きつく千尋
哲平 「えぇ?なんで?すっげぇカッコイイじゃん」
千尋 「僕お仕事モデルなのに、パパの方がカッコイイもん…」
恵 「安心しろちー。これは撮り方の問題だから」
春 「そうだよ、ちー。ほら、このちーなんかもう僕食べちゃいたいくらい」
春にシャツを脱がされている千尋の写真
千尋 「ホントに?」
哲平M「出来上がった写真集は宣伝用に作られたものだ。diabolicoの名前から恵ちゃんが構想したもので、悪魔の誘いに翻弄される少年がコンセプトらしい」
春 「うん。凄く可愛いよ」
千尋 「パパ…」
恵 「はぁ……」
呆れる恵
哲平M「それでも最後には悪魔は儚くも消えてしまう。悲しい物語を写真だけでこの二人は演じ上げた」
恵 「それにしてもなんでこんなにプロ顔負けなことが出来るのかね…」
春 「あぁ、それは」
哲平M「後からちーに聞いた話。diabolicoは大切な人を手放したくないのに、マリッジリングを渡せないでいる悪魔のことらしい。その話を聞いて、あの写真の中のカッコイイ悪魔が雲の上で悩んでいる姿を想像した」
恵 「何これ!」
机に広げられたヌードデッサン
春 「僕大学時代にモデルしてたの」
恵 「ヌードデッサンの!?」
春 「そう。だからあぁいうのは慣れてるつもりだったんだけど、やっぱりデッサンと写真は違うね。難しかった」
千尋 「パパ若ーい」
哲平 「ちーそっくり…」
恵 「……」
春 「あれー?恵ちゃんどうしたの?」
後ろから抱きつく
恵 「え?いや、別に……」
春 「ふふっ、そういえば恵ちゃん絵上手いよね?今度僕のこと描いてくれる?」
恵 「えぇ!?い、いい!」
春 「じゃあ、僕に描かせて恵ちゃんのヌード」
恵 「バカ!誰がするか!」
哲平M「この二人は相変わらずで、後日発売された香水は売れに売れて、日本で大騒ぎになった」
膨れている恵
抱きしめてなだめる春
哲平M「fedeという名の香水は、今でも世界に一つしかない」
おわり
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