・洗面所

恵が顔を洗い終えたところに春が入ってくる

春  「おはよー」

いいながら首に手を回してキスをしようとする春
が、手で口を覆って阻止する恵

恵  「ダメ」
春  「え?」

悲しそうな顔をして恵を見る

恵  「風邪ひいた。うつるから治るまでキス禁止」
春  「え〜〜〜〜〜〜っ!?」



・リビング

朝食
テーブルを囲んでいる四人
明らかに元気が無い春

哲平 「春さんどうしたんですか?」
千尋 「恵ちゃんが風邪ひいたんだってー」
哲平 「?」
恵  「おい、春。大人気ないぞ」
春  「だって……」

パンをちぎりながら大きなため息を漏らす

春  「恵ちゃんがキスしてくれないと力が出ない……」
恵  「てめぇはアンパ○マンか!」
春  「だってホントだもん……」
恵  「はぁ……ホント馬鹿」
春  「軽くでもいいのに」
恵  「人一番菌に弱いくせに何言ってんだ」
春  「もう大丈夫だもん」
恵  「じゃあ今して、もう一生しない!」
春  「恵ちゃんのいじわるー」



・リビング

カウンターに座ってミルクティーを飲みながら雑誌を読んでいる恵
そこへ春が来て後ろから抱きつく

恵  「なに」
春  「何読んでるの?」
恵  「服欲しいなぁと思って」
春  「ふーん」

春、恵の顎を引いてキスしようとする

恵  「こら」

無理やりはがす恵

春  「あーん」
恵  「ダメって言ったじゃん!ホントに怒るぞ」
春  「……」

春、ソファの方へ行く
ソファに座っていた千尋に抱きつく

春  「ちー、恵ちゃんがいじめるー…」
千尋 「もー、パパ、恵ちゃんが怒ると怖いの知ってるでしょー?」
春  「でも軽くだったら大丈夫だよ?てっちゃん風邪ひかなかったんでしょ?」
千尋 「そうだね。じゃあ軽くだと大丈夫だよ恵ちゃん」
恵  「この馬鹿親子!春はすぐうつるんだから軽くでもダメ!何回言わせんだ」
千尋 「だって」
春  「ぅぅ……」
恵  「たかが一日やそこらキスしないだけでそんなだったら、俺いなくなったらどうすんだよ」
春  「いなくなんないでしょ」
恵  「しらねぇよ」
春  「もう。じゃあちー」

春、千尋にキスをする

千尋 「…ん…パパ、恵ちゃん怒ってるよ?」
春  「だって……恵ちゃんが悪いんだもん……ん…」
千尋 「…パパ……」

哲平が階段を下りてくる

哲平 「うわっ!」

哲平、咄嗟に恵を見る

恵  「ただの馬鹿親子」
哲平 「え…?」
千尋 「パパ……てっちゃんが…怒っちゃう」
春  「ん……」

離れて哲平を見る

春  「てっちゃん怒った?」
哲平 「あ、え?いや、その……」

何故か照れる哲平

春  「おいで」

笑いかけて手を伸ばす春
千尋と春の間に座らせる

哲平 「?」
春  「次はてっちゃんとキスしようかな」

春、哲平の顎を引く

哲平 「っ──!」
千尋 「ダメ!」
恵  「コラ!」

同時に言う
千尋、哲平を抱き寄せる

千尋 「てっちゃんは僕しかダメー!」
春  「えー。ずるい…」

放心状態の哲平

恵  「何言ってんだよ馬鹿」
春  「恵ちゃん」

じっと見つめる春

恵  「何」
春  「キスしたい」
恵  「何回言わせんだ!ダメ!」

恵、雑誌を置いて二階へ行く

春  「恵ちゃーん……」



・リビング

庭で洗濯物を干しながら沈んでいる春
哲平、千尋それを見ている

哲平 「よっぽどキスしたいんだろうな……」
千尋 「恵ちゃんが風邪ひくなんて珍しいもんねー」
哲平 「あんなに沈んでる春さん見たの初めてだ」
千尋 「そうかなー?たまにあるよ」
哲平 「え?例えば?」
千尋 「うーん。恵ちゃんに怒られた時とか、恵ちゃんが疲れて先に寝ちゃった時とか、恵ちゃんがお仕事で帰ってこなかった時とか、恵ちゃんが──」
哲平 「あぁ、全部恵ちゃんが原因なんだ」
千尋 「うん」

洗濯物を持ってため息をつく春



・リビング

恵、二階から降りてくる

恵  「お前ら何食べたいー?」
千尋 「買い物?」
恵  「うん。確かもう米が無かったはず…」
哲平 「じゃあパスタでいいんじゃない?」
恵  「あー、だな」

春、工房から眼鏡をかけて出てくる
テーブルに置いてあったマグカップを取ろうとする

春  「……」

恵を見る

恵  「あー、春丁度良かった。車のキー」

春、恵の腕を掴んで引き寄せ、顔を近づけ額をあわせる

恵  「春、いい加減に──」
春  「恵ちゃん、なんで黙ってるの?」
恵  「え?」
春  「しんどいんでしょ。どうして黙ってるの。ホラ、部屋戻って」

春、恵の手を引いて階段の方へ行く

恵  「別にこれくらい大丈夫だよ」
春  「大丈夫じゃないよ」
恵  「……」

二階へ行く



・リビング

春、下りてくる

千尋 「パパ買い物僕ら行ってくるよ」
春  「そう?じゃあお願い。これキー」

車の鍵を渡す

哲平 「何かいるものありますか?」
春  「そうだね、アイス食べたいって言うと思うからアイス買ってきてあげて」
哲平 「分かりました」
春  「よろしくね」

キッチンへ行く春



・寝室

ベッドに寝ている恵
濡らしたタオルを恵の額にあてる

恵  「冷たい……」
春  「熱は?何度?」
恵  「九度二分……」
春  「よくここまで我慢してたね」
恵  「今上がったの……」
春  「そう?」
恵  「そう!…ゴホッ!ごほっ…」
春  「ホラ、もう寝てなよ。夕飯持ってきてあげるから」
恵  「うんー……朝は喉痛いだけだったのに……。なんで分かったんだよ…」
春  「見てれば分かるよ」
恵  「ちー達は気づいてなかったのに」
春  「はははっ、僕が気づかないとでも思ってたー?」
恵  「……」

照れて布団をかぶる恵

春  「ふふっ」
恵  「なー、春」
春  「ん?」
恵  「怒ってる?」
春  「どうして?怒ってないよ?」
恵  「ならいいけど」
春  「何、僕なんか言った?」
恵  「ううん。だって春しつこいんだもん」
春  「えー?恵ちゃんが怒ってるんじゃないのそれー?」
恵  「別に。怒ってないよ。でもさ、俺あんたのこと心配してんだよ?」
春  「うん」
恵  「病気治ったって言っても、弱いんだからさ、そういうのちゃんと考えろよ」
春  「うん。ごめんなさい」
恵  「分かってくれたならよし」
春  「ハハハッ」

春の手を握る

恵  「キスくらい治ったらいくらでもしてやるから、それまでちょっと我慢して?」
春  「……」
恵  「返事しろよ」

少し笑って頬を撫でる春

春  「だって恵ちゃん。そんな可愛いこと言ったら我慢できなくなる」
恵  「馬鹿」
春  「ふふっ」
恵  「もう、夕飯まで寝るー」
春  「うん。おやすみなさい」
恵  「おやすみ。あー、アイス食いてー……」
春  「夕飯済んだらね」
恵  「うーん……」

恵、眠る

春  「ありがとう」

恵の頬にキスをする



・リビング

朝、哲平が起きてくる

哲平 「おはよー」

恵、キッチンで朝食を作っている

恵  「おはよう。これ持ってって」
哲平 「はい。恵ちゃんもう大丈夫なの?」
恵  「おう!もうすっかり!」
千尋 「おはよう……」
恵  「おはよう。ちー顔洗った?」
千尋 「今からー…。パパは?」
恵  「あー、まだ起きてないのか。起こしてくるわ」

エプロンを脱いで二階へ



・寝室

まだベッドにいる春

恵  「おーい、朝だぞー」
春  「うーん……」
恵  「って!」

額を触る

恵  「はぁ……」
春  「喉痛い……」
恵  「うつってんじゃねぇか!」
春  「うーん……」
恵  「なんでうつるんだよ……」
春  「あー……」
恵  「なに?」
春  「ほっぺにチューしてもダメだったのかな……」
恵  「なに!いつしたんだ!」
春  「恵ちゃんの寝顔があまりにも可愛いからつい…」
恵  「ついじゃねぇよ!俺の言ったこと覚えてないの!?」
春  「……」

潤んだ目で恵を見る春

恵  「そんな目で見てもダメ!完全に治るまで絶対キスなんかしねぇからな!馬鹿!」
春  「え〜…僕ほんとに死んじゃう……」
恵  「自業自得だ!」








おわり


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