・リビング

恵  「ちー?どこー?」

千尋(ちひろ)を探している恵(けい)キッチンを覗くがいない

恵  「ちー?」
千尋 「はーい」

遠くで声がする

恵  「あ、工房か」



・工房

恵、工房に入る

恵  「ちー、あの──」

作業台に向かって座っている千尋
それを見て言葉をなくす恵

千尋 「なぁに?」

静かに微笑んでこちらを向く

恵  「あ、いや、今日の夕飯。何が食べたいのかなって…」
千尋 「んー、なんでもいいよ。恵ちゃんは何が食べたい?」
恵  「俺も何でもいいっつーか、思いつかなくて聞いたんだけどな」

恵、笑う

千尋 「そっかー、じゃあパイシチュー作ろうよ。恵ちゃん好きでしょ?」
恵  「あ、うん。じゃあそうしよっか。俺買い物行ってくる」
千尋 「僕も行くー」
恵  「ん」



・スーパー

買い物カゴを持って歩いている二人

恵M 「最近急にちーが春(はる)に似てきた。小さい頃も、もちろん二人は似ていたけど、でもやっぱり年齢のせいもあって、ちーは幼かったし、なんとも思わなかったのに」



・リビング

キッチンで二人、料理をしている

恵M 「背も伸びて、同じくらいになった。髪の色は春の方が色が薄かったけど、猫っ毛なのは同じだし、目の色も、あの声も話し方も。ビックリするほど似ていて…」



・リビング

食事を終える

恵  「あー、うまかった」
千尋 「恵ちゃん、ワイン飲もうよ」
恵  「あー、うん。いいよ。何がいい?」

恵、席を立とうとする

千尋 「いいよ、座ってて。僕が選んでくるからー」
恵  「そう?」

千尋、微笑むとキッチンへ



・リビング

ソファに座って赤ワインを飲んでいる二人

恵  「お前強いよねー、春もすっげぇ強かったけど」
千尋 「そうかなー?もう結構酔ってるよ?」
恵  「うそぉ?それで?全っ然見えねぇ」

笑う恵

千尋 「酔ってるよー。ホラ、熱いでしょ?」

恵の手を取って頬に触れさせる

恵  「……ほんとだ。あー」
千尋 「ん?」
恵  「この体温、お前が小さい時思い出すなー」
千尋 「えー?いつ?」
恵  「まだ春がいたころ。お前寝かす時さ、手握ってたじゃん?その時の手の体温と同じ。眠くなるとさ、すっげぇ暖かくなるんだよな」

懐かしげに笑う恵

千尋 「……恵ちゃん、寂しい?」
恵  「え?…なに、どうしたの?」
千尋 「あれからもう十四年経つけど、恵ちゃん、一人もそういう人作らないでしょ?」
恵  「え……?」
千尋 「恋人。作らないの…?」
恵  「何言ってんだよ。俺の旦那様は春だけだもん。何年経ってもあいつしか好きじゃねぇよ」
千尋 「……」
恵  「ちー?どうしたんだよ?あ、分かった。お前が寂しいんだろ?なーに、パパが恋しい?」

恵、茶化すように笑う
手を離そうとするとその手を強く握られる

千尋 「寂しいよ」
恵  「ちー……どうしたんだよ。なんかあった?」

心配そうに顔を覗く

千尋 「恵ちゃん」
恵  「っ──」

春  『恵ちゃん』

恵  「ち、ちー?寂しいって─」
千尋 「ずっと寂しかった。だって恵ちゃんはパパしか好きじゃないもん」
恵  「何言ってんだよ、その好きはそうだけど、俺お前のこと同じくらい好きだよ?俺なんか冷たくしたりしてた?」
千尋 「分かってるよ。恵ちゃん僕のことすごく大事に思ってくれてるの」

手を離して俯く千尋

恵  「ちー」
千尋 「僕、パパに似てるでしょ?」
恵  「に、似てるよそりゃ、親子なんだから」
千尋 「ずっと前から思ってたんだ。早くパパみたいになりたいって」
恵  「……」
千尋 「僕だけをみてくれるなら、それが一番良かったんだけど」
恵  「お前何言って──」

恵を見る千尋

千尋 「でも最初から分かってたんだよ。僕がパパを超えられることなんかないって。だからもういいんだ。パパの代わりでも、恵ちゃんに触れられるなら」
恵  「ちー」

千尋、キスをする

恵  「……ちー…お前」
千尋 「僕をパパの代わりにしてよ。僕を好きになれなくても、それでもいいから…」

千尋、涙を零す

恵  「…泣くなよ……」

指で涙を拭う恵

恵M 「目の前で泣く、その姿にどうすればいいのか分からなくなる。代わりでもいい≠ニいう言葉は、痛いほどに分かる言葉で、昔の自分と重なる」

千尋 「恵ちゃん……」

恵M 「俺の名前を呼ぶ声も、見た目も、何もかもが似ていても、それでもちーはちーでしかなくて、涙で濡れるこの泣きボクロは春にはない」

千尋 「好きなんだ……ずっと、ずっと前から…好き…」

深くゆっくり、キスをする

恵  「…っん…ちー……」

しながら、恵をソファにゆっくり押し倒す千尋

千尋 「恵ちゃん…」

恵M 「天井から降り注ぐ光が眩しくて、目の前にいるはずのちーの顔が見えなかった。酔いの回った頭と、混乱した思考と、酸欠の脳で、呼んだ名前は──」



・寝室

朝の日差しに目を覚ます恵
隣には誰もいない

恵  「……」



・リビング

庭へと続く窓の戸の前に、誰かが立っている
逆光で顔が見えない
ゆっくりと近づいて抱きつくと
微笑んで頭を撫でられる

春  「どうしたの?」
恵  「……」
春  「恵ちゃん?」
恵  「夢見た…」
春  「夢?どんな夢?」
恵  「……言わない」
春  「なにそれ?ふふっ。僕のゆめー?」
恵  「あんたがいなかった」
春  「いないの?どうして?」
恵  「しらない」

春の肩に顔を埋めて黙っている
春、そのまま頭を撫でる
ふと、春の顔を見る

春  「?」
恵  「いなくなんなよ」

恵、照れくさそうに言う

春  「うん。いなくならないよ。ずっと一緒にいるよ」

微笑むと、恵の頬を撫でてキスをする
恵、安心して笑うともう一度抱きつく
二階から千尋が下りて来る
春と目が合う
春、人差し指を口元に持っていき
千尋に目配せをする

千尋 「……」

千尋、少し笑って頷くと戻っていく



・廊下

笑いながら歩いていると前から哲平(てっぺい)が来る

哲平 「何笑ってんの?」
千尋 「ふふふー」
哲平 「?まぁいいや、恵ちゃんは?」
千尋 「リビングにいるけど今はダメ!」
哲平 「え?なんで?」
千尋 「パパとラブラブだからー」

千尋、笑っている

哲平 「……。あー、まぁ後でいいか」

千尋、急に哲平に抱きつく

哲平 「うわっ!何、急に!」
千尋 「僕たちもラブラブしよー?」
哲平 「な、なんで!」

千尋、キスをする

哲平 「ちょっ!ちー!っ…!」
千尋 「ふふっ、てっちゃん愛してるよ?」
哲平 「う、うん……」

照れくさそうに顔を背ける
千尋、それを見て微笑む





おわり


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