第五章


・家

走って帰ってくる恵

恵  「ただいまー!」

誰もいない

恵  「あれー?春ー?いないのー?ちー?」

リビングや、店や工房を見るがいない

恵  (なーんだよ、すぐ帰って来いとか言ってたくせに…どこ行ってんだ?)

電話が鳴る

恵  (お、春かな…)

電話のところに行って出る

(全イタリア語)

恵  「もしもし」
医者 『君は…春と一緒に暮らしているという日本人かな…?』
恵  (誰だ…?)
恵  「あぁ、そうだけど…」
医者 『丁度良かった。君に頼みたいことがあったんだ。今すぐに春を説得して欲しい』
恵  「説得?どういうことだ?それより、あんたは誰なんだ」
医者 『春の主治医だ。春の病気のことで』
恵  「主治医…?病気って…?」
医者 『君は…何も知らないのか!?』
恵  「あ、あぁ…。春が病気って…あの貧血のことか?」
医者 『貧血?そんな軽いものじゃない!このままだと春は死んでしまうんだぞ!』
恵  「え…?死ぬって…」
医者 『あぁ!彼は君にまで黙っていたのか!やはり家にまで行くべきだった!』
恵  「ちょっと待ってくれ!どういうことだ!春が死ぬって!」
医者 『彼はもう随分前から病気に犯されていたんだ。すぐにでも入院して治療をすべきだったのに、彼は息子のために家を離れないと聞かなかった!』
恵  「そんな…」
医者 『それが最近になって入院をすると言い出したんだ。君が家にいるからと、君なら息子を任せられると。それなのに今週に入ってやっぱり無理だと言い出した!その理由を聞いても答えないんだよ!君だったら分かるんじゃないのか?どうか彼を説得して今すぐにでも入院させてくれ!』



・家(リビング)

家の中を必死になって何かを探す恵

恵M 「理由…そんなものすぐに分かった。俺を日本に帰すためだ。あの日、俺が春を疑ったとき、春は俺にちゃんと打ち明けようとしたんじゃないのか?それなのに、兄貴が来て、俺を日本に帰さなきゃいけないと思ったんだ。あいつが病気だって分かったら、絶対に帰らなかっただろうからな!」



・家(寝室)

扉という扉を開けて何かを探す

恵M 「随分前から病気?…どうしてあいつは俺に何も言わなかったんだ!どうしてすぐにでも入院しなかったんだ!あの街で見た男、電話の男も、全部、医者だったんだ。ずっとあいつは説得されてたんだ。時々出て行ったのも、きっと病院に行ってたんだ。それを俺…変な風に勘違いして…あいつを…」

引き出しを開けて中を探ると箱が出てくる
中を開けると薬が大量に出てくる

恵  「……」
恵  (嘘だろ…。こんな薬…こんなに…隠して…)

恵、床に座り込む

恵  「くそっ……くそっ…」

泣きながら床を殴る

春  「恵…ちゃん…」

声のするほうを見る
寝室の戸口で春が立っている

恵  「春…なんで…なんで…今まで黙ってたんだよ!」

泣きながら叫ぶ

春  「…っ」

目をそらす春
恵、春の所へ行く

恵  「なぁ!どうして!言ってくれなかったんだ!」
春  「言うつもりだったよ」
恵  「あの日、あんた俺にちーを任せるって言うつもりだったんじゃないのか?なぁ、どうして俺なんかのこと優先するんだよ!俺のことなんかどうでもいいのに…」
春  「駄目だよ。恵ちゃんは日本に帰らなきゃいけないんだ。後悔したまま、ここにいちゃ駄目なんだよ。僕の様にはなって欲しくなかったから」
恵  「…そんな…」
春  「恵ちゃん。全部話すよ。帰ってきたら話すって言ったでしょ?僕の話を聞いて欲しい」
恵  「…わかった…」
春  「でも、ちーには聞かれたくないから、クラウのところに預かってもらってくる。リビングで待ってて」
恵  「あぁ…」



・家(リビング)

ソファに座って話す二人

恵M 「春はゆっくり話し出した。三年前に病気が見つかったこと、長期入院しなければいけなかったこと。でもちーを一人にしたくなくて、ずっと断っていたこと」

春  「ほんとはね、恵ちゃんはすぐにここを出て行ってしまうって分かってたんだよ。僕もそれでいいと思ってた。きっとこのままずっと一緒に居れば君を悲しませることになるから。それなら何も無いうちに、さよならしていればよかったんだ。でもあの日、初めて恵ちゃんに触れた日、引き止めたのは僕の勝手な感情だった。あのまま帰したくなかった。君を僕だけのものにしたくなった」
恵  「…」
春  「一緒にいるうちにどんどん言えなくなっていく。君が僕に答えてくれる度に胸が苦しくなる。君を悲しませたくない。すぐにでも離れるべきだった。でもそれが出来なかった」
恵  「っ…」
春  「恵ちゃん。どうか僕を許して欲しい。勝手な感情で君を縛り付けることを」

恵、涙を流す

春  「君を置いていなくなってしまうことを」

恵、春に抱きつく

恵  「嫌だっ…嫌だ…!絶対許さない…!何がいなくなるだ…っそんなのあるわけないだろ!いいか?あんたはこれから病院へ行って治療をする。その間俺はちーと二人であんたの帰りを待ってる。帰ってこないだなんて絶対に許さないからな!俺は…ちゃんと帰ってきたぞ…。今度はあんたが約束を守るんだ」

春、恵の頭を撫でる

恵  「返事は?」
春  「そうだね。約束するよ」

春、静かに笑う

恵  「それに、あんたが縛り付けてるんじゃない…俺がここにいたいんだ…」
春  「うん」

春、キスをする
二人抱きしめあう



・家(リビング)

ソファに座っている恵

恵M 「翌日、春の入院が決まった。十一月七日。ちーの誕生日の翌日だった。ちーの誕生日だけは祝いたいという春の頼みだった」

春  「恵ちゃーんこれ見て。可愛いでしょー?」

春、ティアラを持ってくる

恵  「何それ!春が作ったの?!」
春  「うん。ちーに絶対似合うと思うんだけど」

春、恵の頭にティアラを乗せる

恵  「俺は似合わないだろ」

恵、笑う

春  「ううん。すっごい似合う。可愛いよ」

春、キスをして抱きしめる

恵  「春ー?」
春  「ねぇ、恵ちゃん。僕と結婚して」
恵  「え…?」
春  「お願い。僕のものになって」
恵  「…」

恵、春の腕を解いて首に腕を回し、キスをする

恵  「いいよ。あんたのものになってあげる」

もう一度キスをして抱きしめる

春  「恵ちゃん。愛してる。ほんとに。大好き」
恵  「俺もだよ」

二人笑いあっているところに千尋がくる

千尋 「恵ちゃん僕のお父さんになるの!?」
恵  「うわぁ!ちーいつからいたの!?」
千尋 「パパが結婚してーっていうとこからー」

千尋、笑う

千尋 「恵ちゃん頭の可愛いー!」
恵  「あ!いや、これは!」

恵、ティアラを取って春に渡す

春  「はははっ、これはちーのだよ。ほら」

春、千尋の頭にティアラを乗せる

千尋 「え?ほんとに?わーい!」
恵  「うわ、やっぱお前似合うわ。超可愛いー!」
千尋 「でもね、でもね。これはお嫁さんがするものなんだよ?だから僕じゃなくて恵ちゃんのだよね?パパ」
春  「そうだね。じゃあ恵ちゃんにも作ってあげなきゃね」
恵  「い、いいよ俺は」

恵、照れる
三人、笑う



・家(リビング)

二人で誕生日会の飾り付けをしている
恵、壁に貼り付ける飾りを持って困っている

恵  「春ー、これどっちが上なの?」
春  「それ上も下も一緒ー。どっちでもいいよー」
恵  「なんだ。ややこしい…あ、テープ無くなった。取ってくる」

恵、上へ行こうとする

春  「恵ちゃん待って」
恵  「ん?」

恵、戻ってくる

春  「ここ、なんかついてるよー」

恵の頬っぺたを拭う春

恵  「えー?何?ペンかなんか?」
春  「取れたー」

春、恵にキスをする

恵  「何、それしたかっただけ?ほんとについてたの?」

恵、笑う

春  「さぁ?」

春、笑う

恵  「なんだよそれ。俺テープ取りに行ってくるから」
春  「はーい」

恵M 「これがこの家でした、最後のキスだった」



・家(リビング)

恵、テープを取って戻ってくる

恵  「春ー、これでもう最後だ…よ…」

テープを落とす
春、床に倒れている
恵、駆け寄る

恵  「春!どうした?おい!春!」

返事をしない

恵  「春!春!」

千尋、階段を下りてくる

千尋 「恵ちゃん…?」
恵  「ちー!こっちきて!春の手握ってて!」

千尋、春の手を握る

千尋 「恵ちゃん、パパどうしたの…?」
恵  「名前呼んで!俺救急車呼んでくるから!」

恵、電話の方へ行く

千尋 「パパ…どうしたの…ねぇ、パパ…こんなとこで寝てちゃ駄目だよ…パパ…」



・病院(以下恵、春、千尋の会話以外イタリア語)

廊下の椅子に座っている恵
恵の膝の上で寝ている千尋
病室から医者が出てくる

恵  「あ…」
医者 「今はまだ眠っていますが、落ち着きましたよ」
恵  「…よかった…」
医者 「予定より二日早いですが、今日から入院していただきます」
恵  「はい…」
医者 「面会、できますよ。千尋くんは私がここで見てますから」

医者、優しく微笑む



・病室

酸素マスクをして眠っている春
ベッドの隣に座って手を取る

恵  「…春…」

恵M 「春の手は冷たかった。あの時触ったあの額の体温と同じだった。その手の感触が怖くて、俺は必死になって自分の手で温めようとした。痛いって怒ってくれればいい。笑って、どうしたの?って言って欲しい。いつものように、優しい顔して俺を慰めてくれ。こんなの付けてちゃ、キスだって出来ないじゃないか。なぁ、春。お願いだから目を覚まして、今すぐ俺に愛してるって言ってくれ。俺はすぐにでも答えてあげるから」

恵、手を握って泣く



・病室

千尋、椅子に座って大きな箱を抱えている

千尋 「パパー、これね、クラウが僕に作ってくれたの。すっごく大きいケーキなんだよ。チョコにね、ちー誕生日おめでとうって書いてあるの。一緒に食べようね」

春、眠っている

千尋 「このティアラもね、恵ちゃんがちゃんと付けてくれたよ?似合うでしょ?」
恵  「…」
千尋 「ねぇ、パパ。僕ちゃんといい子で待ってるからね。お家に帰って、ハーモニカの練習しようね。約束だからね」

恵M 「このとき初めてちーが泣いてるのを見た。いつも笑ってたちーが、必死になって涙を堪えながら、明るく、春に話しかけていた。居た堪れなかった」



・病室

ベッドの横でハーモニカを吹く千尋

恵M 「一週間経っても春は目を覚まさない…」



・病室

夜の病室、恵手を握ったまま眠っている

春  「恵ちゃん…恵ちゃん…」

恵、目を覚ます
春、起き上がって笑っている

恵  「春…春!いつ目が覚めたんだ!?俺、眠ってて…」
春  「恵ちゃん。僕ね、君の傍にずっといるよ」
恵  「え?うん。俺も…」
春  「だから心配しないで。君は一人じゃないから」
恵  「春…?」
春  「僕がいなくなっても、悲しい顔しないでね。もう、抱きしめてあげられないから」
恵  「え…?春?なんだよ…どうしたんだよ…」
春  「君をずっと」
恵  「おい!」



・病室

恵  「春!」

恵、目を覚ます

恵  「ゆ、め…?……ぁ…」

恵、握っている手を見る
強く握られている
春の顔を見る

恵  「春…」

春、目を覚まして少し笑っている

恵  「春!また夢か?夢じゃないよな!?」

春、微かに頷く

恵  「よかった!ちょっと待ってろ!先生呼んでくるからな!」

行こうとするが、手を離さない

恵  「春…」

春、何かを言っている

恵  「何…?」

口に耳を近づける

春  「…ぃちゃ…ん」
恵  「恵ちゃん?」
春  「ぁ…た…かった…」
恵  「…会いた…かった…?」

春、頷く
恵、泣きながら抱きつく

恵  「俺もだよ。良く戻って来てくれた…っ…」

春、涙を零す



・病室

千尋、春と笑って話をしている

恵M 「翌日には春は起き上がれるようにまで回復した。今ではもうちーと笑って話もできる。十二月に入った」

春  「雪、すごい降ってるねー。寒かったでしょー?」
千尋 「うん!恵ちゃんがね、おでこが割れるー!って言ってたー」
春  「はははっ!割れちゃうほど寒かったのー?」
恵  「ホントだって!風めちゃくちゃ冷たいんだから」
千尋 「そうだ!見てー、これ恵ちゃんが買ってくれたのー」

ミトンの手袋を見せる千尋

春  「わぁー、いいねぇ。可愛いー。僕も欲しいなぁ」
千尋 「へへへぇ」
恵  「春にはひざ掛けあげたじゃん」
春  「えー、僕も手袋欲しいー」
恵  「分かった分かった」

呆れる恵

春  「やったぁー!僕恵ちゃんとおそろいがいいなぁ」
千尋 「えー、僕も恵ちゃんとおそろいがいいー」
恵  「じゃあちーの大きい奴買えばいいんだろ?っつか俺がミトンするの?絶対似合わないよ?」
春  「そんなことないよ!ねー?」
千尋 「ねー!」
恵  「あー、分かったよ。買いますよ」

三人、笑う



・病室

千尋 「じゃあね、パパ。また明日。おやすみなさい」

千尋、春とキスをする

恵  「おやすみ」

恵、春とキスをする
出て行こうとする

春  「…恵ちゃん…」
恵  「ん?どうかした?」
春  「…」
恵  「春?」
春  「寝室の、僕のタンスの一番上の引き出し。その中にプレゼントがあるの」
恵  「俺に?」
春  「そう。ちーにはね、僕のもの全部あげるから」
恵  「春…?」
春  「おやすみなさい」

春、恵に深いキスをする

春  「愛してるよ」



・病室

恵M 「その日の早朝。病院からの電話で目が覚めた。ちーと二人で病室に行くと、もう春の意識は無く、俺達が到着するまでの間、機械で心臓が動かされていた。静かに、機械の音だけが響く。手を取っても、やっぱり冷たいだけで、もう春は動かない」

恵、手を握って俯いている
ベッドに涙がいくつも落ちる

恵  「ぅっ…ぅう…」
千尋 「…っ…うっ…パパ…パパ…」



・家(寝室)

ベッドの横に棺が置かれている
泣きつかれて眠る千尋をベッドに寝かせる恵
静かにタンスの中を開いて、春からのプレゼントの
小さな箱を取り出す
静かに一階へ下りていく



・家(リビング)

ハーモニカの音が聞こえる
Leaving on A Jet Plane
雪の積もっていない庭に春がいる

(荷造りは終わって
 もう行くだけ
 ボクは君の部屋の外で立っている
 さよならを言うために
 君を起こすのは気がひける

 でも夜が白白と明けて
 早朝になった
 タクシーが待っている
 クラクションを鳴らして
 もう寂しくて寂しくて
 泣けてしまう
    
 だからボクにキスをして,微笑んで
 待っていてくれると言って
 放さないというほど強く抱いて
 ボクはジェット機で去って行く
 いつ帰るかもわからない
 ああ,本当に行きたくない)

恵、涙を流す
庭に春はいない
恵、床に座り込む
箱を開ける
シルバーの指輪が入っている
取り出す
内側にTi amo da impazzireと刻まれている
(Ti amo da impazzire=狂おしいほど愛してる)

 (さあ行かなくてはいけない時が来た
 もう一度キスをするから
 目をつぶっていて
 その間にボクはいなくなるから

 未来の日々を夢見るんだ
 君を一人にしておくことのない
 そんな日々を
 こんなこと言わないですむ
 そんな日々を

 だからボクにキスをして,微笑んで
 待っていてくれると言って
 放さないというほど強く抱いて
 ボクはジェット機で去って行く
 いつ帰るかもわからない
 ああ,本当に行きたくない)

恵、指輪を左手薬指にはめる

恵  「…っ…ぅ…ありがとう…」



・家(リビング)

外はもう暗い
ソファにもたれながら、ずっと外を見ている恵
千尋、階段を下りてくる
恵、涙を流す

千尋 「…」

それを見て千尋、静かに走り出す



・街

雪の中を走っていく千尋
クラウの店が見えてくる
しかし店は閉まっている
ドアを叩く

千尋 「クラウ!クラウディオ!ねぇ!開けて!お願い!」

ガラス戸に人影が写り、ドアが開く

クラウ「千尋じゃないか…お前…一人でどうしたんだ。恵は?」
千尋 「誕生日のケーキを作って!お願い!」
クラウ「誕生日?お前の誕生日はもう終わっただろう?」
千尋 「パパが帰ってきたの。だから…」
クラウ「……そうか。そうだな!よし、待ってろ!すぐ作ってやるからな!」
千尋 「うん!」



・家(リビング)

うな垂れている恵
門を開ける音が聞こえる

恵  「…?」

立ち上がって玄関に向かう



・玄関(外)

千尋が門を閉めてこちらを向く

恵  「ちー…。ちー!お前一人でどこ行ってたんだ!?」

駆け寄る
大きな箱を抱えている千尋

千尋 「恵ちゃん!パパおうちに帰ってきたよ、やっと三人になれたね。誕生日しよう!ね?」

千尋、笑っている

恵  「ケーキ買いに行ってたのか…?」
千尋 「うん」
恵  「一人で」
千尋 「うん…」
恵  「…そうだな。しよう誕生日会。三人で」

恵、泣きながら笑う
千尋、笑う



・家(寝室)

ケーキを囲んで笑っている二人
火を吹き消す千尋

恵M 「なぁ春。やっとできたな。ちーの誕生日。ずっと楽しみにしてたもんな。春からのプレゼントはお前のもの全部だろ?俺そんなのに勝てないよ。ちゃっちー手袋。それだけだ。でもな、俺これからずーっとちーを大切に育てるから。だから、ずっと見守っててよ」



・墓地

永久春と書かれた墓石の前にいる二人

恵M 「俺、春に出会えてよかった。それだけは素直に言えるよ。たった一年しか一緒にいられなかったけど。あんたは俺のすべてだ。これからも、ずっと、ずっと」



・実家(日本)

正月で親戚が集まっている
恵、千尋を連れて帰ってくる
広間の入り口にいる哲平
後ろから声をかけられる

恵  「おい、哲平。こいつ俺の息子。仲良くしてやって」
哲平 「え!?息子!?女の子じゃないの!?」
恵  「違うよ。でも可愛いだろ〜?」
哲平 「うん。びっくりしたー。名前は?」
千尋 「ちー」
哲平 「ちー?」
千尋 「千尋だよー」
哲平 「そっか。ちー、よろしくな。俺哲平って言うんだ」
千尋 「てっちゃん?」
哲平 「ん?あぁ、てっちゃん。あははっ」
千尋 「てっちゃん!」

哲平を見て笑っている千尋

恵  「お前ちょっとちーと公園でも行っててくれない?」
哲平 「うん。いいよ。ちー、遊ぼっか」

哲平、手を差し出す

千尋 「うん!」

二人、手を繋ぐ

千尋 「……」

千尋、繋いでいる手を見る

哲平 「どこいこっかー、公園でいいの?」
千尋 「てっちゃん」
哲平 「ん?」
千尋 「僕、てっちゃん好き!」
哲平 「あははっ、ありがとう」

哲平、千尋の頭を撫でる



・実家(広間)

一番奥にいる父親のところへ行く

恵  「親父、話したいことがある」
父  「恵、帰ってきたのか。元気そうでなによりだ。なんだ、話って」
恵  「皆に知っておいてもらおうと思って」
父  「ほう」
恵  「俺、結婚したんだ」
父  「結婚?」
恵  「あぁ、イタリアで一緒に住んでた人と。皆もう知ってると思うけど、相手は男だ」

広間にいる親戚がどよめく

恵  「子供もいる。後で紹介するよ。俺これからもあっちで暮らすから」
父  「…そ、その相手の方は…」
恵  「先月死んだ。だからあいつの親は俺しかいないんだ」
父  「…」

恵M 「皆信じてないみたいな顔してた。まぁそれでも別にいいかと思った。ただ俺は隠していることじゃないと思ったから言ったんだ。春を愛していることも、結婚したことも、ちーが俺の息子になったことも。別に何も悪いことじゃないし恥ずかしいことでもない。隠していたくなんかなかった」



・実家

恵M 「それから一年くらい日本でいろいろやりくりして、ちーが五歳になった頃、やっと安定して暮らせるようになった俺達は春の眠るイタリアへと帰ることにした」

哲平 「えー、もう帰るの?」
千尋 「僕もてっちゃんと離れたくないよ…」

千尋、泣きそうになる

哲平 「ちー!お前ホントに可愛いなぁ!」
千尋 「へへへっ。ねぇ、てっちゃん、てっちゃん」
哲平 「ん〜?」
千尋 「僕がね、大きくなったらね、結婚してくれる?」
哲平 「あぁ、いいよ!ふふふっ、かぁわいいなぁ」

哲平、千尋を抱きしめる

恵M 「この一言のせいでイタリアへ帰ってからもずーっとこのクソガキの話ばーっかりするようになり、早速息子を取られた気がしてならなかった。が、まぁどこの馬の骨とも知れぬ奴に取られるよりかはましかなぁとも思う」



・家(庭)

千尋、庭でハーモニカを吹いている
Leaving on A Jet Plane

恵M 「なぁ春、俺まだあんたみたいには到底できないと思うけど俺なりに頑張るからさ。いつものように笑って見ててくれ」

恵、千尋のハーモニカに合わせて歌う

恵M 「それとTi amo da impazzire.この言葉、そっくりそのまま返してやるよ。俺の気持ちはずっと変わらないから」



・海岸

恵と春と千尋、三人で防波堤に座っている
春がハーモニカを吹いている

三人で幸せそうに笑っている



おわり



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