第五章「愛してるの数」


・自宅(リビング)

テレビがついている

テレビ『では次の話題です。皆さん、もう知らない人はいないと思われますが、この男の子をご存知でしょうか?名前は千尋。公表されているのは名前のみという謎の美男子なのですが、先日、彼の写真集が発売されました。タイトルは「lacrima(ラクリマ)」イタリア語で涙という意味だそうですが、その名の通り、表紙ではこの千尋さんが涙を流しています。このなんとも言えない表情で心を打たれた女性が多いということで、私も──』

テレビを切ると家を出る哲平



・電車

女子高生A「見てこれ、やっと手に入ったんだぁ!」
女子高生B「あ!千尋の写真集じゃん!見せて見せて!」
女子高生A「この表紙。マジやばくない!?超切ない!」
女子高生B「これって演技に見えないよねぇ〜。本気で泣いてるよ!」
女子高生A「このね、泣きぼくろに涙が光ってるのとかマジでやばい!」
女子高生B「あー、でも知ってる?このイタリアのロケから帰ってきてないらしいよー」
女子高生A「え!?なんでなんで!?」
女子高生B「なんかー、もう仕事しないんだって」
女子高生A「えぇ!?マジで!?ショックー!もっと見たいのにー!」



・会社

喫煙室で煙草を吸う哲平
ソファに千尋の写真集が置いてある
それを見つけて手に取り、表紙を見る

哲平 「……」

喫煙室に同僚二人が入ってくる

同僚A「あー、それ今話題の奴じゃん」
同僚B「ねぇ、あたしずっと聞きたかったんだけどさ、それって加々見くんの従兄弟じゃないの?」
哲平 「あぁ」
同僚B「やっぱり!」
同僚A「へぇ、じゃあやっぱあの貴族だったわけねぇ。すっげぇ!」
同僚B「イタリアから帰ってきてないってホント?」
哲平 「うん」
同僚A「ふーん。やめっちゃったって?」
哲平 「らしいな」
同僚A「お前も会ってないってわけかー」
同僚B「ねぇねぇ、これのね、イタリアの写真から表情全然違うの。すっごい切ない顔してんだよね。何かあったの?」
哲平 「……」

千尋 『てっちゃん!』

哲平 「さぁ?そういう設定なんじゃないの?」
同僚B「やっぱ演技なのかなぁ?そういう風には見えないんだよねぇ。でもこれが演技だとしたらめちゃくちゃ凄いよ。天才。世の女を全員虜にしてる」
同僚A「はっはっは!凄いな!」
同僚B「そうだ、加々見くんってイタリア語分かる?最後のページに…」
哲平 「え?」

ページを捲る

同僚B「これ、直筆で書いてあるの。どういう意味?」

哲平M「ページの最後に、ちーの字で、Ti voglio bene(ティ・ヴォリオ・ベーネ)と書かれている…」

哲平 「ごめん、わかんない。なんだろね?」
同僚B「英語だったら分かるかもだけど、さすがにイタリア語はなぁ」

哲平M「あれから三ヶ月経った」



・自宅(リビング)

ぼーっとテレビを見ている哲平

哲平M「もうちーのことは忘れたいのに、それなのに世間がそうさせてくれない。テレビをつけても、街を歩いても、泣いているちーが、いつもどこかに居る」

哲平M「なぁ、どうしてあんな顔して泣いてるんだ?今どこで、何をしてる?元気でちゃんと笑ってる?俺のことなんかで泣かないでくれ。辛いなら、俺のことなんか忘れてくれればいい。俺は今でもお前のことが好きだから。だから安心して、忘れてくれればいい…」

哲平M「あんな顔して泣かないでくれ…」

クラクションが聞こえる

哲平 「……」

家を飛び出す



・マンション前

見慣れた車が止まっている

恵  「よークソガキ!元気だったか!?」

運転席から顔を出す恵
哲平、近づいて笑う

哲平 「あなたも相変わらずで」
恵  「そんな顔して笑うな。乗れよ」

乗る



・車

運転している恵、助手席に座っている哲平

哲平 「恵ちゃんもイタリアにいるんだと思ってた」
恵  「いたよ。ちょっと帰ってきてんの。いろいろとやらなきゃいけないことあるからさ」
哲平 「ちーは…元気?」
恵  「あぁ、元気だよ」
哲平 「そっか。よかった」
恵  「それだけー?」
哲平 「うん。それだけでいい」
恵  「寂しいこと言うねぇ。若いくせに」
哲平 「……」
恵  「ふー…」
哲平 「あの」
恵  「ん?」
哲平 「あの写真集の…最後のページ…」
恵  「あぁ、見た?」
哲平 「どういう意味なの?」
恵  「……」
哲平 「…?」
恵  「君を強く思う、君の幸せを祈る」
哲平 「え…」
恵  「お前にだよ」
哲平 「…っ…」

哲平、涙を零す
恵、左手で頭をガシガシ撫でる

恵  「あいつ全部知ってんだよ」
哲平 「え…?」
恵  「お前に何があったのか。それであいつも同じことやられてんの。お前の生活壊せないからって、もう会えないって」
哲平 「うそ…」
恵  「嘘なんかじゃねぇよ。俺もずーっと説得してたんだよー?もう仕事もしなくていいってなったのに、それでも日本に居たら少なからずお前に迷惑がかかるからって」
哲平 「そんな…」
恵  「あいつに会いに行ってやってよ。仕事とかさ、あるの分かるし、無理言ってんのは分かってる。でも俺もさ、あいつのあんな顔見てんの辛いんだよね」
哲平 「でも」
恵  「俺が珍しく頭下げてんだぞ?それとも何。もうホントに好きじゃなくなったー?」
哲平 「そんなこと!」
恵  「だったらさ、お願い。ちーに顔みせてやって」
哲平 「恵ちゃん…」
恵  「んー?」
哲平 「俺、なんて謝ればいいのかわかんないよ…」
恵  「馬鹿だなぁ。そんなの一言言ってやればいいんだよ」
哲平 「え…?」
恵  「愛してるって」
哲平 「…ぅ…っ…わ、かった…」
恵  「ん」

恵、また頭を撫でる



・イタリア

海岸で一人、防波堤の上を歩いている千尋
ポケットからハーモニカを出し、適当に吹く
夕日が沈んでいく海を見る
またハーモニカを吹きながら歩き出す
バランスを崩して海に落ちそうになる

哲平 「危ない!」

哲平、千尋を抱きとめる

千尋 「え…?」
哲平 「ちゃんと前見て歩けよ…」
千尋 「え…てっちゃん…なんでここにいるの…?」
哲平 「えっと…」
千尋 「ほんもの…?」
哲平 「うん…あの…」
千尋 「どうして…だって…」
哲平 「ちょっと黙ってろ…」
千尋 「え…」

哲平、千尋を抱きしめる
顔が見えない

哲平 「愛してるよ。迎えに来た」
千尋 「……」
哲平 「ごめんな。来るの遅くなって」

千尋、涙を零す

千尋 「…ぅ…ぅぅ…」
哲平 「ちー?」
千尋 「う…ぅぅ…っ…」

哲平、千尋の顔を見る

千尋 「最悪だよもう…」
哲平 「え…?」
千尋 「てっちゃん…かっこよすぎて…忘れられなくなっちゃうよー…」
哲平 「はははっ、忘れないでよ」

哲平、千尋にキスをする

千尋 「てっちゃん…」
哲平 「あーもう!恥ずかしい!」

哲平、顔を真っ赤にして背ける

千尋 「…っ」

千尋、防波堤の上に哲平を押し倒す
哲平、頭を打つ

哲平 「いってぇ…」
千尋 「てっちゃん。後悔しないでよ。もう僕離せないよ?何しても離さないよ?」
哲平 「うん」
千尋 「今のうちだからね…」
哲平 「あぁ、離さないでよ」

哲平、笑う

千尋 「てっちゃん、愛してる」
哲平 「うん。俺もだよ」

何度もキスをする二人



・イタリアの家

千尋の部屋で抱き合っている二人

哲平 「んっ…あ、まって、はぁっ…ちー、そこ、ばっか…やめっ…」
千尋 「だって…っ…ここがいいんでしょ?…ん…」
哲平 「あ、あ、あ、あッ、だって、そんな…ぁぅ…んんっ…すぐっ、あぁ…」
千尋 「いいよっ…んっ…イって…ほら…」
哲平 「だめっ…だって……ほんと、に、あっ…ぁあ……もう、だめっ…」

千尋、キスをする

千尋 「ん…ぅ…んん」
哲平 「ふん…っ…ん!…んー!…ッ!ん、ん、んん!…ぁっ!」
千尋 「っ!…ん…」
哲平 「はぁっ、はぁ、はぁ、はっ…」
千尋 「はぁ…はぁ…はぁ…」
千尋 「ふふっ、てっちゃん…いっぱい出たね…」

千尋、指ですくう

哲平 「もう…はぁっ…はぁ…最悪…っ…」
千尋 「えー?なんで?」
哲平 「やだって言ったのに…っ」
千尋 「だって気持ちよかったんでしょ?」
哲平 「知らん!」
千尋 「もーてっちゃん」

千尋、抱きしめる

哲平 「なに」
千尋 「愛してるよ」
哲平 「…うん…」
千尋 「結婚、してくれる…?」
哲平 「……」
千尋 「……」
哲平 「…うん…」
千尋 「え!?」
哲平 「えってなんだよ。しなくていいんならしないけど」
千尋 「やだやだやだ!する!やったぁ!」
哲平 「あー…俺…なんか道を踏み外してる気がする…」
千尋 「僕が居るから大丈夫だよ。僕がひっぱり上げてあげるから」
哲平 「…」
千尋 「愛してるよ」
哲平 「あぁ…」

キスをする



・イタリアの家

庭を二人、手を繋いで歩いている

千尋 「てっちゃん。愛してるよ?」
哲平 「お前さー、あんまりいい過ぎると価値なくなっちゃうよ?現にもう挨拶みたいになってんじゃん…」
千尋 「分かってないなぁ!愛してるの数はね…」

千尋、哲平の首に手を回す

哲平 「?」
千尋 「その人を思う分あるんだから。言っても言っても出てくるものなんだよ?その意味分かる?」
哲平 「っ…。でも…」
千尋 「愛してるよ」
哲平 「うん…」

キスをする
二人、向かい合って笑いあう





おわり


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