止まない太鼓と笛の音、上を見上げればいくつもの提灯が通りの奥にまで並んでいる。もう日も沈み、辺りは暗いというのに、提灯と露店のライトによりこの道だけは別世界のようにぼんやりと照らされていた。


―――・・・誘った自分も悪い。いや、ついてない。まさか2時間も付き合わされてまだ半分しか来ていないなんて。


そうクロロは心の中でため息をついた。片手は彼女の手を握り、もう一方の手の袋には様々な菓子が入っている。ぜんぶ彼女のものだ。

日本、という小さな島国に入国し、先程最後の仕事を終えた。最近は忙しくなかなか二人きりで出かけることもなく、今夜は仕事の帰りにたまたま近くの大通りで祭りをやっていると聞き、立ち寄ったのだった。

ノブナガが着るような見慣れない服を着た人たちと、大通りの端から端まで並ぶ露店に、彼女は目を輝かせていた。



「だから最初からぜんぶ買っておけばよかったんだ」



元来た道を引き返しながら、呆れたような口調でクロロは呟く。



『だって、もうこんなに買ったから食べきれないと思ったんだもん』

「悩む時間がながすぎる」

『……ぜんぶおいしそうに見えるから』



彼女の手には林檎飴、という珍しいお菓子が握られていた。同じ露店には香りがとてもいい杏飴というものと、真っ赤な苺飴というのもあった。悩みに悩んでやっと林檎飴を選んだのだったが、少し歩いて急に残りの二つも気になり始め、引き返している最中だった。



『あ!なにあれ!』



繋いでいた手を離し、人混みをかきわけて露店にかけよる。目の前では飴細工の小鳥や花が並んでいた。



『ねえ、見てよクロロ』



───…クロロ?

振りかえればクロロの姿は見えない。たくさんの人が流れているだけだ。背伸びをしてきょろきょろと首を動かす。いない。あの人も違う。あの黒髪の人も違う。



「───学習能力ゼロだな」



頭の上にボン、と大きな手が乗せられる。また長い時間悩まないようにクロロは露店の店主に全ての種類の飴細工を袋につめるよう告げた。



「今日で5回目。何度手を離すなって言えばわかるんだ」



ごめんなさいと小さな声で呟く。店主から袋を受け取ったクロロは離れていた手を改めて強く握って引っ張った。

はぐれたのは少しの間だったが、不安だったのかクロロに寄り添い、手をひかれながら反対の手で彼のシャツの袖をぎゅっと握る。



「───…そこのお二人さん、」



声をかけられ二人は声のした地面の方へ視線をさげる。



「お兄さん、彼女になにか贈り物をどうですか。ピアス、腕輪、ネックレス、メッセージをいれるなら10分程度でお造りできますよ」



クロロは地面に胡座をかいて笑顔でまくしたててくる商人に無愛想にああ、としか返事をすることはなかった。隣の彼女の顔をみると迷子になったことを反省しているのか、少し暗い顔をしていた。



「なにかいる?」

『うー、ん。クロロは?』



布の上に並べられた宝石を見渡す。クロロはひとつを手にとりじっくりと眺めた。どうやら偽物ではないらしい。



「…首輪、」

『「え?」』

「散歩したらすぐ迷子になる恋人に困ってるんだよ」



サイズはこれに合わせてくれ、と彼女を指差す。皿の中に入った小粒のルビーを手にとり、クロロは悪戯っぽく笑った。彼女と商人は声を合わせて彼の方を見る。喉の奥でくつくつと笑うクロロとは対象的に二人の額には嫌な汗が流れていた。



「おっ…、お兄さんいまなんて?」

『あ!この腕輪すごくかわいい!すみません、おいくらですか?!』



慌てて彼女は手元にあった腕輪を手にとり財布から札束を取り出して商人に渡す。お釣りはいりません、と言い残してクロロの腕を引っ張り人混みの中に紛れていく。商人には真っ赤に顔を染めていた少女の顔が頭から離れなかった。



END

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