私の頭の中の箱の何かが亀裂を浮かべて何かを離す。 何かが浮かんでも亀裂から宙に浮かんで消えていく。 夕暮れ時、沈みかかる日。静かすぎる街は耳鳴りがする程に不気味で、冷たい空気が血に濡れた頬を掠めた。 何度も死にたいと思う割に死というものが何なのか上手く理解できていなかった。死ねない身体で、死んでしまえさえすれば全ての呪縛から逃げれるものだと勝手に思い込み方法を探していた。人間は生前の行いによって天国か地獄かどちらかに魂が行き着くと信じられている。ならば私はどこに行くんだろうか、くだらない。 私はヒトではなく、人間ではない。天使族が死ねばどうなるのか少なからず考えた事がある。人間も私もナイフで切りつければ皮膚を破った奥からは血液が溢れ、細胞が治癒をし始める。 「ヒ、ヒィ──…」 先程まで仲間の仇打ちだと言って私に拳銃を向けて余裕の笑みを浮かべていた男。私の腹部を球が貫通し、倒れる事もなく傷が治癒したのをみると面白い程にみるみる血の気が引いていく。 「化、物ッ!!」 『・・・私が化け物なの?』 「く、くるなっ、」 男が震える手で引金を引けば銃球は私の当たる事なく冷たい壁へめり込んだ。私にとって傷の治癒は自然な事であり人間にとっては不自然な能力であるだけなんだ。男の肌にナイフを這わせば、半分ほど肉が削り落ちて骨の白い部分がチラチラ見える。直ぐ死んでしまう人間も不自然。 『・・・もろいね、』 人間は、恐怖。男の欲に満ちていた目は恐怖に溺れ、瞳孔をゆっくりと縮めながらとたんに態度をかえる。時には誇りやプライドを捨て命をこい、何故か涙を見せたり逆に殺せと志願するものもいる。 『・・・化け物、か』 カチカチと球が切れて空回りする音が聞こえる。不要物と化した男は拳銃を手放し、紫色になった唇を震わし私の質問にも答えれないようだ 私と一緒だ。 ああ、コイツも不要品。 男は自分のポケットに手を掛け、球を一発取り出しガチャガチャと荒い音を立てながら拳銃に入れると自分のコメカミに当てた。 パァァン───… 渇いた空気に響くピルトルの音と共に男は私の目の前で只の蛋白質の固まりになる。この男は死んだのか、そもそも私が死んでいるのか。人間はいつも、何をしだすのか私には全く想像がつかない。 「・・・・殺さなかったのか」 『・・ギン、』 「らしくないな、すぐに殺さないなんて」 『そんなことない』 「この男もばかなやつだ、早く殺してもらったほうが、自分の為だったろうに」 『・・・死とか、魂とか、ってなんなんだろうね』 否、そもそも天国や地獄、宗教なんて場所は人間が勝手に空想内へ創った世界なんだ。自分達にとって都合のいいように神を創りあげ、都合が悪くなれば神を恨み神に祈る。所詮人間は利己的なエゴイストの集団でしかなくて。 『私にとって人間は異端なんだ』 「人間にとってお前が異端だ」 『どっちが、化け物なんだろう』 「どっちもだろう」 たしかにね、と瞳を閉じた。その先にはなにも無かった。 |