『あの、ごめんなさい』 朝から頭痛と眩暈が酷かった。気を抜けば、時折視界が歪み、息が詰まるような感覚に陥る。朝から夕方までクロロは部屋から出てこなかった。昨晩、自分のせいで機嫌を損ねたというクロロに謝るために、意を決して彼の部屋に入ったが、一向に目を合わせようとしてくれない。コートを羽織りながら、仕事に出る準備を始めたクロロからは、終始、嫌な空気が感じとれた。 「・・・何が?」 『昨日の、コト』 「『昨日』ってどうせ何にも覚えてないんだろ?」 ツキッ───・・・ 「酔った勢いとは言え、他の男にべったりくっつくようなバカな奴だとは思わなかった」 ツキンッ───・・・ 「・・・もういい」 『───・・?』 呆れたように浅めの溜め息をつき、うつ向く自分の横をすり抜け部屋を出たクロロ。静か過ぎる部屋にドアが開く音が響く。息ができない。苦しい。足元の床がすっぽりなくなったような感覚だった。頭が割れるように痛い。膝から床に崩れて、ポツリ、とたった一人部屋に残された彼女。溢れてくる涙をどうにかして止めようと服の袖で目元と声を押さえた。 ヅキンッ───・・・ 『ふッ・・・・ぐす・・・』 あなたはいらない子なの。哀れな子。できそこないの哀れな人形には感情なんていらないの。そんなもの早く捨ててしまいなさい。バカな子。 『母様・・・・、ご、めんッ・・なさ・・』 早く、もっと早く殺すんだ、もっと早く殺せ、確実に心臓を狙って。ほら、早く殺さないと自分が痛いだけ、苦しいだけだ。お前はただ殺していればいいのだ。お前は人をころすだけの、人形なんだよ。 『父様、ごめんなさい。本当に・・ぁっ、・・どッ・・し、よ・・・』 ーーーークロロも離れていく。たったひとりの大切な人が離れていく。また、大切なヒトが音を立てないまま静かに消えていく。私に何も言わないまま、何の知らせもないままに消えていく。ほら、また一人ぼっち。どうしたらいい? 『・・・・・ど、したらッ・・ぁ。一人にしな・・で、・・・!』 わたしはいらない子だから、クロロに嫌われたら、またひとりぼっちになる。いやだ。ひとりは嫌だ。心臓の鼓動だけが規則正しく動き私の心臓の回りには不規則に針を突き刺す痛みが走る。痛い。苦しい。 |