黒真珠を埋め込んだような、くりくりとした瞳。男としては華奢な分類にかもしれないけれど、しなやかで長い指。 さらさらと流れる長い髪は、痛みなんて知らないくらい滑らかで、柔らかい。 一目イルミをみただけの人は、どこか女性的で儚ささえ感じるかもしれないけれど、わたしは一度だって、彼から弱さなんて感じたことはない。 「いい加減、痛い」 『?』 「視線」 タオルで拭ききれない水が、長い髪を伝って落ちる。バスルームから出てきたイルミは、こちらを一度も見るわけでもなく、真っ先に冷蔵庫のミネラルウォーターに向かう。 そのようすを、じっと見つめていると、ミネラルウォーターに口を付けながら、いたずらっぽくイルミは笑った。そうして、愛しき人はやっと、私の座っていたソファまで歩み寄ってくる。 「かまって欲しかった?」 『…ち、…ちがうよ』 「今日はちょっと長めの風呂だったから、ほうっておいたことに拗ねてるのかと思った」 『……む、』 「あ、いま拗ねた」 感情の薄い瞳だけれど、最近はすごくイルミの事がわかるようになってきた。 イルミの笑顔が一番すき。いつも仕事の話しで険しい顔をしている時も素敵だけれども、大きな目を少しだけ細めて、ふんわりと笑う顔がすごく好きだった。 「ほら、機嫌なおして」 唇に、イルミの柔らかくて薄い唇が触れる。まだ濡れている彼の長い髪が、私の鎖骨にあたってくすぐったい。 キスもベットのことだって、全部彼から得た知識だ。 『いるにい、』 「ん」 『ぎゅっ、てして』 「………おいで」 ぎゅう、といつもより少し強く抱きしめてくれる。小さい時、正確にはイルミに頭へ針を刺される前まで、なにか嫌なことや怖いことがあれば、こうやって抱きしめてもらっていた。心地いい。頭を撫でてくれる感触も、イルミの匂いもぜんぶ。 華奢に見えるけれど、本当は男らしくて筋肉もしっかりついた腕。ぜんぶ包みこんでくれる大きな胸板と背中。いったい、どれほどの女性を、私以外の女性を抱き寄せたんだろう。 この薄くては柔らかい唇と、黒真珠を埋め込んだような瞳の、未来も過去も、私だけのものならいいのに。私はイルミしかしらないのに。イルミだけなのに。くやしい。 ぐるぐるぐる、と頭の中で答えの出ない疑問が巡る。 「どうかした?」 『……』 「カンナ、こっち向いて」 不安に揺らぐ瞳を慰めるように頬をなでて、イルミは見つめてきた。彼の瞳に魅入られたら、たちまち息もできなくなるくらい引き込まれてしまう。 「なんかあった?」 『ううん、なんにもない』 「ならそんなに辛そうな顔しないでよ」 『ごめんね』 「不安になる必要はない」 『……』 「心から愛してるよ、昔も今も変わりなく。中途半端な理性は捨てて。オレたちの関係は禁忌じゃない。あたりまえに溺れて、愛し合えばいい」 『…うん』 「もっともっと時間をかけてどれだけカンナの事を愛してるか、わからせてあげる」 『ありがとう』 もっと、もっと、 与えられれば、与えられるほどに欲しがってしまう。なんて愚かなのだろうか、と苦笑いしてしまった。 キスされれば、もっとしてほしくて。抱きしめられれば、もっと強く抱きしめて欲しくて。どんなに安っぽい言葉でもいい。イルミ自身から与えられれば、なんだっていい。私が愛されてる、という実感を、ただただ欲しかった。 END ×
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