「お前なんて・・・!」 『うわっ!』 「なんでお前ばっかり、私は、私のほうが・・・!お前はなんでもないような顔をして、そんなに悪戯に私をからかってなにが楽しい!!」 『からかってなんかないよ』 「ふざけるな!」 『・・・泣いてるの?』 「無礼な!泣いてなんかない!」 『でも泣きそうだよ』 「うるさい!」 『私はただ、一緒にお花を摘もうと思っただけだよ。怒らしてしまったらごめんね』 「うるさいといっただろう。次に何か言えば、お前の喉を掻き切るぞ。いまに見ていろ、お前なんて、お前なんて・・・!」 ・・・・・ なんだ、寒い。まるで長い時間、水に漬けられたような冷たさだ。さっきの子供は誰だろう。私は知っている。あの少女のことをきっと知っている。誰だ。思い出せない。思い出そうとすれば頭が酷く痛む。何かが邪魔をして、まるで思い出すことを止めさせるようだ。 「カンナ、カンナ起きて」 ――――いつのまにか寝てしまっていたようだ。ここのところ夜中にあまり眠れなかったせいだろう。イル兄に身体を揺すられて目を覚ます。読みかけていた本は、もうどこまで読んだのかわからなくなっていた。 『ごめん、寝ちゃってた』 「いい加減、ちゃんと時間守りなよ。ここに迎えにくるの、日課になってる」 気怠い身体を無理やり起こすと、イル兄は少し呆れたようにふう、と息を吐いて、木の根元に積んでいた本を持ってくれる。 「風邪ひいた?顔青い」 『妙な夢をみてて、そのせいかな』 「夢?」 『小さい子供がね、ずっと泣いてるんだ。話しかけても何か言ってて。でもどこかで聞いたことある声なんだ。今日みたのは、その子供が私のこと突き飛ばして、泣きそうな顔で睨んでくる夢。私、なぜかその子のこと助けてあげたいんだ』 「・・・今日みたのは?前にもなにか見てるの?」 『最近、時々みる。どこかで女の子が泣いてる声が聞こえている夢とか。時々、小さい私と誰かが話している夢とか。前まであんまり夢なんて見なかったんだけど』 「・・・そう、」 急に立ち止まったイル兄が、少し寂しそうな顔をして、森の向こうを見ている。ぼんやりと森を眺める様子を後ろから見つめながら、声を掛けることはできなかった。毎日のようにこの木の下に迎えに来てくれる彼が、時々どこか寂しそうな顔をすることに気付きながらも、どこか見て見ぬふりをしている自分がいる。思えば、彼の事を好きかもしれない、とカミングアウトした日からもう10日も経っていることに気付いた。 ×
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