またわけのわからない夢をみた。最近はこの夢とイル兄のことばかりに意識を捕らわれ、おかしくなりそうだ。 私はイル兄から逃げている。無意識のうちに、自分のへやにこもって。 ベランダから森を見下ろしながら、何とか別のことを考えようとする。気を抜いたら思い出してしまう。いや、意識しないようにするとむしろ意識してしまう。頭の中でぐるぐると回り、自分が見せてしまった醜態を思い出してはボン、と頭が破裂しそうになる。 イル兄は、自分にとってかけがえのない存在だ。いつも私は彼の背中を追っていた。けれど、ある日突然イル兄は私を避けるようになり、私もイル兄に対する言いようの無い、恐怖に近い感情を覚えるようになった。 それが、彼によって刺された針によるものだと知らされ、針を抜かれてからは、今度は、もっとわけのわからない感情が生まれることとなった。 「カンナ」 『……ぁ、』 「ずっと上の空だって、母さんが心配してた」 ふいに背中から聞こえたイル兄の声に慌てて振り向き、いやに優しい口調に、無意識に背筋が伸びる。 『だめだよ、』 「大丈夫監視下にない。そんなヘマするわけないだろ」 『……』 「…意識してくれてる?」 『……っ、誰だって…考えてしまうよ。…私たちは…、』 「兄妹だから?」 『……あの…』 「どちらにせよ、意識してくれてるなら今はそれでいい」 『…っ…』 「警戒しないで」 『……でも、』 「何もしない。だから指にだけ触れさせて」 まるで囁くような甘い声がいい終わる前に、いつの間にか指先を取られていた。 彼のしなやかで美しい指が、私の指を撫でる。ゆっくりと肌を確かめるような触り方に少し身を引けば、逃げるな、とでもいうように引き寄せられる。 「愛してる、」 『……!』 細められた彼の瞳と共に、指先に受けた口付け。 ×
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