敵 前 逃 亡者 『……なんだって?』 無意識の内に溢れてくるドス黒いオーラを押さえ自分の頭に落ち着けと呼び掛けるが、ブレーキが壊れた思考は聞く耳を持たない。沸々と湧き出る怒りを隠す事なんて今は出来っこなかった。 「いつまで被害妄想して野郎の背中追ってんだ、つったんだ」 『……私を煽るな』 ガシッ───… 柄にもなく取り乱し、彼女の細い腕がフィンクスの胸ぐらを掴み上げる。端から見れば何とも不釣り合いな光景。 「弱虫野郎の気持ちなんざ分かりたくもねェよ」 『その弱虫に殺られて泣くんじゃねえぞ』 別に家族も全てから見放されても、アイツだけ居てくれたら何も要らなかった。幾ら感情が無くたって、全てから懸念されてもギンだけ居てくれればそれだけで幸せだったのに。 「……あ?」 『単細胞なお前でもわかりやすく言ってやろうか』 「お前は俺に喧嘩売ってるって事だろ?」 『バカいうな、お前が先に売ってきたんだろ』 フィンクスからオーラが溢れるとアンナもとうとう歯止めが効かなくなった。理性は何処かへ崩れ持っていた紙袋をバサリと床に落とす。彼の額はビキビキと鳴らし露骨な怒りを露にする。 「買ってやるよ」 バシッ───… 掴んでいた手を祓われジンジンとした痛みに目が覚める。どうせ後一週間したら旅団の奴を一人やっつけるんだから予行練習として実験台第一号にしてもらおう(暴れれば少しは気分も落ち着くだろう) |