覚めない現実 『…ん、……』 目が覚め瞼を開けると柔らかい布の中に体を埋めていた。なんだか頭がスッキリする。まだ少し眠っていた脳がソレをベッドシーツだと認識したのは少し後の事だった。常に身を潜める生活をしていたこともあり、こんなに柔らかくて質のいいベッドで眠ったのは久しぶりのことだった。 『……あれ、ここ』 頭をポリポリ掻きながら、昨夜の事を思い出す。確かビルに盗みに入ったら拉致られて。逃亡して捕まって、あの美形オールバック野郎がコトの発端で。ノブナガ、ってやつと挑戦した後、どうしたっけ。 『……ギン?』 返事はない 確か、クロロとかいう奴と喧嘩する前に突然ギンが私の首を叩いて気絶させられた。 ガチャンッと音の先にはいつかと同じ髪を下ろしたクロロの姿。湯気の出るカップを持ちながら、椅子に座り長い足を強調するように組む。 「目が覚めたか」 『ねえ…、ギンは?』 普段なら目が覚めれば大抵、咥え煙草で立っているギンが目に入る筈なのに。 ベッドの横に窓と扉が一つ、大丈夫いつでも逃げられる。妙な胸騒ぎと奇妙な感覚だけがまるで頭の中を掻き毟るように騒いでいた。 「──…消えたよ」 ツキンッ────… 「あの念は条件を満たしたら消えるようになっていた」 ──…念? 念ってのは父様が人を殺す為にあるものだって。第一、ギンは人間なんだ、あんな悲惨な冷たい残虐マシンなワケないだろ 「恐らく、お前と融合するよう掛けられてた」 『何言ってんだよ…、どこかに隠してんなら早く出してよ…』 違う、違う、違う ギンはずっとそばにいる、二人で一つの筈だ。いなくなる時は私が死んだ時しかない、必ず側に付いていると約束もした 「気付いてるだろ?」 ドクンッ────… そう言われて体中の血液が一気に心臓に流れた気がした。脳が何かを訴えてる。本の隙間から見てきた、射ぬくような視線が身体中の血管を鷲掴みするように。 バタンッ───… いつの間にか勝手に動いた足と手が彼の横をすり抜けて、廊下に走っていた。がむしゃらに走って走って走って。 「……団員、何ならアタシのアレで教えた方が」 「ショックが大き過ぎるだろう、オレが直接話すよ」 廊下に立っていたパクがクロロに問うが、首を振る。髪を掻きあげて、まだ足音のする長い廊下の奥へ逃げたアンナを追いかけた。 |