黒翼長編 | ナノ






本当に星が降ってきてるみたいだね、と彼女は囁いた。

星降る夜、とはまさに今日のような星空のことをいうのだろう。月も雲すらもない、無数の星だけが支配する空へまるでなぞるように、月明かりに照らされた青白く細い手が伸びる。











「こんなにも暗い闇の中でも、お前の深緑の瞳は輝いてみえる」




星をなぞっていた身体を引き寄せ、そう囁いてやれば照れたように頬を緩ませる。




『クロロの手はいっつも冷たいのに、今日はあったかい』




自分の下で手のひらを合わせ、くすくすと笑うアンナにクロロはなんでもない幸せと、少しの切なさを感じた。

薄暗い中で微笑むアンナの白い顔。屈託のないアンナの表情は、誰にも汚されてない綺麗なままの笑顔だった。だからより一層、寂しく感じたんだろう。




「本当に財宝を売ってよかったのか?」

『ああいうの興味ないし、シャルナークがね、売ったお金でなんでも買っていいっていうの。だからこの前行ったケーキ屋さんで端から端まで買ってもらうんだあ、』

「じゃあ、オレは店ごとかってやるよ」





そう言って、アンナはまた笑い、つられて笑う。




「…戻ろう、そろそろシャルも帰ってくる」




本当に信じているのかも知れない、いや、信じていてくれて構わない。それくらいのことで喜んでくれるなら、何軒だって買ってやろう。

そう言ってやっても、きっとアンナは笑うのだろう。純粋で、汚れのない表情で。





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