琥珀蜻蛉 の 飛翔 Meekness 「なに?!」 マチの少し慌てた声。ガラガラと壁のレンガが崩れている。それだけではなく、天井からもパラパラと砂が落ちてくる。 「アンナッ、」 『‥……』 「アンナ、ここから離れるぞ!」 「団長、早くしないと!」 彼女は放心したまま彼が消えた場所を一点、見つめている。友との別れに涙を流すワケでも無く、まるで色彩の消えた灰色の世界にいるようにピクリ、とも動かない。 「ダメ、間に合わない」 「どーすんだ、生き埋めだぞッ!!」 元来た道は既に瓦礫に埋まっている。確かにこのままでは全員生き埋め、お目当てだった指輪は彼女の奥。これまでか、と思った刹那。彼女がポツリ、と呟きながら天井を見上げた。 『‥…ごめ、ん…』 スッ、と伸ばした手。ギリ、と歯を食い縛り指先に意識を集中させると、手の平に現れたのは今までとは比べ物にならない程に大きく、闇よりも濃い漆黒に染まった球体。水晶程の大きさのあるソレをアンナは上空へ放った。 「‥助かッ…た…?」 どんよりとした闇が天井を覆った瞬間、瞬きをすれば空間はポッカリと大きく空いた穴に変わっていた。見上げれば青空が見えている。彼女は崩れる天井も、大地をも消していた。名前を呼んでも返事はなく、パタリと力無く横たわっている。 「‥…アンナ、」 クロロはアンナに近寄り、身体を抱き抱える。が、グッタリとしたまま意識を飛ばしている。頬に触れて感じたのは高い温度。翼の生える前夜のように、高熱が彼女を纏っていた。 |