その夜は不機嫌だった 「……やはり匂う」 カンッ───… 机に飲み干した缶を置き、満足気に息を一つ吐く。一本の蝋燭の賄いの光で照らされた少々薄暗い部屋。月明かりで照らされた横顔と揺らぐ煙草の火。灰皿代わりにした缶に少年が煙草の先を指で払った。丸口の部分に付いた灰色の粉が風に飛ばされ机に乗ったが気にはしない。 『今日の仕事の事?』 「いや、この前きた男がどうも気になる」 『心配症だなあ』 「……当たり前だ」 悪かったよ、言いつつも何処か楽しそうにニヤニヤと笑う帽子の少年。向かいの少年の方は苛ついたように、缶に吸いかけの煙草をギリッと押しつける。今にも壊れそうな木製の机の付け根がギシギシと悲鳴をあげた。 「わかっているのか、自分で自分の首を絞めることになる」 『……?』 「とぼけてンなよ」 『うっさいなあ』 睨まれて、今思い出したかのように納得し笑い出すアンナに、眉間にシワを寄せる彼の目を見ずに静かに笑う。 『説教なら聞かない』 同年齡だろうか、帽子少年に比べると妙に色っぽいオーラを醸し出している銀髪少年。フゥー…と喉に溜めていた白い息を溜め息と共に吐き出し、唇から離した煙草を二本の指に挟み呆れた顔で足を組んだ。 『私、先に行く』 「……オイ」 『言っただろ、説教なら聞かない』 どうせ、此処に居たって無駄な時間が流れるだけ、なによりニコチンまみれで嫌だし。狂いがないようカチカチとタイマーを合わせるアンナ。一斉行動までの残り15分間、今日の依頼人はお得意様。 「嫌な予感がする、ちゃんと用心してかかれよ」 『わかってる』 風音と共に窓から飛び降りた。 |