潜入捜査! | ナノ





「誰だ、さっきの奴は」

『クラスメイト。クロロだって授業で見たでしょ、』

「何の話をしてた」

『聞いてただろ、日誌を書いてくれた。そんなことくらいで呼びださないでよ。こっちだってまだ仕事が残ってるんだから』

「他の生徒との過度な接触は不要。お前の仕事はあくまでもセキュリティーの把握だ、忘れるな」

『自分の仕事はきちんとしてる。私がこの仕事、乗り気じゃなかったのに社会勉強になる、って言ってやらせたのはクロロだ。仕事に関して文句を言われる筋合いはない』

「・・・いい加減にしろ」

『・・・どっちが、』

「ーーー先生!」

『・・・』



ノックもなしに生徒が部屋に入ってくる。アンナがうつむく。机の上の荷物を乱暴に鞄に詰めながら、出て行こうとしている。



「プリント終わりましたー」

「ああ、そこに置いておいてください」

「お利口にしてたんだから、ゴホウビくださいよー?」

「冗談言わずに早く帰宅しなさい」

「えー、ケチー」



ばさり、との机の上に置いていたプリントが、床に落ちる。アンナが鞄に詰めようとして誤って落としてしまったんだろう。無言のままプリントを拾って、ぐしゃぐしゃになったままのそれを鞄に押し込む。なんでもないような顔をして。本当はなんでもないはずないくせに。

ーーーいらつく。

ぐい、と生徒の腕を引いて、自分の方に引き寄せる。はっとして驚いたような顔をした生徒の額を指で着いた。



「子供にはこれで十分」

「・・・!」



顔を真っ赤にして、何も言葉を言えぬままにパクパクと口を開けたり閉じたりする様子がこっけいだ。口付けでもされることを期待したのだろうか。



「し、失礼しました!」

「・・・・・・さて、と。アンナ、待たせた」

『待ってない。もう、話すことなんてない』



さきほどまで、なんでもないような顔をしていたアンナだったが、今はあきらかに動揺したように奥歯をかんだような顔をしている。荷物を押し込んだ鞄を持って、出て行こうとするアンナの腕を掴む。腕をブンブン振って引き剥がそうと暴れるのに嫌気がさし、少しチカラを込めて握るとアンナの肩がビクリ、と弾んだ。やりすぎたかもしれない、と思ったが、こうでもしないとコイツは絶対とまらない。



「どこ行くんだ」

『先生には関係ないでしょう・・・!私もだれかとイチャイチャするんだ、離せっ!』



アンナが泣いてる。涙は流してないけど、目に涙が溜まってる。



「待てって」

『るさい、離せ、っ!節操なし!』



二の腕を掴んでいたチカラを緩めて、手を繋ぐように下にずらす。



『そもそも、クロロが教師のふりして、学校に潜入してくるってことも、話してくれなかったこと、私は責めたりしなかっただろ?!授業中に、他の女の子が、クロロに構うことも、見過ごした・・・!なのに、なのにクロロは、私が少し他の人と話したくらいで責めたてて・・・!理不尽にもほどがある!』



顔を真っ赤にして怒るアンナの身体を引いて、抱き寄せた。いやだ、はなせ、と言っていつになく暴れるアンナの唇を奪った。薄く開かれた隙間に舌を差し込み、抵抗できなくなるまで翻弄する。ぎり、とシャツを握るアンナのチカラが強まる。



『――――・・・っ!』



少しずつ、アンナの身体のチカラが抜けていく。普段なら、酸欠にならないようにこのあたりで息をさせてやるが、今日はやめない。後頭部に手を回して、ぐい、とアンナの身体をより引き寄せた。深く、深く。追い詰めるような口付けにアンナの身体のチカラはいよいよ抜け、崩れ落ちそうになっている。



『・・・っは、・・んあ、・・』



鼻で息をすればいい、といくら教えてやっても一向にうまくならない。やっと唇を離し、頬に伝う涙を舐めとってやれば、ひくり、とアンナの身体が跳ねた。腕の中で、荒く息を吸っては吐き、身体を震わせている。



『・・・ずる・・い・・っ・・・!』

「・・・知ってる、」

『クロ。だ・・・て、みんなと、なかよっ・・くし、てた・・・くせ、にっ・・・!』

「妬いた?」

『っ!』

「オレはね、妬いた。なにしてたって、どれだけ忙しくたって、お前のことは忘れてない。あの子たちと話してる最中も、曇ってくお前の顔をみて、すぐに抱き寄せてみんなに見せつけてやりたいと思ってた」

『・・・悪魔・・・』



確かに、そうかもしれないな。

泣かせたくなんかないのに、こうやって腕の中で身体を震わせてないているアンナを見ていると、どうしても堪らない征服感を感じてしまう。こうやって泣かせているのは自分なのだと。いま、アンナの頭の中は、他のことがなにも考えることができないくらいに自分の存在が支配しているのだと。

ほら、いまだって。止まらない涙をどうにかして隠そうとうつむいているアンナの顎を掴んで、持ち上げて。さきほどの口付けでとろん、とした瞳に欲情して。また唇を重ねる。チカラを振り絞って胸板を押してくるアンナの小さくて非力な手を掴んで、彼女の知らないキスで溺れさせて。



『・・・・ぁ、・・・』

「・・・思い知った?」

『・・・も、やめ・・ほんと、やだ・・・』

「次、また何かあったら承知しないからな」

『・・・ふ、・・・』



子供に酷いことを教える大人の立場に、また酔う。



「アンナ、オレはお前に依存してる」

『・・・っ』

「きっとお前だって、オレに依存してくれているだろう」

『・・・依存、してるよ。父様に依存して、次はギンに依存して。今はクロロ。・・・でも、今回は違う。私はクロロがいなかったら、ダメなんだ。きっとオカシイんだ、私は、』

「オレもだよ」

『・・ふ・・・、ぅ・・・』

「オレも普通じゃないから、おあいこ」



思わず笑ってしまった。自分でも言ってることが



「イカれたままでいいだろう。もう取り戻せないくらいまで狂ってる。もういまさら、もういいだろう。お前だけじゃない。オレもおかしいんだ。これってすごく幸せなことだと思わない?」

『・・・しあわせ?』

「ああ、幸せなことだよ」



そっか、そっか。そう何度も自分に言い聞かせるように言って、ぎゅう、とアンナの手が強くなっていく。これでいいんだよ、これで。そうこちらも自分に言い聞かせるように何度もつぶやいて、アンナに言い聞かせる。




×