貴方の 2 | ナノ




シャルナークとかいうあのいけ好かない男が立ち去ってから、アンナは顔を真っ青にし、こちらの顔も見ずに背中を向けた。



「おい、待てって!」

『……』

「こっち向け。さっきから全然こっちの顔みねーだろ」

『前向いて歩いてるんだから、仕方ないよ』



アンナは移動教室に向かって、まるで逃げるように歩く。行く方向は同じなのだから、避ける意味などないのに。



「まだ話は終わってねー。また例のあの男とヘラヘラ笑いやがって、簡単に許してんじゃねーよ」

『シャルナークくんとは何でもないもん。ヘラヘラなんて、してない……!』

「どうだか」



ピタリ、とアンナの脚が止まる。

すう、と息を深く吸った音が聞こえた。肩が細かく震えている。この前兆は、昔からよく知っていた。

ーーーやばい。
それもかなりやばい。

昔から。ずっこけた時も、靴を盗まれた時も、誰かにからかわれた時も。いつもアンナは最初に肩を震わせて、それから、ーーーーー泣く。



『……ふ、ぐす…』

「なっ、泣くなよ!」

『ぅぅっ…、うわあん…!』

「あー、悪かったよ、悪かったから泣くな!泣くなって!」



ぐずぐずになって泣くアンナをどうにか止めようと思うが、こうなってしまえば、どうしようもなかった。なにもできずに、ボロボロ落ちる涙を指で拭ってやっても、とりあえず謝ってみても、泣き続けた。





こころのおくのところ
なくなっちゃった






あの後は大変だった。幸い、もう授業は始まっており、廊下に人も少なかった。慌てて人気の少ない場所へ連れて行き、泣く理由を聞き出そうとしたが、頑なに話そうとはしなかった。

理由もなく泣くなんてことはないだろう。シャルナークのことで強く責めてしまったからだろうか。

いや、いくら涙もろいアンナだからと言って、そんなことで、あそこまで大泣きするとは思えない。もって深刻で、重要な理由があるはずだ。



「ご機嫌斜めね」



パクノダがからかうような顔で、今週末の体育祭についての書類を渡してくる。



「彼女とケンカでもした?」

「そんなんじゃねー」

「ちゃんと説明してるの?」

「あ?」

「このこ、すごく妙な勘違いしてるみたいだから」

「勘違い?」



このこ、と言ってアンナの机を指先でトントン、とたたく。勘違いもなにも、パクノダとは体育祭の準備についての話しをしているだけ。しかし、ああみえて、変な所に頑固だ。勘違いしているかどうかはわからないが、勘違いしているのなら、謝ろう。それがいい。

こんな鈍感とつるんで本当かわいそう、と呟いたパクノダを睨むが、もう背中を向けていた。



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