ふたりぼっち | ナノ


クロロが、アンナの様子がおかしいと思ったのはつい最近のことだった。ここのところ、ロクに会話もできない。アンナの言葉は、断片的に繋ぎ合わせたように、たどたどしくて。

失った時間を必死に取り戻そうとしているのかもしれない。感情を失っていた分の時間が、彼女にとってのコンプレックスになっているのかもしれない。感情を素直に表すようになり、以前のような明るさと直向きな姿を取り戻したが、時折、ふとした瞬間に寂しそうな顔をしている。その中に、少しの焦りを感じるのだ。



ねえ、
どこにもいかないで




ひとりでぼうっとしていたアンナは、すっかり冷めてしまったココアのカップを持ったまま固まっていた。


「どうかしたのか」

『!』


ひくり、とアンナの顔が少し動く。なんでもない、とでも言うようにぎこちない笑顔で返したアンナに少しイラついてしまう。


「早く、答えろ」

『・・・ぁ・・っ・・』

「もう一度、以前の質問をしようか」

『・・・・』

「ヒソカに何か言われた?」


───ヒソカは何を言った。気付けアンナ、あいつはお前が思ってる以上にやっかいな策略家だということを。あれはお前のココロをかき乱して、遊んでるんだ。


「オレがこんなにもお前に詰め寄ったことがあるか?」

『ない』

「・・・お前は、」

『・・・・』

「お前は他に行くとこがないから、オレの所にいるのか?」

『違う・・・!』


歩みよれば少しだけ心を開いてくれる。しかし、完全に奥を見せようとはしない。だからといって、問い詰めれば、心を閉ざしてしまう。さっきだってそうだ。問い詰めれば、言葉に困ったように黙り、挙げ句の果てには「ごめんなさい」の一言。

本当は心が悲鳴をあげているくせに、なんでもない振りをして、強がってばかり。そんな態度を見せられると、余計に目が離せなくなる。心配をかけてはいけない、迷惑をかけまい、と思っているのか。


『・・・ヒソカは関係ない・・。私、ほんとに・・・』

「どうせお前のことだ。勝手によからぬことを考えて、一人で抱えているんだろう」


アンナがうつむいて黙った。今のアンナは不安定で、感情を取り戻した時期と同じくらいに、心が揺らいでいるのがわかる。

息をするのも精一杯のように見える。伝えてもらえないことと、伝わらないことが、一番辛い。胸に霧がかかったように気持ちが晴れなくて。何度も問うても、答えてくれないことにらしくもなく苛々としてしまう。


「勝手に勘違いして、一人で被害妄想抱えて、いい加減にしろ」

『・・・・ご、めな・・・』

「謝るな」

『・・・・ぁ、・・』

「言いたいことを全て伝えろ、なんて言わない。だが、大事なことは、本当に言いたいことは言ってもらわないとわからない。そうだろう?」

『・・・・』

「・・・そうやって、無駄な遠慮をして、勝手に苦しむな。お前のそういう部分が、オレは嫌いだ」

『・・・・・・・・』


アンナが声も出さずに泣いた。ポロポロ涙を溢して。唇をきつく閉じて。いつもの泣き方とは違った。今日のアンナの泣き方は、いつもの声を殺したような泣き方じゃなくて。

声を殺して泣く姿は、みているこっちまで泣きそうになる。全身で辛さや苦しさを表現しているようで。溢れてとめどない悲しみを、精一杯押し込めようとしているけれど。抑えることができなくて、また溢れ出して。


「悪い、言い過ぎた」


頬をなでで伝う涙を指で拭ってやると、また溢れた。サファイアの瞳からポロポロ溢れる雫は、もう止まらない。蛇口の壊れたように止まらない涙を、どうにかして止めてやりたくて、いろいろな言葉を探すけれど、頭の中をぐるぐるまわる言葉たちが、どうしても安っぽく思えてしまって、何も言えない。

言葉は、他の誰よりも知っているはずだ。なのに、肝心な時に何も言えない。どうしてコイツの前では、こっちまで弱くなってしまうんだろう。







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