ふたりぼっち | ナノ



今回の仕事は参った。移動に使う飛行船の調子が悪くなって、復旧に時間がかかりすぎた。盗品が無事だったことが唯一のラッキーだったと言える。疲れて帰り、ネクタイを外しながらそれを受取ろうとしてくれるアンナの声を注意して聞いていた。やはり、いつもよりも少し暗い。


「ただいま」

『おかえりなさい』


帰ってきてから、アンナは妙に元気がなかった。きっと眠れていないのだろうが、それにしても生気が感じられなかった。時々、こうなる時がある。ふとした時に感情が消えた瞳をして、なにか考えているような、もしくはぼうっとしているような、そんな不安定な状態に見える。


『なにかあったの?』

「飛行船がイって、持ち直すまでに時間がかかった。」

『・・・連絡、無かったから心配したよ』

「連絡手段が途絶えた」

『そっか、大変だったね』


無理に笑っているようだ。顔はいつもより青白い。アンナのことだ、きっと連絡がなくてこの数日はかなり動揺しただろう。それでもそんな素振りをみせない所に、少しジレンマを感じてしまう。


「それにお前がそんな顔するから、何も言えないんだ」


無意識に言ってしまった言葉に、アンナは驚いたような顔をした後に、また俯いた。少し申し訳ないことを言ってしまったかもしれない。


「どうした、言いたいことがあるなら言え」

『・・・っ』

「アンナ」

『・・・なんでも。なにも言いたいことはない』


アンナは、周りの様子をうかがい過ぎている。嫌われないように、呆れられないように、といつもどこかおどおどとしていて。よく笑ってはいるものの、時折見せる寂しそうな顔に、ついこっちも苛立ってしまう。

理不尽な怒りだということはわかっている。アンナがこちらに気を使ってくれていることはありがたいが、もっと自分をだせばいいだろう、と責めたくなる。だからつい意地の悪いことを言ってしまう。追い詰めれば、いつか泣きついてきそうで。泣きついて、助けを求めてきて欲しくて。


「どうした」

『・・・え、』

「眠れてないんだろう。おいで、もうベッドに行こう」


本当は寂しいくせに。もっと甘えたいくせに。こういう時だけ素直じゃない。




明日になったら
なにかが変わる?





数日して、たまたまアンナの顔色はだいぶ良くなったものの、やはり時折、寂しそうな顔をしている。原因がわからない。こちらが仕事に行っている間に、なにかあったのだろうか。今日の仕事にも、本音としては連れていきたくはなかった。しかし、公私混同はできない。元気がないから連れていかない、なんて理由にはならない。


『ーーー・・クロロ』


自分の持ち場を終わらせて、報告に来たアンナは生気を無くした人形のようだった。普段、仕事の時は冷酷な人形のような顔をするが、今日の彼女の顔色はいつもにもまして青白く、精巧な人形のようだった。

服がだいぶ乱れている。そう感じたのは、彼女がかなりの量の血を浴びている所為だろう。普段、返り血をあまり浴びないアンナが、ここまで血を浴びるのは、人数がかなり多かった時くらいだ。アンナはどんなときも、あまり応戦を求めたりしない。


『持ち場は全部、片付けたけど、』

「けど?」

『別のフロアの奴らも入ってきたみたいで、もう一度行ってくるね』

「体力を使ったなら、他の奴に任せろ」

『そんなに疲れてないよ』


アンナはスピードと殺しに関しては、クモの中でもピカイチだった。しかし、小さな体でかなりの運動量を使う。前線に立つことで体力を使えば、念を使う体力がなくなることが、こちらとしては心配だった。


「最後にお前の能力を使う。あまりにも疲れて、また誰かに背負ってもらって帰らないといけなくなる」

『・・・荷物になるってこと?』

「わざわざお前が前線に立たなくてもいい、ということだ。前線の代役は効いても、消す能力に関してはレアだ。代役はない」


アンナはなにも言わずに黙った。少し、言い方がきつかったかもしれないが、公私混同は許されない。

消す能力は、かなりのエネルギーを使う。最近は仕事で倒れたりすることはないが、大きな仕事でかなり念を使えば、立てなくなったり、歩くのがやっとなほどに疲労することもあった。あまり前線に立たせたくないのが本音だ。しかし、アンナはこちらがじれったくなるほどに、あまり弱みをみせない。


「自分でラインが引けないなら、手を出すな」

『・・・そんなことない』

「じゃあ、自分でなんとかしろ」

『・・・・はい』


少し俯いてから、アンナは走って行った。小さな背中が闇に消えていく様子を目で追いながら、軽いため息をついた。






×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -