ふたりぼっち | ナノ


私にはクロロの言葉が一番だから。

私は彼の言葉にしか信じないから。だから、クロロの言葉が無くなってしまえば私には信じるものが無くなってしまって。信じるものがなくなるということは、居場所がないということだ。私の居場所はここだ。ここが生きる場所なんだ。ここが無くなってしまえば、生きる意味がなくなってしまう。

ーーー・・いつまでそこにいるの
ーーー・・身の振り方、考えないの?
ーーー・・お前は他に行くとこがないから、オレの所にいるのか?

ただ認めてほしかった。そうすれば、クモにいることを許される。唯一の居場所を得ることができるような気がしていた。

しかし自分はこの世に生を受けた時からいつも居場所を求めていた。父様や母様に認めて欲しい。私も姉のように愛されたい、その一心で人を殺し続けた。クモのみんなに認められたいともがいている今となんら変わってなどいない。わからない、自分のことも何も知らない。



知ってるよ
優しい人はたくさんいる




この時計の針が、深夜12時を回った時、彼は行ってしまう。あの日から、ろくに会話もできていない。もう起きて、身支度は終えているころだろう。ベッドの中で、妙に落ち着かない身体を自分で抱きしめた。

お前は他に行くとこがないから、オレの所にいるのか?ーーーーそう言われて、なんでもっと大きな声で違うと言えなかったのだろう。確かに私にはどこにも他の居場所はない。ここしかないけれど、だからクロロのそばにいるわけじゃあない。本当に本心からクロロのそばにいたいから、いるんだ。他の居場所は、私の居場所じゃない。

部屋も別々だ。いってらっしゃい、と一言言葉を掛けることもできない。なんて悲しくて、なんて切ないんだろう。クロロに触れたいのに、触れてほしいのに、いまは近寄っただけで息ができなくなるくらい、苦しくなってしまうから。

コンコン、


「起きてる、だろう」


静かに響いたノックの音と、クロロの声。ベッドから起き上がって、ドアを開けようとドアノブに手をかける。


「開けなくていい、返事も無理にしなくていいから、少しだけ聞いてくれ」


ドアに手の平を当てて、瞳を閉じた。ドアを開けないまま声を聞いていると、気配と音から、彼もドアのかなり近くにいることが感じ取れる。声はいつものように、とても落ち着いていて静かな部屋に心地よく響いた。


「・・・愛してる、心から」

『・・・!』

「不安も苦痛も、受けとってやりたい。どれほどお前がオレのそばにいたくないと言ったって、どんな時もそばにいたい。そうしないと、なにも始まらないから」


泣きそうになった。こんな薄い板一枚を隔てた先に、心が苦しいほどに愛しい人がいるのに、こんなにも優しい言葉をかけてくれてくれているのに、私は何も言えずに黙ったままうつむいている。こんな近いのに、こんなにも遠いなんて。


「いってきます」

『・・・・っ』


早くドアを開けて、追いかけなきゃ。


『・・・・ぁ、・・』


声がうまくでない。いままで冷静だったのに、声も手も震えている。


『・・・・っ、・・』


クロロの気配が廊下から少しずつなくなっていき、とうとうなんの気配も感じなくなってしまった。また何もできず、何も言えなかった。チャンスは十分に与えられていたというのに。






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