「あ、フィンクスくん!」 いつものように遅刻するかしないかギリギリの時間に家をでるが。今日は少し早く目が覚めた。仕方がないから早くでるか、と家を出た瞬間に隣の家、つまりはアンナの家から声がした。アンナの母親が桜色の布にくるまれた弁当箱を手に、自転車まで駆け寄ってくる。 「あのこったら、お弁当忘れてったのよ。渡してもらっていい?」 「おー」 いつみても美人のアンナの母親から弁当を受け取り、カゴの中に入れる。 「(ちーせー、弁当)」 こんなんで足りるのか、と女の胃袋の小ささに感心する。そういえば、昔からアイツは甘いものばかりたべて晩飯をくわない、とよく母親に叱られてたっけ。 世の人は云う 女はいつだって、 王子を待ってるって 「アンナ」 『あれ、今日早いね?』 教室の手間でアンナに追いつき、声をかけるとヘラヘラと笑顔を見せてくる。まだ早いからか、人影の少ない校内は妙に落ち着かない。 「弁当忘れてただろ」 『わ、ありがと!』 「おう」 『そういえばフィンクス数学あたる日だよ』 「げ」 しかたないから教えてあげるよ、と笑うアンナにつられてこっちまで笑ってしまう。 席が隣同士になってから、ふたりの距離感が少しずつ昔と同じくらい近くなってきた気がしていた。それはたぶん、アンナの笑顔が日に日に、柔らかくなっているからかも知れないけれど。 |