いくつかもわからねえくらい、ガキの頃。 隣の家にひっこしてきた子だから仲良くするのよ、と母親に公園に連れてかれた。 公園にいたのは、赤いワンピースを履いた女の子で、同い年だという。もじもじと母親の背中に隠れてるその女の子は、すでに涙目。 「おまえ、なまえは?」 「こら、お前なんて言っちゃだめでしょう!」 「いで!」 ゴチン、と母親がオレの頭を殴ると隠れていた女の子は、少しだけ顔をだした。 『………アンナ、』 やっと聞こえるか聞こえないくらいの小さな声で呟いたアンナが、じれったくなって、隠れてるアンナの腕を掴んで、砂場に向かって歩く。 「砂あそびするぞ!」 『……う、うん!』 今まで涙目だったくせに、今度は満面の笑みでテコテコついてくる。その日、はじめてトモダチができた。 「フィンクスー、女の子には優しくしなさーい!」 「いいのよ。あのこ内気だから、ひっぱってくれる男の子のほうが」 くすくす笑うアンナの母親はすっげー美人だったのは、いまでも覚えてる。 なきむし いまもむかしも なきむしなキミ それから何年も経って、オサナナジミはあのころと変わって、髪も伸び、こっぱずかしい話だが、それなりに可愛い女の分類に入ってるんだと思う。 隣の席で、もう休み時間だというのに、授業中に間に合わなかったのか数学の板書をしながら、オサナナジミはちいさくアクビをした。成長したけどトロイのととなきむしは健在みたいだ。ふと、短いスカートが目にはいる。 「それヤメロよ」 『?』 「その、みっじけースカート」 『……っ!』 なにげなく隣の席のアンナの太ももを指差して、言ったつもりだった。 しかし、言われた張本人のアンナは驚いたような顔をしたあと、眉を歪ませてオレを睨む。ろくに返事もせずに、むっとした顔をして。 「おい、聞いてんのか?」 『……ばか!』 「は?」 『わ、わたしの脚が太いっていいたいの?見苦しい?』 「ち、ちげーよ」 ふるふると唇を噛み締めて、涙目で睨むアンナに焦って言葉を考える。 今にもアンナは泣きそうだ。涙目はいつものことだけれども、こうやって鼻をシュン、とすするのは、いまにも泣きそうだたという合図だった。 「あんまみじけーと、あぶねえってことだ!」 『……?』 「中学よりも階段多いし。お前むかしっからバカみてえに転ぶし、あぶねえってことだ!自覚しろ!」 『……う、うん』 強い口調で言えば、なぜかアンナは納得したように、そっかあ、と呟いた。 『…ごめ…んね、』 「ん」 なんでお前が謝ってんだ、と少し思ったけれど、まあよしとしよう。 昔っからアンナはいつもこうだ。相手が悪くても、納得させたるたら、なぜか自分から謝る。ただのバカ、と言えばそれまでなのかも知れないが。人が良すぎるから、どこぞの馬の骨に捕まってしまったら、そんなに好きじゃなくてもOKを出してしまいそうで、放っておけなかった。 そんなオサナナジミは、中学のまんなかあたりから、話しかけても妙に堅い顔をする。 コイツが堅い顔をするたびに、オレはなぜか昔のことばかり思い出す。昔は今よりも馬鹿面だった。へらへら笑って、ちょこちょこと背中をついてきてたのに。 昔と、なにもかも変わらないようで、本当はなにもかも変わってしまったのだろうか。 それに気づけていないのなから、オレはとんだ大馬鹿者だと、ため息がもれた。 |