貴方の居ない世界に意味は無いよ | ナノ



真新しい制服と、桜の匂い。

新入生はみんな掲示板に張り出された紙を、揃って見つめ、各々の名前を探していた。

友と同じクラスになれず落胆する人もいれば、喜びを分かち合う人、自分の名前をみつけた途端に興味なさそうに教室に向かう人、それぞれだ。



「やった!」

『マチと同じクラスで、ほんとよかったあ!』



高校生になって、普通に地元の高校に進学して、中学で仲の良かったマチと同じクラスになり喜んでいると、後ろの方で聞こえた声に、無意識に背中がビクついた。



「うっし同じクラスだぜ!フェイタン!」

「つくづく腐れ縁ね」

「いーじゃねェか、照れんなよ」



昔から聞き慣れた声のする方向に、ちらりと視線を向ける。

一年生なのに着崩した制服。みんなより一回り大きな背中。マチは紙に書かれた彼の名前を指さし、上機嫌に笑う。



「アンナの幼なじみも同じクラスじゃん」

『う…、うん』

「顔見知りが多くてよかった。高校でもよろしくね」

『うん!』



帰りに何か食べて帰ろうか、と話しながら教室に向かおうとした途端――――、ボカン、と頭に衝撃が走る。



『っっ、!』



鞄で私の頭を叩いた張本人を見上げる。いたずらっぽく笑ったフィンクスは、痛そうに頭を押さえる私を見て、さも愉快そうにまた笑う。



「おい、泣き虫アンナ」

『……うう、』

「お前ともまた同じクラスだから、よろしくな」

『……っ、知らない!』



悪ぶった素振りもなく、そう言ったフィンクスに私は素直になれず、拗ねたようにマチの手を引いて教室まで走る。



「はは、フィンクス嫌われたよ」

「るせー」



フィンクスとフェイタンが言い合ってる声がバカみたいに頭に響く。からかうような言葉が、また私を不機嫌にし、歩く速度を自然と速める。



「わわ、アンナ速いってば!」

『あ、ご、ごめんね』

「そんなことより、帰りは学校の近くの喫茶店にしよ」

『さんせーい』

「やっぱりあそこのケーキが一番だもんね」

『うん!』



マチは私の扱いがうまい。

こう言えば変な感じにはなるが、本当にそうだと思う。何か嬉しい事があれば、マチがその気持ちに気付いて、何があったのか聞き出してくれる。何か嫌な事があった時も、察して慰めてくれる。

今だって、少し機嫌を悪くした私を、ケーキの話題に切り替えて、途端に機嫌を直してくれる。



「今の季節はさ、野いちごのタルトがでるでしょ。アンナあれが一番すきだもんね」



中学で私はマチと仲良くなり、親友と呼び合うくらいまでの仲となった。

そしてフィンクスもまた、中学の途中で転校してきたフェイタンという男の子と仲良くなり、毎日のようにツルんでいた。

教室や下駄箱で顔を合わせれば、挨拶程度の会話はするが、それ以上の深い会話などはあまりしなかった。別にお互いに避けていた訳ではなかったとしても、年頃ということもあって、なんとなく距離をつくってしまったのだろう。

昔はフィンクスの考えてることは、私が一番よくわかった。

いま嬉しいんだな、
いまは悩んでるんだな、
いまは悲しいんだな、

言葉なんてなくたって、顔をみるだけでなんでもわかっていたのに。いまでは顔を直視することすら恥ずかしいくらいに、なってしまった。

せっかくフィンクスは、なんでもないように話しかけてくれたのに、もっと可愛げのあるリアクションをとればよかった、とまた後悔した。こうやって私はいつも選択肢を間違えてしまっていたんだろう。


方向性が
違っていた

きっと仕方がないんだ
だってこんなにも私とは
違うんだから



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